2019年8月29日木曜日

3. 紛争解決・・裁判で紛争を解決する方法・裁判以外で紛争を解決する方法

3. 紛争解決



裁判による紛争解決

裁判制度

裁判とは何か?

裁判とは、裁判所または裁判官が事実を認定し法を適用して具体的な事件を解決する判断行為のことを言います。法の適用の前提となる事実のある無いを確定できない場合でも、裁判所または裁判官は、裁判を拒否できません。国民に裁判を受ける権利が保障されているからです。

最高裁判所の裁判

最高裁判所の審理や裁判は、全裁判官による大法廷または3人以上の裁判官による小法廷で行います。法令等の憲法違反の判断や最高裁判所の判例を変更する場合には、大法廷で裁判をしなければなりません。

最高裁判所は、法令に違反するか否かを審査する法律審です。しかし、判決に重大な影響を及ぼす重大な事実の誤認などがあった場合など、事実認定が問題となることもあります。

高等裁判所の裁判

高等裁判所の裁判は、法に特別の定めがある場合を除いて、複数の裁判官による合議制で行われます。3名の裁判官による合議制が原則となりますが、5名の場合もあります。合議によって意見が一致しなくても、少数意見を付すことはできません。少数意見を付けられるのは最高裁判所だけです。

高等裁判所は、通常、第二審裁判所となります。しかし、高等裁判所が第一審裁判所になる場合もあります。

地方裁判所の裁判

地方裁判所の裁判は原則として1名の裁判官によって行われます。
ただし、事案の性質によっては、3名の裁判官の合議制で行われる場合もあります。
裁判所法26条

家庭裁判所の裁判

家庭裁判所は、家庭に関する事件と少年事件を扱います。その他にも簡易訴訟など、訴訟事件も扱います。家庭裁判所の裁判も、地方裁判所と同様に、原則として1名の裁判官によって行われますが、事案の性質によっては3名の裁判官の合議制で行われる場合もあります。

簡易裁判所の裁判

簡易裁判所は、軽微な事件の処理のために設けられた下級裁判所です。訴訟の目的の価値が一定額を超えない請求に関する民事事件の第一審および罰金以下の刑に当たる罪など一定の軽微な犯罪。


民事裁判

民事訴訟って何?

民事訴訟というのは、私人間の紛争を国の裁判権によって強制的に解決する手続きです。手続きの進め方など、民事訴訟のルールを定めているのが民事訴訟法です。

民事訴訟の進め方

民事訴訟は、当事者(原告)の訴えがあって初めて開始されます。民事訴訟を利用するか否か、審判の対象と範囲をどうするかは、当事者の意思に委ねられています。これを処分権主義といいます。

民事訴訟の終了

民事訴訟は、裁判所の最終的な判断である判決によって終了するのが原則です。しかし、当事者の意思によって訴訟を終了させることもできます。

判決によらず当事者の意思による訴訟の終わらせ方

①訴えの取り下げ
②請求の放棄・認諾
③訴訟上の和解
のいずれかにより、当事者は訴訟を終了させることができます。

刑事裁判

罪刑法定主義って何?

罪刑法定主義とは、「法律なくば刑罰なく、法律なくば犯罪なし」と定義される原則です。どのような行為が罪になり、それに対してどのような刑が科されるかは、国民の代表が制定した法律で(法律主義の原則)、予め定めておかなければならない(事後法禁止の原則)というのです。そのため、慣習や物事の筋道や道理(条理)を刑法の直接の法源とするのは禁止されています。
また、刑罰法規は、施工後の行為にのみ適用され、施行後の行為に遡って適用してはなりません。

和解を申し立てることもできます。

民事訴訟法 第二百六十五条  
裁判所又は受命裁判官若しくは受託裁判官は、当事者の共同の申立てがあるときは、事件の解決のために適当な和解条項を定めることができる。 
2 前項の申立ては、書面でしなければならない。この場合においては、その書面に同項の和解条項に服する旨を記載しなければならない。 
3 第一項の規定による和解条項の定めは、口頭弁論等の期日における告知その他相当と認める方法による告知によってする。 
4 当事者は、前項の告知前に限り、第一項の申立てを取り下げることができる。この場合においては、相手方の同意を得ることを要しない。 
5 第三項の告知が当事者双方にされたときは、当事者間に和解が調ったものとみなす。


そして、当事者の合意内容を記載した、調書には、確定判決と同一の効力が認められています。

民事訴訟法 第二百六十七条 
和解又は請求の放棄若しくは認諾を調書に記載したときは、その記載は、確定判決と同一の効力を有する。

調停

調停って何?

調停というのは、第三者が当事者を仲介して、その紛争の解決を図ることを言います。当事者が合意に達して初めて解決するのであって、第三者の案は、当事者を拘束しません。調停は、当事者の互いに譲り合うこと(互譲)によって、物事の筋道や道理(条理)にかない、実情に即した解決を図る方法です。


仲裁

仲裁って何?

仲裁というのは、当事者の合意に基づき、第三者の判断によってその当事者間の紛争を解決することです。調停と異なり第三者の判断が当事者を拘束します。


裁判外紛争解決手続(ADR)

裁判外紛争解決手続(ADR)というのは、裁判所の訴訟手続によらずに、民事上の紛争を解決しようとする当事者のために、公正な第三者が関与する手続のことです。同法制度改革の一環として、この手続が整備されています。

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2019年8月28日水曜日

無権代理人の本人単独相続(所有権移転登記抹消登記手続事件)とは?・・行政書士試験の重要判例

【重要判例】無権代理人の本人単独相続

 所有権移転登記抹消登記手続事件/最判昭40.6.18



どうもTakaです。今回は本人が死亡し、無権代理人が本人を単独相続した場合に、無理代理人は本人の地位に基づいて、当該無権代理行為を追認拒絶できるか?が争点となった所有権移転登記抹消登記手続事件(無権代理人の本人単独相続)について紹介したいと思います。


無権代理人の本人単独相続の内容

【重要判例】無権代理人の本人単独相続  所有権移転登記抹消登記手続事件/最判昭40.6.18
無権代理人の本人単独相続

Bさんは、Aさんから代理権を付与されていないにもかかわらず、Aさんの代理人として、Cさんに対し、Aさん所有の土地を売却し、所有権移転登記がなされた。その後、Aさんは死亡し、Bさんは単独でAを相続した。


無権代理人の本人単独相続の争点


本人が死亡し、無権代理人が本人を単独相続した場合に、無理代理人は本人の地位に基づいて、当該無権代理行為を追認拒絶できるか?


判決のポイント


追認拒絶できない。
無権代理人が本人を単独相続した場合には、無理代理行為は本人がした行為ということになり、無権代理人が追認拒絶することはできないことになる。つまり、当然有効ということである。


判決要旨(最高裁判所HP)


無権代理人が本人を相続し、本人と代理人との資格が同一人に帰するにいたつた場合には、本人がみずから法律行為をしたのと同様な法律上の地位を生じたものと解するのが相当である。

➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和39(オ)1267

無権代理人の本人共同相続(土地所有権移転請求権仮登記抹消登記等事件)とは?・・行政書士試験の重要判例

【重要判例】無権代理人の本人共同相続(土地所有権移転請求権仮登記抹消登記等事件)/最判平5.1.21



どうもTakaです。今回は、本人が追認しないまま死亡し、無理代理人が他の相続人と共に本人を共同相続した場合に、その相続分について無理代理行為が当然に有効となるかどうかが争われた「無理代理人の本人共同相続」(土地所有権移転請求権仮登記抹消登記等事件)について紹介したいと思います。

無理代理人の本人共同相続の内容


Aが負担する貸金債務について、代理権のないYがBを連帯保証人とする連帯保証契約を締結した。その後、Bは死亡し、Bの配偶者Cと子Yが共同でBを相続した。そこで、債権者XがYに対して貸金の支払いを請求した事件です。


無理代理人の本人共同相続の争点


本人が追認しないまま死亡し、無理代理人が他の相続人と共に本人を共同相続した場合に、その相続分について無理代理行為が当然に有効となるか?


判決のポイント


無理代理人が本人を共同相続した場合には、他の共同相続人の追認がない限り、無権代理行為は、無権代理人の相続分についても、当然に有効とはならない。単独相続の場合とは結論が異なることに、注意が必要である。


判決要旨(最高裁判所HPより抜粋)


無権代理人が本人を共同相続した場合には、共同相続人全員が共同して無権代理行為を追認しない限り、無権代理人の相続分に相当する部分においても、無権代理行為が当然に有効となるものではない。

➡最高裁判所HP・・ 平成4(オ)87

2019年8月27日火曜日

2. 法令用語と法の解釈

2. 法令用語と法の解釈


法令を読んでいく上で、さまざまな用語がでてきます。このページではそれらの用語で頻出の用語とその解釈についてまとめています。

法令によく出てくる言葉の意味

「又は」と「若しくは」について

「又は」と「若しくは」は複数の語句が選択の関係にあるときに連結する接続詞です。

「又は」・・・大きな意味での選択的連結
「若しくは」・・・小さな意味での選択的連結


「及び」と「並びに」について

「及び」と「並びに」は両方とも複数の語句を併合的に連結する接続詞です。
「及び」・・・大きな意味での併合的連結
「並びに」・・・小さな意味での併合的連結


「適用」と「準用」について

「適用」・・・その規定をそのまま当てはめること
「準用」・・・その規定の対象とは本質的には異なる事項に一定の補正を加えた上で当てはめること。


「科する」と「課する」について

「科する」・・・刑罰や民事罰等の制裁を加えること
「課する」・・・租税等の負担を命じること


「みなす」と「推定する」について

「みなす」
・・・一定の法律関係について二つの事実を同じく見て、一方の事実の法律効果を他方にも発生させること。反証によって崩すことができない。絶対同一視すること。

「推定する」
・・・一定の法律関係について二つの事実を同じく見て、一方の事実の法律効果を他方にも発生させること。ただし、推定するにすぎず、反証によって推定を崩すことができる。


「侵す」と「犯す」の違い

「侵す」・・・権利自由を侵害すること
「犯す」・・・犯罪行為を行うこと


「善意」と「悪意」の違い

「善意」・・・ある事実を知らないこと
「悪意」・・・ある事実を知っていると


「権原」と「権限」の違い

「権原」・・・ある行為を正当化する法律上の原因
「権限」・・・法律上認められている行為の限界、範囲


「直ちに」と「速やかに」と「遅滞なく」

「直ちに」・・・最も時間的に短い概念で、「すぐに」行うという意味。
「速やかに」・・・できるだけ早くという意味。
「遅滞なく」・・・「直ちに」や「速やかに」よりも余裕があり、少しの遅れは許される。


法(条文)の解釈

条文の解釈とは何か?

条文を読み、その意味を汲み取り解釈して問題となっている事実に当てはめて考えることが法律に携わる人の仕事のスタートとなります。解釈とは、もともと、意味を認識することをいいます。しかし、条文(法)の解釈は、法の適用の予備的作業であり、単なる意味の認識にとどまりません。

解釈の方法

文理解釈

条文の文言の意味から論理的に導く解釈のことを文理解釈といいます。

拡張(拡大)解釈と縮小解釈

拡大解釈・・・条文の文言の範囲内で通常よりも広く解釈すること
縮小解釈・・・条文の文言の範囲


次は、基礎法学の紛争解決について説明しています。
➡【リンク】3. 紛争解決

【重要判例】実印と正当理由

【重要判例】実印と正当理由/最判昭27.1.29


【重要判例】実印と正当理由/最判昭27.1.29


実印と正当理由の内容


Aさんが南方に赴任して不在中、妻Bが、保管を託されていたAさんの実印を使用して、Aさん所有の宅地・建物をCさんに売却した。

実印と正当理由の争点


実印を保管していることが、妻に土地売却の代理権があると信ずるべき正当な理由があるとはいえ、表見代理が成立するか?

判決のポイント


実印保管では、妻に土地売却の代理権があると信ずべき正当な理由がるとはいえず、表見代理は成立しない。


判決要旨


夫が陸軍司政官として南方に赴任して不在中、妻が無断で夫を代理し、夫所有の土地建物の売買契約をした場合、たとえ当時妻が夫の実印を保管していた事実があり、また妻および仲介者等が買主に対し、自ら代理権があると告げた事実があつたとしても、それだけでは、未だ買主は、右売買契約の締結につき、妻において夫を代理すべき権限をもつていたと信ずべき正当の理由があつたということはできない。


➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和24(オ)153

2019年8月26日月曜日

【行政書士試験】代理制度のトレーニング問題

【行政書士試験】代理制度のトレーニング問題



●次の問のうち正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。


★代理とは


(1)代理とは、ある人のした意思表示の効果を直接他の人に帰属させる制度である

〇…問題文の通り。


★代理人の種類


(2)代理人は、任意代理、法定代理、復法定代理の3種類に区分される。

×…代理人は、任意代理、法定代理の2種類に区分される。


★任意代理


(3)任意代理とは、本人の意思に基づいて選任された代理人による代理行為である。

〇…問題文の通り。相手方との交渉を弁護士に依頼するようなこと。


(4)任意代理人がすることができる代理行為の範囲は、法律で定まっている。

×…任意代理人のできることは、本人の授権の範囲によって決まる。


★法定代理


(5)法定代理人は、現状、未成年者に対する親権者及び未成年者に親がいない場合の未成年後見人だけである。

×…法定代理人には、親権者、未成年後見人のほか、成年被後見人に対する後見人などがある。


★代理権の範囲


(6)Aさんは、留守中に財産の管理につき単に妻Bさんに任せるといって海外へ単身赴任したところ、BがAの現金をA名義の定期預金としたときは、代理権の範囲外の行為に当たり、その効果はAに帰属しない。

×…代理権の範囲がはっきりしない場合、代理人にできるのは、保存行為と、現状を変更しない限度での利用・改良行為だけである。問題は現状を変更しない限度での利用行為に当たるので(例:利子付きでお金を貸すなどの収益を図る行為)その効果はAに帰属する。


★自己契約と双方代理


(7)売買契約において、売主が買主の代理人になることを自己契約といい、そして、第三者が、売主の代理人になるとともに、買主の代理人にもなることを双方代理という。

〇…問題文の通り。


★復代理人


(8)復代理人とは代理人が選任した代理人である。

〇…問題文の通り。


★顕名主義


(9)顕名主義とは、代理人であることを明らかにして、代理行為を行わなければならないという主義のことである。


〇…代理人であることを示さないで行った行為は、代理人が自分のために行った行為とみなされる。

民法100条 
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第一項の規定を準用する。


★法定代理人


(10)法定代理人の場合は、原則として、復代理人を自由に選任できる。

〇…例:親(法定代理人)は未成年の子供(本人)の弁護人(復代理人)を選任することができる。


★無権代理


(11)無権代理人がした契約において、契約時に無権代理だと知らなかった相手方は、本人が追認する前なら自由に取り消すことができる。

○…無権代理人だと知らなく契約したので、取り消すことができる。ただし、本人追認後は正式な代理人と変わりがなく、自由に取り消すことはできなくなる。

民法 115条 
代理権を有しない者がした契約は、本人が追認をしない間は、相手方が取り消すことができる。ただし、契約の時において代理権を有しないことを相手方が知っていたときは、この限りでない。

★表見代理


(12)本人Aさんが代理人Bさんの代理権を解いたが、Bさんが担当していた取引先のCさんに連絡をせず、CさんはBさんがまだ代理人であると信じて契約をしてしまった場合、Aさんは契約に対して責任がある。

○…Bさんの代理権が解かれたことを知らされていないCさんにとっては、Bさんは表見代理人であり、表見代理人の行為はCさんを保護するために有効である。

民法109条 
無効な行為は、追認によっても、その効力を生じない。ただし、当事者がその行為の無効であることを知って追認をしたときは、新たな行為をしたものとみなす。

民法110条 
前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。

3. 代理制度・・自分の代わりに!?事例を条文にあてはめられるように繰り返し学習しましょう。

3. 代理制度

3. 代理制度・・自分の代わりに!?事例を条文にあてはめられるように繰り返し学習しましょう。

どうもTakaです。今回は代理制度について紹介したいと思います。




代理とは何か


代理の特徴


代理とは、ある人(代理人)のした意思表示の効果を直接他の人(本人)に帰属させる制度です。代理人が代理権の範囲内で有効な代理行為を行うと、その効果は、代理人ではなく、本人に帰属します。

任意代理と法定代理


代理には、任意代理と法定代理があります。
任意代理・・・本人の意思(信任)に基づく代理
法廷代理・・・本人の意思とは無関係に法律の規定を根拠として発生する代理


代理権


代理権の発生


代理権とは、代理人が自分の意思表示の効果を本人に帰属させるための権限(資格・地位)です。
任意代理の場合には、本人が代理権を授与します。これに対して、法定代理の場合には
本人の意思とは無関係に、法律の規定に基づき、一定の身分関係のあるものに当然代理権が発生したり、本人以外の者の指定や家庭裁判所の選任などによって代理権が発生したりします。


代理権の範囲


任意代理の場合、代理権によって何ができるのか(代理権の範囲)は、本人の意思によります。
これに対して、法廷代理における代理権の範囲は、法律で定められています。
代理権の範囲がはっきりしない場合、代理人にできるのは、財産の現状を維持するための行為(保存行為)と現状を変更しない限度での利用や価値を増加させる行為(改良行為)だけです。

民法 第103条 
権限の定めのない代理人は、次に掲げる行為のみをする権限を有する。 
一 保存行為 
二 代理の目的である物又は権利の性質を変えない範囲内において、その利用又は改良を目的とする行為

自己契約・双方代理


1. 自己契約。双方代理とは何か?


売買契約において、売主が買主の代理人になることを自己契約といいます。そして、第三者が、売主の代理人になると共に、買主の代理人にもなることを双方代理と言います。

2. 自己契約と双方代理の禁止

(用語の整理)
債務の履行・・・契約などによって発生した義務を実行すること。

自己契約と双方代理は、いずれも禁止されています。
民法108条
これらは、当事者の一方が不当な不利益を被る恐れがあるからです。
ただし、債務の履行や本人があらかじめ許諾した行為については、一方が不当な不利益を被るおそれがなく、これらには、例外的に自己契約や双方代理が許されます。
民法108条
【重要判例】大判大12.5.24
【重要判例】最判昭43.3.8


代理権の濫用


代理人が本人のためではなく、自己または第三者の利益を図るために
代理行為を行った場合(代理権の濫用)について、判例は、民法93条を類推適用しています。このような代理行為も、原則として有効ですが、相手方が代理人の真意を知っていた場合、または知らないことに過失があった場合には、本人は無効を主張できるというのです。
【重要判例】代理権の濫用


代理権の消滅

代理権は、本人や代理人の死亡・破産手続開始の決定などによって消滅します。
民法111条、民法653条

また、代理人が後見開始の審判を受け、成年被後見人になっても、代理権は消滅しません。しかし、本人が後見開始の裁判を受け、成年被後見人になっても、代理権は消滅しません。

復代理人


復代理人って何?

復代理人とは、代理人が選任した本人の代理人です。復代理人は、代理人が選任したり、解任したりします。しかし、代理人の代理人ではなく、本人を直接代理する本人の代理人です。
民法107条1条

復代理人の選任


本人との特別な信頼関係に基づいて代理権を授与された任意代理人は、自ら代理権を行使することが強く求められます。そのため、復代理人を選任できるのは、本人の許諾を得た場合、またはやむを得ない事由のある場合だけです。

第104条 
委任による代理人は、本人の許諾を得たとき、又はやむを得ない事由があるときでなければ、復代理人を選任することができない。

これに対して、法定代理人は、本人との信頼関係に基づいて代理権を授与されたわけではないため、いつでも復代理人を選任することができます。
第106条 
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、前条第一項の責任のみを負う。

代理人の責任

復代理人が選定されても、代理人の代理権が消滅するわけではなく、代理人は依然として代理人です。そして、代理人は、復代理人の行為について一定の責任を負います。
任意代理人は、復任権が限定されているため、復代理人の選任・監督についてのみ責任を負うのが原則です。

第105条 
1項 
代理人は、前条の規定により復代理人を選任したときは、その選任及び監督について、本人に対してその責任を負う。 
2項 
代理人は、本人の指名に従って復代理人を選任したときは、前項の責任を負わない。ただし、その代理人が、復代理人が不適任又は不誠実であることを知りながら、その旨を本人に通知し又は復代理人を解任することを怠ったときは、この限りでない。

これに対して、法定代理人は復代理人の行為について全責任を負うのが原則です。

第106条 
法定代理人は、自己の責任で復代理人を選任することができる。この場合において、やむを得ない事由があるときは、前条第一項の責任のみを負う。

復代理人の権限

復代理人の権限は、代理人の代理権を基礎として成立しています。そのため、代理権が消滅してしまいます。また、復代理人の権限は、代理権の範囲内で代理人が代理人が授与した範囲に限定されます。
復代理権の授与は、代理人と復代理人との合意でなされ、本人が直接タッチするわけではありません。しかし、便宜を考え、復代理人は、本人に対して直接権利を持ち義務を負うとされています。
民法107条2項


顕名主義


顕名ってなに?

代理人が行う意思表示は、本人のためにすること(代理意思)を示して行う必要があります。
第99条 
1項 
代理人がその権限内において本人のためにすることを示してした意思表示は、本人に対して直接にその効力を生ずる。 
2項 
前項の規定は、第三者が代理人に対してした意思表示について準用する。

この代理意思を表示することを顕名と言います。


顕名のない意思表示


顕名のない意思表示は、原則として代理人の意思表示とみなされます。

民法100条 
代理人が本人のためにすることを示さないでした意思表示は、自己のためにしたものとみなす。ただし、相手方が、代理人が本人のためにすることを知り、又は知ることができたときは、前条第1項の規定を準用する。

代理人であることを明らかにしないと、意思表示の効果は、代理人に帰属します。ただし、相手方が代理意思を知っていた場合、または過失があるために代理意思を知ることができなかった場合には、本人に効果が帰属します。


本人の名で行なった代理行為


代理人が自分の名前を出さず、直接本人の名前で代理行為を行なった場合も、原則として代理行為は有効であり、その効果は本人に帰属します。


代理行為の瑕疵


瑕疵の有無の判断


代理行為の効力に問題が生じた場合に、まず考慮すべきは、代理人の事情です。代理行為の瑕疵や善意・悪意などの判断は、代理人について行うのです。
民法101条1項

現実に意思表示を行うのは、代理人だからです。
しかし、代理人が委託された特定の法律行為を本人の指図に従って行なった場合には、本人の事情を考慮します。
民法101条2項

代理と詐欺


相手方が代理人に対して詐欺を行なった場合、代理人が騙された以上民法101条1項により、その代理行為は、取り消すことができます。ただし、代理行為の効果は本人に帰属しますから、取消権をもつのは、本人です。
また、判例では、代理人が相手方に対して詐欺を行なった場合にも、民法101条1項を適用し、本人の善意・悪意を問わず、相手方は取り消すことができるとしているようです。


代理人の能力


意思能力

代理人にも意思能力が必要です。代理人は、自ら意思を決定し、それを表示するのですから、意思能力は当然必要となります。

行為能力

しかし、代理人に行為能力は必要なく、未成年者や成年被後見人でも代理人になれます。
民法102条

代理行為の効果は本人に帰属し、代理人の保護を考える必要がないからです。

無権代理


無権代理とは何か?


無権代理とは、代理権がないのに代理行為をしたり、与えられた代理権の範囲外の行為をしたりすることをいいます。無権代理の効果は、本人に帰属しません。

民法 第113条 
1項 
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 
2項 
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

無権代理行為の追認


1. 追認とは何か?


無理代理権の効果が、本人に帰属しないのは、本人の利益を考慮したものにすぎず
公序良俗違反のような絶対的無効ではありません。そのため、本人が追認すると、本人に効果が帰属します。ここでいう追認とは、無権代理行為を有効な代理行為と同じに扱うという本人の意思表示であり、効果帰属の承認を意味します。

2. 追認の方法


追認は、単独行為であり、、本人が一方的に行うことができます。追認は、相手方に対して行なっても良いし、代理人に対して行なってもよいです。ただし、相手方に対して行うか、相手方がそれらの事実を知るか、いずれかでないと、相手方に主張することができません。

民法 第113条 
1項 
代理権を有しない者が他人の代理人としてした契約は、本人がその追認をしなければ、本人に対してその効力を生じない。 
2項 
追認又はその拒絶は、相手方に対してしなければ、その相手方に対抗することができない。ただし、相手方がその事実を知ったときは、この限りでない。

3. 追認の効果


追認には、原則として遡及効(法律や法律要件がその成立以前にさかのぼって効力をもつこと)があります。そのため、追認によって、無理代理行為は、その行為の時から本人に効果が帰属していたことになります。


本人と無権代理人の地位の同化


1. 無権代理人が本人を単独相続


判例では、無権代理人が本人を単独相続した場合には、無権代理人と本人との資格が一体となり、本人が自ら法律行為をしたものと同じになるから、無権代理行為は治癒され、法律行為の効果は、当然に本人を相続した無権代理人に帰属するといいます。
【重要判例】最判昭40.6.18
また、第三者が無権代理人を相続後に本人を相続した場合には、無権代理人が本人を相続したのと同様の状態になるので、当然に有効となると言っています。

2. 無権代理人が本人を共同相続


無権代理人が他の相続人とともに本人を共同相続した場合には、無権代理行為が当然に有効になるわけではないと、判例はいっています。

3. 本人が無権代理人を相続


本人が無権代理人を相続した場合は、判例では、本人の資格で追認を拒絶することもできるが、民法117条の責任を免れることはできないといっています。
【重要判例】無権代理人を相続した本人の責任/最判昭48.7.3

相手方の催告権

無権代理行為の相手方には、催告権があります。相手方は本人に対して相当の期間内に追認するか否かを確実に答えるように催告することができ、本人が答えない場合には、追認を拒絶したとみなされます。

民法 第114条 
前条の場合において、相手方は、本人に対し、相当の期間を定めて、その期間内に追認をするかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、本人がその期間内に確答をしないときは、追認を拒絶したものとみなす。

善意の相手方の取消権


代理権のないことを知らない善意の相手方には、取消権もあります。本人が追認するまでの間であれば、代理権のないことを知らずにした契約を取り消すことができます。ただし、契約を取り消すと、その契約は初めから無かったことになるので、無権代理人の責任追求などの手段を取ることはできなくなります。また本人が契約を追認することもできなくなります。

無権代理人の責任追及


代理権のないことについて善意無過失の相手方は、無権代理人の責任を追及し、無権代理人に対して本来の履行・損害賠償のいずれかを選択して請求することができます。



表見代理


代理権授与の表示による表見代理


表見代理とは、無権代理行為がなされたことについて本人にも落ち度があり、相手方が代理人であると信じ、そう信じるのも無理がないという場合に、無権代理行為の効果を本人に帰属させようという制度です。
代理権などないのに、あるかのような外観を作り出した者は、その責任を負わなければなりません
次の要件を満たす場合には、表見代理が成立し、本人は、無権代理行為の効果帰属を拒めなくなります。
民法109条

①本人が代理権を与えたと表示したこと
②表示された代理権の範囲内で、無権代理人が代理行為をしたこと
③相手方が代理権のないことを知らず、かつそのことに過失のないこと(善意無過失)



権限外の行為による表見代理


一応代理権のある者がそれを超える行為をした場合、そのような代理人を選任した本人がリスクを負担し、代理人の行為について責任を負わなければなりません。次の要件を満たす場合には、表見代理が成立し、本人は、効果帰属を拒めなくなります。

民法110条 
前条本文の規定は、代理人がその権限外の行為をした場合において、第三者が代理人の権限があると信ずべき正当な理由があるときについて準用する。


①何らかの代理権(基本代理権)があること
②基本代理権を超えた行為がなされたこと
③相手方が権限ないと信じる正当な理由があること

【重要判例】最判昭39.4.2
【重要判例】最判昭46.6.3
【重要判例】最判昭44.12.18
【重要判例】最判昭44.12.19


代理権消滅後の表見代理


かつて代理権を持っていた者が、その代理権の範囲内で代理行為を行なった場合にも、善意無過失の相手方を保障するため、表見代理の成立が認められています。


表見代理と無理代理人の責任


表見代理が成立するといっても、それは無理代理の一種ですから、相手方は、表見代理を主張せず、あくまで民法117条の無理代理人の責任を追及することもできます。判例は、両者は独立した選択可能な手段であり、相手方はどちらでも好きな方を選択して良いといっています。
【重要判例】最判昭62.7.7

無理代理人は、表見代理人の成立を理由に自分の責任を免れることはできないのです。
また、表見代理が成立しても、善意の相手方は、取り消し権を行使することもできます。
民法115条
逆に、本人が追認することもできます。
民法113条

つぎは、民法の分野の時効ついて紹介しています。
➡【リンク】4. 時効制度

2019年8月24日土曜日

【行政書士試験・基礎法学】1. 法の基礎知識

1. 法の基礎知識



どうも今回は、基礎法学の基本知識について紹介したいと思います。法令用語や法の効力といった基礎は、他の科目の学習に役立つので、力にしたいところです。

法はどのように分類されるのか

法とは何か?


改めて、振り返ってみましょう。法とは、社会生活を規律している規範のことです。法は人同士のトラブルを正すために社会秩序の維持を目的としたものであり、人間の行動選択の基準となり得るものです。


成文法と不文法


文章に表された法を成文法といいます。そうでないものを不文法と言います。
不文法の例は、判例や慣習法などがあります。

近代法治国家の原則的な法形式は、成文法です。成文法のメリットは法的安定性に有用であるということですが、具体的妥当性を犠牲にするデメリットがあります。
またメリットとして、社会の構成員に行動基準を示したり、裁判官に裁判の基準を示したりすることができますが、時代の変化に即応できないと言うデメリットもあります。

一般法と特別法


適用領域の限定された法が特別法であり、限定されない法が一般法です。
法律と法律、条例と条例などの、同一の法形式では、特別法が一般法に優先することになっています。(これを特別法優先の原則といいます。)

新法と旧法


新たに制定された新法が、それ以前に制定されていた旧法に優先する原則もあります。
では、新しく制定された新法が一般法で、それ以前に制定されたいた旧法が特別法であった場合はどうなるのでしょうか?この場合は、特別法であることが優先され、旧法であっても特別法が一般法より優先されます。

実体法と手続法


実体法は、法律関係の内容を定める法のことを言います。これに対して、実体法が定めた法律関係を実現する手続を定めたものを手続法といいます。例えば、民法・刑法は実体法であり、民事訴訟法・刑事訴訟法は手続法です。


憲法・法律・命令


憲法について


憲法については以前のページで説明してきましたが、再度おさらいを兼ねてもう一度確認しておきましょう。憲法は国の最高法規です。日本国憲法の改正には、通常の法律の改正よりも厳格な手続きが定められています。このように通常の法律よりも改正手続きが厳格な憲法を硬性憲法といいましたね。

法律について


法律とは、国会の制定する法のことです。法律を制定する国家機関は、国会だけであり、法律の制定過程に他の機関が関与してはならないのが原則です。法律の所管事項は、憲法が直接規定している事項を除き、法律の形式によって規律すべき事項のあらゆる分野にわたることができます。

命令について


命令というのは、行政権が制定する法の総称です。命令には、内閣が制定する政令、各省大臣が制定する省令などがあります。


法の効力

法の公布・施行


法は、公布されて施行期日が到来すると、効力を生じます。施行の時期が定められていれば、その時から法は発動します。法令は、施行期日について規定しているのが、通例であり、公布の日を施行期日とする場合もあります。
施行時期が定められていない法律は、公布の日から起算して20日を経過した日から施行されます。法令の公布は、慣行として官報によることとされています。


法律不遡及の原則


法律は制定または改正前の事実に適用されることはないのが原則です。これを法律不遡及の原則と言います。既にある権利を尊重して、安定性を図るためです。ただし、その権利を侵害しない場合やそれ以上の政策的に必要性のある場合に関しては例外が認められます。

法の適用範囲

法令の効力の及ぶ範囲


日本の法令は、基本的に属地主義をとっており
日本の法令の効力のが及ぶのは、原則として日本の領域内です。日本の法律の効力は日本国内(領地・領海・領空)にのみ及ぶのが原則です。
例外として、日本の法令の効力が、領域外に及ぶこともあります。例えば


渉外事件に適用される法


渉外事件


渉外事件というのは、複数の国に関わる事件のことです。複数の国に関わるので、どこの国の法律を適用して、その事件を解決するかが問題となります。適用される法律次第で、日本の裁判所が外国の法令を適用して裁判することもあれば、逆に外国の裁判所が日本の法令を適用して裁判をすることもあります。

契約の準拠法


外国人が日本で締結した契約も、法律行為の一つであり、法の適用に関する通則法では、「法律行為の成立および効力は当事者が当該法律行為の当時に選択した地の法律による」と定められていますので、契約の成立や効力については、当事者の意思によります。簡単に言うと、当事者が日本の法律を選択した場合には、日本の法律率が適用されるということです。


婚姻の準拠法


外国人が日本で婚姻する場合は、婚姻の成立については、各当事者につき、その本国法(それぞれの自分の国籍地の法律)によります。
婚姻の効力については、夫婦の本国法が同一であるときは、その本国法によります。夫婦の常に居んでいる土地の法律(これを常居所地法という)が同一であるときは、その法律が適用されます。同一でないときは、夫婦に最も密接な関係がある土地の方が適用されます。


 次は、民法の代理制度の分野について紹介しています。
 ➡【リンク】2. 法令用語と法の解釈


動機の錯誤( 売買代金返還請求事件)って何?行政書士試験の重要判例

【重要判例】動機の錯誤( 売買代金返還請求事件)/最判昭29.11.26


どうもTakaです。
今回は、動機の錯誤は意思表示の効力に影響を及ぼすのかが争点となった、 売買代金返還請求事件(動機の錯誤)について紹介したいと思います。

動機の錯誤( 売買代金返還請求事件)の内容


Aさんは、B所有の家が売却されることを聞き、当時その家屋に住んでいたCと交渉し、Cから同居の承諾を得たので、Bと売買契約を締結した。しかし、Aは売買契約を締結するに際し、Cの同居承諾を得たからという買受の動機をBに対して表示せず、却って、BからCが居住しているまま売却し、Cの立退きについては責任を負わない旨を申し入れを受けていた。
その後、Cが意思を翻し、Aとの同居を拒絶した。そこで、Aさんが、AB間の家の売買契約は要素に錯誤があり無効であるとして、訴えを提起した。

動機の錯誤( 売買代金返還請求事件)の争点


動機の錯誤は、意思表示の効力に影響を及ぼすか?

判決のポイント


動機は、表意者が意思表示の内容として相手方に表示した場合でない限り、法律行為の要素とならない。つまり、動機が表示されない限り、無効とはならない。

判決要旨(最高裁判所HPより抜粋)

意思表示の動機に錯誤があつても、その動機が相手方に表示されなかつたときは、法律行為の要素に錯誤があつたものとはいえない。

➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和27(オ)938

2019年8月23日金曜日

 貸金請求事件(商人資格の取得時期)!行政書士試験の重要判例・・自然人が商人資格を取得するとされる、開業準備行為とは何か?

【重要判例】 貸金請求事件(商人資格の取得時期)

/最判昭47.2.24




どうもTakaです。今回は、自然人が商人資格を取得するとされる、開業準備行為とは何かが争われた商人資格の取得時期について紹介したいと思います。


貸金請求事件(商人資格の取得時期)の内容


Aさんは、映画館を開業したいと考えていましたが、資金が足りませんでした。そこで、Aさんは、映画館開業の準備資金とする旨を告げてBさんから金銭を借り入れました。

しかし、AさんはBさんへ借りた金銭を返すことができませんでした。Bさんは、Aさんに対して貸したお金の請求をしましたが、その後、Bさんの貸金請求に対し、商法522条による5年の商事消滅時効を援用したことがこの事件の内容です。

商法522条 
商行為によって生じた債権は、この法律に別段の定めがある場合を除き、五年間行使しないときは、時効によって消滅する。ただし、他の法令に五年間より短い時効期間の定めがあるときは、その定めるところによる。

※削除

新民法166条
1項
債権は、次に掲げる場合には、時効によって消滅する。
一 債権者が権利を行使することができることを知った時から五年間行使しないとき。
二 権利を行使することができる時から十年間行使しないとき。


貸金請求事件(商人資格の取得時期)の争点


自然人が商人資格を取得するとされる、開業準備行為とは何か?


判決のポイント


開業準備行為とは、相手方以外のものにも客観的に開業準備行為と認められ得るものであることを要する。単に金銭を借り入れる行為は、特段の事情のない限り、その外形からはいかなる目的で行われてたかを知ることができないから、その行為者の主観的目的のみで直ちに開業準備行為をすることはできない。もっとも、その場合でも、取引の相手方が、事情を熟知している場合には、開業準備行為として商行為性を認める。

すなわち、開業準備行為は、客観的に開業準備行為と認め得るものであるのが原則。


判決要旨(最高裁判所HPより抜粋)


一、開業準備行為が商行為となるためには、それが客観的にみて開業準備行為と認められうるものであるごとを要し、単に金銭を借り入れるごとき行為は、特段の事情のないかぎり、これを商行為とすることはできない。

二、営業を開始する目的をもってする単なる金銭の借入れも、取引の相手方がその事情を知悉している場合には、これを附属的商行為と認めるのが相当である。


➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和46(オ)492


2019年8月3日土曜日

代理人の権限濫用(売掛代金請求事件)って何?行政書士試験の重要判例

【重要判例】代理人の権限濫用(売掛代金請求事件)/最判昭42.4.20



どうもTakaです。今回は、代理人が自己または第三者の利益を図るためにした権限内の行為は有効として、本人は責任を負うのかが争われた(代理人の権限濫用)について紹介したいと思います。

代理人の権限濫用(売掛代金請求事件)の内容


Aさんは、食品原料等の販売を営むB社の主任として商品の仕入れおよび販売の権限を有していた。そのAさんが練乳の缶を他に転売してその利益を図る目的で、B社名義でC社から買い受けた。B社が代金を支払わないので、C社が代金の支払い請求をした。なお、C社の受取人Dは、Aさんの練乳を転売して利益を図る意図を知っていた。

代理人の権限濫用(売掛代金請求事件)争点


代理人Aさんが自己または第三者の利益を図るためにした権限内の行為は有効として、B社は責任を負うのか?

判決のポイント(改正民法新設前)


相手方が悪意で、代理行為は無効になる。つまりB社は責任を負わない。
代理人Aさんの権限濫用について、判例は、民法93条但書類推適用説をとる。

第93条 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。

代理人が自己または第三者の利益を図るために権限内の行為をした場合には、相手方が代理人の意図を知り(悪意)、または知ることができたとき(過失)に、93条但書きの類推適用により、代理行為は無効となる。

改正民法 新設 第107条(代理権の濫用)から考えると

代理権の濫用が新設されます。

第百七条 
代理人が自己又は第三者の利益を図る目的で代理権の範囲内の行為をした場合において、相手方がその目的を知り、又は知ることができたときは、その行為は、代理権を有しない者がした行為とみなす。

改正により、新設された107条を適用することとなります。93条但書きの類推適用との違いは、代理行為が無効となるのではなく、無権代理行為となることです。

無効の場合と違い、本人は追認をする余地があります。


➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和39(オ)1025

2019年8月1日木曜日

【行政書士試験】意思表示と制限行為能力者・・トレーニング問題

【行政書士試験】意思表示と制限行為能力者・・トレーニング問題





●次の問のうち正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。


★意思表示

(1)意思表示とは、一定の法律効果を発生させる意思を外部に表すことである。

○…何らかの「法律効果を発生させる意思」を「外部に表す」ことを意思表示という。


★心裡留保

(2)心裡留保とは、内心と表示行為が異なることをいう。

○…問題文の通り

民法 第93条 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方が表意者の真意を知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。


(3)自分の車を売る気がないのに、相手方に「売ってもいいよ」と嘘を言うことは、心裡留保である。

○…内心と表示行為が異なっているので、心裡留保である。


★虚偽表示

(4)相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。

○…通謀虚偽表示である。


(5)通謀虚偽表示を理由とする意思表示の無効は、善意、悪意にかかわらず第三者に対抗することができない。

×…善意の第三者に対抗することはできないが、悪意の第三者に対抗することができる。


★詐欺

(6)詐欺による意思表示は、取り消すことができない。

×…取り消すことができる。
民法 第96条 
1項 
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。 
2項 
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。 
3項 
前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。

(7)詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者にも対抗することができる。

×…詐欺による意思表示の場合は、第三者がたとえ善意であっても、対抗することができる。


★強迫

(8)強迫による意思表示は、取り消すことができる。

○…問題文の通り


★制限行為能力者

(9)民法では、成年被後見人、被保佐人、被補助人の3種類を制限行為能力者として保護している。

×…民法では、「未成年者」、「成年被後見人」、「被補助人」、「被補助人」の4種類を制限行為能力者として保護している。


(10)法定代理人とは、弁護士など法律で代理業務を許可されたもののことである。

×…法定代理人とは、法で定められた代理人で、未成年者に対する親(親権者)等のことである。


(11)制限行為能力者を理由に行為を取り消すことができるのは、制限行為能力者本人だけである。

×…制限行為能力者はもちろんのこと、代理人、承継人(親や第三者などから、権利や地位を受け継いだ人)、同意をすることができるものが取り消すことができる。

民法 第120条 
1項 
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。 
2項 
詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕疵ある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。


★未成年者

(12)制限行為能力者である未成年者とは、民法上、20歳以下のものと定義されている。

×…未成年者とは、「20歳未満」のものである。20歳以下では20歳も含まれてしまう。


(13)単に権利を得たり、義務を免れたりする法律行為を除いて、未成年者が法律行為をするには、法定代理人の同意が必要である。

〇…未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得る、または義務を免れる法律行為については、この限りではない。
民法5条1項


(14)未成年者が結婚したり、結婚しなくても子供を産んだりした場合、民法上成年とみなされ、これを成年擬制という。

×…成年擬制(婚姻成年)は結婚した場合だけであり、結婚せずに子供を産んだ場合は成年擬制とはならない。

民法 753条 
未成年者が婚姻をしたときは、これによって成年に達したものとみなす。


★成年被後見人

(15)精神上の障害のために事理を弁識する能力が不十分である者で、本人、配偶者、四親等内の親族などの請求によって家庭裁判所の審判を受けたものを、成年被後見人という。

×…事理を弁識する能力について、
「欠く常況にある者」が成年被後見人。
「著しく不十分である者」が被保佐人
「単に不十分である者」が被補助人である
民法7条
民法11条
民法15条1項


(16)成年被後見人がした日用品の購入は、制限行為能力者を理由に取り消すことができる。

×…成年被後見人でも、日用品の購入など日常生活に関する行為は取り消すことができない。
民法9条

(17)成年後見人は自然人に限られる。

×…法人でもかまわない。
民法843条4項


(18)成年被後見人のした法律行為は、原則として、後で取り消すことができる。

〇…日用品の購入など日常生活に関する行為以外は、後で取り消すことができる。


(19)成年後見人は、成年被後見人の財産の管理に関する事務を行う。

〇…成年後見人は、財産管理にあたっては、成年被後見人の意思を尊重しなければならない。
民法853条


★被保佐人

(20)精神障害のため判断能力が不十分な者で、家庭裁判所で補佐開始の審判を受けたものを、被保佐人という。

×…判断能力が「著しく不十分」なものが被保佐人。「単に不十分」なものが被補助人。


(21)被保佐人は、保佐人の同意なしでは、財産を失うような重要な行為を有効に行うことができない。

〇…問題文の通り。財産を失うような重要な行為を保佐人の同意なしで被保佐人が行った場合は、後で取り消すことができる。
民法13条4項


(22)保佐人の同意を得なければならない行為を、同意なしに被保佐人が行った場合、被保佐人のみがその行為を取り消すことができる。

×…保佐人の同意を得なければならない行為を、同意なしに被保佐人が行った場合、被保佐人だけではなく、保佐人もその行為を取り消すことができる。


(23)被保佐人が新築をするには保佐人の同意が必要だが、増改築には保佐人の同意は不要である。

×…被保佐人が新築、改築、増築、大修繕をするには、保佐人の同意を得なければならない。
民法13条1項8号


★被補助人

(24)精神障害のため判断能力が不十分な者で、家庭裁判所で補助開始の審判を受けたものを、被補助人という。

〇…問題文の通り。被補助人には、補助人という後見人(保護者)が定められる。
民法15条1項

(25)本人以外の者の請求により補助開始の審判をする場合でも、本人の同意は不要である。

×…本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
民法15条2項


(26)補助人の同意を得なければならない法律行為を、同意を得ずに被補助人が行った場合、当該法律行為は当然に無効である。

×…補助人の同意を得なければならない法律行為を、同意を得ずに被補助人が行った場合、取り消すことができるが、当然に無効というわけではない。
民法17条4項


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【行政書士試験・民法】2. 意思表示と制限行為能力者・・出題頻度が高い分野ですしっかり理解しましょう。

2. 意思表示と制限行為能力者


民法タイトル


どうもTakaです。今回もまた民法の続きを進めていきます。 今回は、民法の分野の「意思表示と制限行為能力者」について紹介したいと思います。この章は、民法の基本的な部分であり、出題頻度が高い分野ですのでしっかり理解していきましょう。

法律行為

法律行為とは


法律行為とは、意思表示を要素とし、それに基づいて権利義務の変動(発生・変更・消滅)という法律効果が与えられる行為です。

法律行為の内容


1. 法律行為自由の原則


法律行為をするかしないか、その内容をどのようなものにするか、それをどのような形式でするかは、当事者が自由に決定できるのが原則です。(法律行為自由の原則)

2. 内容の確定性


内容を確定できない法律行為は無意味であり、これに法律効果を認めることは適当ではありません。そのため、内容を確定できない法律行為は、無効とされています。

3. 内容の実現可能性


当初から実現可能性のない(原始的不能)法律行為に、法的効果を帰属させても無意味です。最初から実現可能性のないことを内容とする法律行為も、無効です。

4. 内容の適法性


法令の規定のうち、強行規定は当事者の意思を阻害するものであり、強行規定に反する内容の法律行為は、無効です。 これに対して、任意規定は当事者の意思を補完するものにすぎず、明確な意思表示があれば、それが任意規定に優先します。そのため、任意規定と異なった内容の法律行為も、有効です。

 強行規定>法律行為>任意規定

5. 内容の社会的妥当性


社会的に許容できない法律行為は、公序良俗に反し、無効です。
例えば、売春契約や賭博などです。

条件と期限

1. 条件と期限とは何か?


当事者間の特約によって、法律行為の効力の発生または消滅を一定の事実にかけることができます。この特約を付款といいます。 付款のうち、一定の事実が発生するか否かが不確実なものを条件と言い、発生が確実なものを期限と言います。

2. 停止条件と期限


条件は、停止条件と解除条件に分けることができます。 停止していた法律行為の能力を発生されるのが、停止条件であり、逆に、発生していた法律行為の効力を消滅させるのが、解除条件です。

3. 期限の利益


期限が到達していないために、当事者が受ける利益のことを期限の利益と言います。期限の利益は、債務者のためにあると推定されています。そして、期限の利益は、相手方の利益を害さない限り、放棄することができます。

民法136条 
一項
期限は、債務者の利益のために定めたものと推定する。
 
二項
期限の利益は、放棄することができる。ただし、これによって相手方の利益を害することはできない。

意思表示

意思表示とは何か?

意思表示とは、民法の上で使われる場合の意味をいうと法律上の効果の発生を望む意思を相手に表現する行為のことをいいます。民法上の意思表示は基本的に、法律上の効果に対する意志の表示でなければなりません。
文字で書くだけだとわかり辛いですね。売買契約を例に図で表してみましょう。
意思表示の例(売買契約)
意思表示の例(売買契約)
この図でいうと、自転車を所有するAさんの「自転車売るよ」という部分と、自転車が欲しいBさんの「自転車買うよ」という部分が「意思表示」になります。
法律行為の構成要素である意思表示とは、一定の法的効果の発生を求める意思の表示であって、所定の要件さえ備えれば、意思通りの法的効果を発生させるものです。

例:契約の申し込みや承諾・契約の解除・転貸の承諾など


意思能力


意思表示を行うには、それによってどのような結果が生じるかを理解できる精神能力が必要です。この精神能力を意思能力といいます。 意思能力のないものが行なった意思表示は、無効とされています。

意思表示の効力発生時


意思表示が即座に相手に伝わる場合には、意思表示は原則として即時に効力を生じます。これに対して、発信時と到達時との間に社会通念上問題となるような時間差がある場合は、到達主義が採られ、意思表示は、相手方に到達した時点で効力を生じます。
民法97条 
隔地者に対する意思表示は、その通知が相手方に到達した時からその効力を生ずる。


意思と表示の不一致

心裡留保・・その気が無い意思表示

民法93条は、「心裡留保」という規定を置いています。次の例でいうと、心裡留保とは、Aさん(売主)は、本当は自転車を売るつもりがないのに「自転車売るよ」と言った場合のことです。本当の意思を心のうちに隠して、それとは別のことを表示することを「心裡留保」といいます。
心裡留保の例
心裡留保

この心裡留保の場合、原則としてAさんの意思表示は有効です。とぼけたことをいったAさんを保護する必要はないです。
しかし、相手方であるBさんがAさんの気持ちを知っていた、または、知ることができたときはBさんを保護する必要はないので、例外的にAさんの意思表示は無効となります。

第九十三条 
意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってしたときであっても、そのためにその効力を妨げられない。ただし、相手方表意者の真意知り、又は知ることができたときは、その意思表示は、無効とする。


虚偽表示・・口裏合わせを封じる規定

1. 虚偽表示とは何か?

民法94条は、虚偽表示という規定を置いています。これを例で表すと、次のような感じになります。相手方と通じて真意でない意思表示をすることを「虚偽表示」あるいは「通謀虚偽表示」といいます。
通謀虚偽表示の例
通謀虚偽表示の例

つまり、AさんもBさんも共に、売る気も買う気もないのに、何らかの理由で、売買が行われたことにしておこうとするものです。この虚偽表示の実際の例として、Aが差し押さえを免れるためにBと口裏合わせをして、いったんBに売るといった事件がありました。
この場合は、AさんとBさんは売る気もない・買う気もないので、双方の意思表示は、原則として無効であり、結果としてAさんBさんの間の契約も無効となります。

しかし、Bさんがその後に、Cさんにその自転車を売ってしまった場合は、もしCさんがAさんとBさんの間の事情について知らない場合には、AさんはCさんに対して「無効だから、自転車返して!」とは言えなくなります。

民法94条 
1項
相手方と通じてした虚偽の意思表示は、無効とする。
 
2項
前項の規定による意思表示の無効は、善意の第三者に対抗することができない。


2. 善意の第三者


善意の第三者とは、当事者・包括承継人(一般承継人)以外のものであって、虚偽表示であることも知らずに、権利者らしい外観を持つものと新たな関係を作り、独立した利益を持つようになった者のことです。

3. 民法94条2項の類推適用


民法94条2項は、通謀と虚偽の意思表示の存在を前提としていますが、これらがなくても、権利の外観に対する信頼を保護するべき場合には、同条項を類推適用すべきと判例ではいわれています。


錯誤

1 錯誤とは何か?


錯誤とは、表示から推測される意思と表意者の真実の意思が食い違っているのに、表意者がそれに気づいていないことです。言い違い・書き間違いや、表示行為の意味を誤解している場合が錯誤です。

2. 要素の錯誤


その錯誤がなければ、表意者はもちろん、一般人もそのような意思表示をしなかったであろう場合を「法律行為の要素に錯誤」があるといいます。

3. 動機の錯誤


動機の錯誤とは、意思を生じさせる動機に錯誤があるに過ぎない場合です。動機の錯誤では、表示に対応する意思が存在し、意思と表示に食い違いがあるわけではないです。そのため判例では、動機の錯誤については、動機の表示という新たな要件を要求し、動機が表示されて意思表示の内容になった場合に限り、法律行為の要素の錯誤になり得ると言っています。
【重要判例】 要素の錯誤による意思表示の無効(油絵代金返還請求事件)

瑕疵ある意思表示


詐欺による意思表示

1. 詐欺による意思表示とは何か?


詐欺とは、取引上要求される信義に反して、事実を隠したり、虚偽の事実を言ったりして、他人を騙し、勘違いされることです。そして騙されて、勘違いをしたまま行なった意思表示を詐欺による意思表示と言います。

2. 善意の第三者との関係


詐欺による意思表示を取り消す前に現れた善意の第三者に対しては、取り消しを主張できません。
第九十六条 
一項
詐欺又は強迫による意思表示は、取り消すことができる。
 
二項
相手方に対する意思表示について第三者が詐欺を行った場合においては、相手方がその事実を知っていたときに限り、その意思表示を取り消すことができる。
 
三項
前二項の規定による詐欺による意思表示の取消しは、善意の第三者に対抗することができない。


※善意の第三者
善意の第三者とは、当事者およびその一般承継人以外のものであって、詐欺の事実を知らずに新たに利害関係に入った者のことです。

強迫による意思表示


強迫とは、相手方に恐怖心を抱かせ、それによって意思表示をさせることです。 そして、強迫されて怖くなり、やむを得ず行う意思表示を強迫による意思表示といいます。 強迫による意思表示は、詐欺の場合と異なり、強迫を行なった者が誰であろうと、無条件に取り消すことができます。 また、詐欺の場合と異なり、強迫による意思表示は、取り消し前に出現した善意の第三者に対しても、取り消しを主張できます。強迫の場合は、止むを得ず意思表示をした表意者に落ち度はないからです。


制限行為能力者

行為能力とは?


行為能力とは、一人で完全に有効な法律行為を行うことのできる資格・地位のことです。民法は、未成年者、成年被後見人、被保佐人、被補助人について、行為能力を制限しています。

未成年者



1. 未成年者とは何か


未成年者は満20歳未満の者です。

2. 未成年者の法律行為


未成年者が法律行為を行うには、原則として法定代理人(原則として父母)の同意が必要であり、法定代理人の同意を得ずに、未成年者が一人で行なった法律行為は、取り消すことができます。ただし次の場合は例外的に未成年者が単独で行うことができます。
第五条 
未成年者が法律行為をするには、その法定代理人の同意を得なければならない。ただし、単に権利を得、又は義務を免れる法律行為については、この限りでない。
第六条 
一種又は数種の営業を許された未成年者は、その営業に関しては、成年者と同一の行為能力を有する。


※未成年者が単独で行えること
①単に権利を得または義務を逃れるだけの行為
②法定代理人が許した財産の処分
③法定代理人が許した特定の営業に関する行為

取消権者は、未成年者本人や法定代理人です。

民法120条 
一項
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。
 
二項
詐欺又は強迫によって取り消すことができる行為は、瑕か 疵しある意思表示をした者又はその代理人若しくは承継人に限り、取り消すことができる。

未成年者本人にも取消権があり、自分一人の判断で取消権を行使でき、法定代理人の同意を得る必要はありません。

成年被後見人


1. 成年被後見人とは何か?


成年被後見人とは、精神上の障害によって事理弁識能力(物事の判断能力)がなく、自分の行為の意味さえわからず、その行為によって負うことになる義務の内容を理解できないのが通常のため、本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づいて、家庭裁判所が貢献開始の審判を行い、成年後見人に面倒を見てもらっている人のことです。
第七条 
精神上の障害により事理を弁識する能力を欠く常況にある者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、未成年後見人、未成年後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、後見開始の審判をすることができる。
第八条 
後見開始の審判を受けた者は、成年被後見人とし、これに成年後見人を付する。

具体的には、 脳死認定をされた方、重度の認知症を患っている方などが当てはまります。
 

2. 成年被後見人の法律行為


成年被後見人が自ら行なった法律行為は、取り消すことができます。たとえ成年後見人の同意を得ていても、成年被後見人の法律行為は取り消すことができます。 ただし、日用品の購入など日常生活に関する行為については、自己決定権が尊重され、成年被後見人が単独で行うことができます。
第九条 
成年被後見人の法律行為は、取り消すことができる。ただし、日用品の購入その他日常生活に関する行為については、この限りでない。

取消権があるのは、成年被後見人本人や成年後見人などです。

第百二十条 
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。

成年被後見人本人にも取消権があり、意思能力のある状態であれば、自分の判断で取消権を行使できます。

被保佐人


1. 被保佐人とは何か?


被保佐人とは、成年被後見人のように行為の意味さえわからないという状態ではないが、精神上の障害によって事理弁識能力が著しく低いため、本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づいて、家庭裁判所が保佐開始の審判を行い、保佐人の保護のもとに置かれている人のことです。 具体的には、 日常の買い物程度ならできるが、大きな財産を購入したり、契約を締結したりすることは難しい方、中どの認知症の方などが当てはまります。

2. 被保佐人の代理権


本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づく家庭裁判所の審判によって、被保佐人の特定の法律行為について、被保佐人の特定の法律行為について保佐人に代理権を付与することができます。 ただし、保佐人に代理権を付与することができるのは、被保佐人時自身が請求した場合または同意している場合だけです。

3. 保佐人の同意権


元本の領収・借財・不動産の売買などの十よな法律行為を行なう場合それが日常生活に関する行為でない限り、保佐人の同意またはそれにかわる家庭裁判所の許可が必要です。 保佐人の同意を要するにもかかわらず、同意も、家庭裁判所の許可も得ずに行われてた被保佐人の行為は、被保佐人本人や保佐人などが取り消すことができます。

第十三条 
四項
保佐人の同意を得なければならない行為であって、その同意又はこれに代わる許可を得ないでしたものは、取り消すことができる。

第百二十条 
行為能力の制限によって取り消すことができる行為は、制限行為能力者又はその代理人、承継人若しくは同意をすることができる者に限り、取り消すことができる。


被補助人



1. 被補助人とは何か?


精神上の障害によって事理弁識能力不十分なため、本人・配偶者・4親等内の親族などの請求に基づいて家庭裁判所が補助開始の審判を行い、補助人に手助けをしてもらっている人を被補助人といいます。
第十五条 
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
第十六条 
補助開始の審判を受けた者は、被補助人とし、これに補助人を付する。

具体的には、 常の買い物はひとりでも問題なくできるが、援助者の支えがあったほうが良いと思われる方、軽度の認知症の方などが当てはまります。

2. 被補助人の法律行為


補助開始の審判を行う場合には、
①民法13条所定の行為の一部について補助人に同意見を付与する審判
または
②被補助人の特定の法律行為について補助人に代理権を付与する審判を行わなければなりません。
第十五条 
一項
精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分である者については、家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる。ただし、第七条又は第十一条本文に規定する原因がある者については、この限りでない。
 
二項
本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない。
 
三項
補助開始の審判は、第十七条第一項の審判又は第八百七十六条の九第一項の審判とともにしなければならない。
これらの審判を行うには、被補助人本人の請求または同意が必要です。
第十七条 
家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求により、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第十三条第一項に規定する行為の一部に限る。
第八百七十六条の九 
家庭裁判所は、第十五条第一項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる。

補助人の同意を要する行為を、同意も、それに代わる家庭裁判所の許可も得ずに、被補助人が行なった場合、被補助人本人や補助人などは、その行為を取り消すことができます。


相手方の催告権


制限行為能力者と法律行為をした相手方は、法定代理人・保佐人・補助人に対して、法律行為を追認して有効なものに確定させるか否かを1ヶ月以上の期間内に回答するように催告できます。そして、行為能力の制限がなくなった後には、制限行為能力者であった本人に対して、同様の催告ができます。そして行為能力の制限がなくなった後には、制限行為能力者であった本人に対して、同様のの催告ができます。この催告に対して、所定の期間内に回答がない場合には、法律行為を追認したものとみなされます。 ただし、誰かの同意を得るなどの特別の方式を要する場合には、その期間内にその方法をとったという通知がない限り、逆に取り消したものとみなされます。
第二十条 
一項
制限行為能力者(未成年者、成年被後見人、被保佐人及び第十七条第一項の審判を受けた被補助人をいう。以下同じ。)の相手方は、その制限行為能力者が行為能力者(行為能力の制限を受けない者をいう。以下同じ。)となった後、その者に対し、一箇月以上の期間を定めて、その期間内にその取り消すことができる行為を追認するかどうかを確答すべき旨の催告をすることができる。この場合において、その者がその期間内に確答を発しないときは、その行為を追認したものとみなす

また、相手方は、被保佐人または補助人の同意を要する被補助人に対して1ヶ月以上の期間内に保佐人または補助人の追認を得るように催告できます。そして、その期間内に追認を得たという通知がないと、その行為を取り消したものとみなされます。

詐術


制限行為能力者が自分の判断能力に問題がないと相手方を騙したり、法定代理人などの同意見者の同意を得ていると相手方を騙したりした場合には、その行為を取り消すことはできません。判例では、自分の行為の能力が制限されていることを黙っているに過ぎない場合は、詐術に当たらないが、他の言動と相まって能力者と思わせ、また強めた場合は、詐術にあたり、もはや取り消すことができなくなると言っています。
【重要判例】黙秘と詐術(土地所有権移転登記抹消登記手続請求事件)

制限行為能力者のまとめ

一覧で制限行為能力者ついてまとめると次のように表せます。

種類どの様な人が該当するか単独の行為の結果単独でも有効 とされる行為
未成年者20歳に満たないもの取り消し可能単に権利を得たり、義務を免れる法律行為
成年被後見人精神上の障害によって事理を弁識する能力を欠く常況にあって、家庭裁判所の審判を受けたもの取り消し可能日用品の購入などの日常生活に関する行為
被保佐人精神上の障害によって事理を弁識する能力が著しく不十分であって、家庭裁判所の審判を受けたもの借財など一定の重要な行為については、取消し可能日用品の購入などの日常生活に関する行為や、重要性の低い行為
被補助人精神上の障害によって事理を弁償する能力が不十分であって、家庭裁判所の審判を受けた者家庭裁判が審判で定めた特定の行為のみ。取消し可能審判で定められなかった行為全般



無効と取り消し


無効と取り消しの違い

1. 無効と取消し可能


「無効」とは、当初から当然に効力のないことを言います。 「取り消すことができる」というのは、一応有効であるが、取消権が行使されると、遡及的に無効になることをいいます。

第百二十一条 
取り消された行為は、初めから無効であったものとみなす。ただし、制限行為能力者は、その行為によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

2. 無効・取消しの主張


向こうは誰でも主張することができ、また、誰に対しても主張することができるのが原則です。そして、無効の主張はいつでもできます。 これに対して、「取り消すことができる」は取消権のあるものだけです。しかも、取消権は、追認できる時から5年以内、かつ行為の時から20年以内に行使しなければなりません。

第百二十六条 
取消権は、追認をすることができる時から五年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。

3. 追認


無効な行為を当事者の意思によって初めに遡って有効とすることはできず、追認しても、遡及的に有効になるわけではありません。ただし、無効であることを知りつつ追認すると、新しい行為をしたものとみなされます。 民法119条 これに対して、取消しの原因となった状況が消滅した後に、取消権者が取り消し可能であることを知った上で追認すると、取消権は消滅し、法律行為や意思表示は、最初から有効だったことになります。

民法122条 
取り消すことができる行為は、第百二十条に規定する者が追認したときは、以後、取り消すことができない。ただし、追認によって第三者の権利を害することはできない。

民法124条 
追認は、取消しの原因となっていた状況が消滅した後にしなければ、その効力を生じない。

 また、追認を明言しなくても、追認できるようになった後に、取消権者が、異議を留めずに、履行や履行の請求など追認と実質的に同じと認められる行為を行った場合には、追認したものとみなされます。

民法125条 
前条の規定により追認をすることができる時以後に、取り消すことができる行為について次に掲げる事実があったときは、追認をしたものとみなす。ただし、異議をとどめたときは、この限りでない。

無効・取消し後の後始末


無効であったり、取消権が行使されたりすると、意思表示は初めからなかったことになります。そのため、すでに義務が履行されていた場合には、それを元の状態に戻さなければならず、取得したものを、相手に返還しなければなりません。 ただし、制限行為能力を理由に取り消された場合の制限行為能力者の返還義務は、現に利益を受けている限度(現存利益)に限定されています。


 次は、民法の代理制度の分野について紹介しています。
 ➡【リンク】3. 代理制度

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