5. 精神的自由権
今回は憲法の分野の「精神的自由」に関する分野を攻略していきます。
自由権
自由権とは何か?
自由権とは、国家の権力的介入を排除し、個人の自由・独立を目指す権利のことです。
二重の基準論とは何か?
二重の基準論とは、精神的自由か経済的自由かによって、人権制約が憲法上許されるか否かの審査基準を使い分ける考え方です。
より具体的に言うと、
精神的自由を規制する立法➡厳格な基準
経済的自由を規制する立法➡緩やかな基準
を用いることです。
思想及び良心の自由
思想及び良心の自由とは何か?
憲法19条は、思想及び良心の自由を保障しています。
これは、人の内面的精神活動(内心)の自由を保障したものです。
第十九条
思想及び良心の自由は、これを侵してはならない。
思想及び良心の自由を侵してはならない意味
1.
個人が特定の思想を持つことを強要されたり禁止されたりしないこと。
2.
特定の思想の持ち主であることを理由に不利益な扱いをされないこと。
3.
思想の内容を明らかにするように強制されないこと。(沈黙の自由)
※ここで2は注意です。例えば、企業が思想・信条を理由に雇入れを拒んでも違法ではありません。また、採用や不採用を決めるために労働者の思想・信条を調査しても違法ではないというのが判例です。企業には雇用の自由があるからです。
この問題が争点となったのが謝罪広告事件と三菱樹脂事件です。
➡【重要判例】謝罪広告事件
➡【重要判例】三菱樹脂事件
信教の自由と政教分離原則
信教の自由
1. まず、信教の自由とは何か?
信教の自由とは、宗教の自由のことです。これには、信仰の自由・宗教的行為の自由・宗教的結社の自由が含まれています。
第20条 信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
2. 信仰の自由
信仰の自由とは、宗教を信仰し、または信仰しないことを自らの意思で決定できる自由のこと。そして、特定の宗教を選択したり変更したりする自由も含まれます。
3. 宗教的行為の自由
宗教行為の自由とは、宗教行為を行ったり、行わなかったりする自由のことです。
【重要判例】エホバの証人剣道実技拒否事件
この宗教的行為には、参加や不参加を強制されない自由も含まれます。
しかし、宗教的行為として行われたものでも、他人の生命・身体等に危害を及ぼすことはもちろん許されません。そのような行為を罰しても、憲法20条には違反しないと判例はいっています。
【重要判例】加持祈祷事件
政教分離原則
1. 政教分離って何?
政教分離原則とは、国家と宗教を分離し、国家の宗教的中立性を求める原則です。
憲法20条1項後段・3項、89条は、政教分離原則について定めています。
憲法20条1項
信教の自由は、何人に対してもこれを保障する。いかなる宗教団体も、国から特権を受け、又は政治上の権力を行使してはならない。
憲法20条3項
国及びその機関は、宗教教育その他いかなる宗教的活動もしてはならない。
憲法89条 公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない。
2. 目的効果基準論
国家の宗教的中立性を求めるといっても、社会経済政策を実施するうえで、国家と宗教は完全に切り離すことはできません。
例えば、現在日本にある文化財である寺院・神社などの建築物などを維持するのに国は補助金を出していますし、もし、国家と宗教を完全に分離することを考えた場合、上の例で挙げた文化財の保護以外にもさまざまな弊害が発生してしまいます。
そこで、判例では、行為の目的と効果に鑑み、相当とされる限度を超える宗教的活動のみを禁じています。
3. 宗教的活動
憲法20条3項は、国及びその機関が宗教的活動をすることを禁止しています。
ここでいう宗教的活動とは、行為の
目的が宗教的意義を持ち、その
効果が宗教に対する援助・助長・促進または圧迫・干渉等になるような行為をいうと判例では示しています。
【重要判例】津地鎮祭事件
【重要判例】愛媛玉串訴訟
【重要判例】砂川政教分離訴訟(空知太神社)
学問の自由と大学の自治
学問の自由
憲法23条では学問の自由を保障しています。学問の自由はが意味するのは、学問研究の自由・研究成果発表の自由・教授の自由です。
【重要判例】東大ポポロ事件
第23条 学問の自由は、これを保障する。
教授の自由
大学等の高等教育機関で教えることに関して教授の自由が認められていますが、
小・中・高校のような普通教育の場においては、一定の範囲で教授の自由が保障されますが、完全な自由を認めることができないというのが判例です。
【重要判例】旭川学力テスト事件
大学の自由
大学は、学問研究の中心機関です。そのため、憲法23条は、大学での学問を自由なものにするために、大学の自治を制度として保障しています。
しかし、判例は、実社会の政治的社会的活動に当たる行為をする場合には、大学のもつ特別な学問の自由と自治を享有しないといっています。
【重要判例】東大ポポロ事件
表現の自由
表現の自由とは何か
1. まず初めに表現とは何か
表現とは、人の内心における精神作用(思想・主張・意思・感情等)を外部に表明する活動とされています。
憲法21条1項は、集会・結社の自由とともに、表現の自由を保障しています。
第二十一条 集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
2. 表現の自由の優越性
表現の自由は、他の自由よりも一層慎重に行うべきである(
優越的地位)といわれています。なぜなら、表現の自由が大事であるからといって何でもかんでもゆるされるなら、困ったことになってしまいます。人間は、表現活動を通じて、事故の人格を形成し発展させ、また政治に参加する為です。
3. 知る権利
公権力の干渉を受けることなく、情報を受領・収集したり、国家に対して情報の公開を請求したりする権利です。
4. 報道の自由
事実を報道する自由は、思想を表明する自由と並んで憲法21条の保障の下にあると言うのが判例です。なぜなら、報道機関の報道は、国民が国政に関与するうえで、情報を提供し国民の知る権利に尽くしているからです。
【重要判例】博多駅テレビフィルム提出命令事件
5. 取材の自由
判例では、憲法21条から考え、取材の自由は、十分尊重するに値するといわれています。
しかし、これは一つランクの低い権利と見なされています。
また、判例では、公正な裁判の実現のために、取材の自由がある程度制約を受けることになってもやむを得ないとされています。
【重要判例】北海タイムス事件
また、憲法21条は裁判において新聞記者が取材源について証言を拒絶する権利まで保障しているわけではないと判例はいっています。
【重要判例】石井記者事件
また、判例では捜査機関による報道機関の取材ビデオテープに対する差押処分は、一定の要件の下では、憲法21条に違反しない。といっています。
【重要判例】TBSビデオテープ押収事件
6. 法廷でメモを取る自由
傍聴人が法廷でメモを取ることは、見聞する裁判を認識・記憶する為に行われる限り、尊重に値し、故なく妨げてはならないと判例ではいっています。情報に接し、摂取する自由を補助する為の筆記行為は、憲法21条1項の精神に照らして尊重されるべきだからです。
表現の自由に対する規制
1. 内在的制約
表現の自由も、公共の福祉による制約を受け、他人の利益(生命、健康、人間としての尊厳、正当な人権行使)を守るための内在的制約に服します。
2. 表現の自由に対する法規制
表現の自由に対する法規制は、必要最小限のものに限定され、法規制の合憲性は厳格な機銃にによって判断されるべきとされています。
3. 性表現の規制
刑法175条はわいせつな表現を禁止しています。これについて、判例は、性的秩序を守り、最小限度の性道徳を維持するために、わいせつな表現を禁止できるといい、刑法175条は、憲法に違反しないといっています。
判例では、わいせつについて、次のように定義しています。
「わいせつ」の定義
①いたずらに性欲を興奮または刺激させ
②普通人の正常な性的羞恥心を害し、
③善良な性的道義観念に反するもの
刑法175条
わいせつな文書、図画、電磁的記録に係る記録媒体その他の物を頒布し、又は公然と陳列した者は、二年以下の懲役若しくは二百五十万円以下の罰金若しくは科料に処し、又は懲役及び罰金を併科する。電気通信の送信によりわいせつな電磁的記録その他の記録を頒布した者も、同様とする。
2 有償で頒布する目的で、前項の物を所持し、又は同項の電磁的記録を保管した者も、同項と同様とする。
この問題が争点となった事件が以下のものです。
【重要判例】チャタレー事件/最大判昭32.3.13
表現の事前抑制
1. 表現の事前抑制の原則禁止
表現の事前抑制の禁止とは、表現行為がなされるのに先立って公権力が何らかの方法で抑制を行う事を言います。表現の事前抑制は、原則として許されないと解されています。
事前抑制は、思想の自由市場論とは相対する手段であり、過度に広範な規制になりやすく、また、濫用の危険が大きいからです。
2. デモ行進の事前抑制
デモ行進などの集団行動の自由は、動く集会、あるいは、その他の表現として、憲法21条1項で保障されています。そのため、公安条例によって、一般的な許可制を定め、集団行動を事前に抑制することは、憲法の趣旨に反し許されないといのが、判例です。ただし、特定の場所または方法について、合理的かつ明確な基準の下で、事前規制は出来ると判例は行っています。
このことが問題となった事件が以下のものです。
【重要判例】東京都公安条例事件
【重要判例】新潟県公安条例事件
3. 検閲の禁止
憲法21条2項前段は、検閲を禁止しています。
検閲を禁止しています。検閲について、判例は、「行政権が主体となって、思想内容等の表現物を対象とし、その全部または、一部の発表の禁止を目的として、対象とされる一定の表現物につき、網羅的一般的に、発表を禁止することをその特質として備えるもの」であるといっています。そして、判例は、検閲を絶対的に禁止し、例外を許さないといっています。
・検閲の特徴
1.行政権が主体である事
2.表現物の発表前の禁止を目的とすること
3.発表前に網羅的一般的に審査すること。
第21条2項 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
4. 税関検査
税関検査は、検閲に当たらないというのが、判例です。税関検査の対象である表現物は、国外ではすでに発表済みであり、また、税関検査は、関税徴収手続きに付随しておこなわれているにすぎず、思想内容自体を網羅的に審査し規制するものではないからです。
【重要判例】札幌税関検査事件
5. 教科書検定
教科書検定とは、学校用教科書として出版しようとする書物を国家が審査し、不適格と認めた場合、教科書としての資格を与えないという制度です。この制度は教室への入場制限にすぎず、一般図書としての発行まで禁じるものではありません。そのため、教科書検定は、検閲には当たらないというのが判例です。
6. 裁判所による表現の事前差し止め
裁判所による表現の事前差し止めは、主体が裁判所であって、行政権ではないので、検閲には当たりません。しかし、これは、表現の事前抑制ですから、原則として許されません。
このことが問題となったのが、以下の北方ジャーナル事件でした。
【重要判例】北方ジャーナル事件
次は経済的自由・人身の自由と社会権について取り上げています。
➡6. 経済的自由・人身の自由と社会権