2019年9月30日月曜日

【行政書士試験】債権の分野のトレーニング問題


【行政書士試験】債権の分野のトレーニング問題

●次の問のうち正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。

★債権とは何か?


(1)特定物債権であれば、その特定物をどうしても引き渡さなければならない。

〇…問題文の通り。


★弁済


(2)弁済をするについて、正当な利益のある第三者が弁済をすれば、法律上当然に債権者に代位する。

〇…問題文の通り。


(3)利害関係を有する第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。

×…利害関係を「有しない」第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
民法474条2項


(4)債権の準占有者に対してした弁済は、その弁済をしたものが善意であるときに限り、効力を有する。

×…その弁済をしたものが善意であり、かつ、過失がなかったときに限り、効力を有する。
民法478条


(5)債務の履行について、支払期限日が過ぎてしまった場合、履行遅滞となる。

○…問題文の通り。支払期限日が過ぎて履行遅滞となった場合、債務者は、履行遅滞の責任を負う。
民法412条


★弁済以外の債権の消滅事由


(6)相殺によって、債務は、相殺適状時に遡って債権との対当額だけ消滅。

〇…問題文の通り。


★債権譲渡


(7)債権は、譲渡人と譲渡人の合意だけで、自由に譲渡できるのが原則。

〇…問題文の通り。


(8)すべての債権は、民法の規定において、第三者に譲渡することができる。

×…債権の性質上、譲渡が許されないものがある。例:賃貸住宅の貸借権


(9)債務の性質が第三者弁済を許さないときを除いて、債務の弁済は、第三者がすることもできる。

×…当事者が反対の意思を表示しているときも、第三者弁済をすることはできない。
民法474条1項




8. 債権・・・条文をきちんと確認していきましょう。

8. 債権



8. 債権・・・条文をきちんと確認していきましょう。


今回は行政書士試験の民法の分野の「債権」について説明していきます。




債権とは


債権の目的


特定の人に対して、特定の行為を要求する権利を「債権」といいます。債権の逆の言葉が、特定の行為をしなければならない義務として「債務」といいます。
債権の目的である特定の行為は次の要件を満たす限り、何でもいいです。

①適法性

②社会的妥当性

③実現可能性

④内容の確定

経済的な価値がなく、金銭に見積もることができないことでもかまいません。


特定物債権


特定物債権とは、特定物の引渡しを目的とする債権です。
わかりにくいですね。不動産(土地や建物)、動産(車、本、フィギュア…etc)はそれぞれ、固有な状態で存在していますよね。使ったら壊れるし、全く管理していなければ、土地や建物は変化を経てしまうかもしれません。それぞれ、同じ種類の物でも一つ一つ違う状態です。

特定物とは、当事者が者の個性に着目し、1つの物に狙いを定め、その個物だけを目的物とする場合をいいます。



例えば、あなたが中古屋さんでとあるブランドの革財布を買おうとしていると想像してみましょう。革財布を購入する売買契約であったとして,「ここに置いてあるこの革財布」を購入するというのであれば,その目的物引渡請求権は特定物債権になります。



特定物債権では、引き渡すべきものが不特定物に限定されているため、債務者は、その特定物を善良な管理者の注意で保管し、債権者に引き渡さなければなりません。他のもので代用しても、債務を履行したことにならないのです。
その反面、特定物に何らかの瑕疵(欠陥・キズ)があっても、それをそのままの状態で引き渡せば、債務を履行したことになります。

民法483条 
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。


また、特定物がなんらかの理由で滅失した場合には、引渡債務は消滅します。



種類債権


1. 種類債権とは何か


種類債権とは、目的物を種類と数量だけで指示した債権のことです。
先ほどの革財布を例えとして、わかりやすく言うと、「○○社の✕✕革の財布」といったような感じになります。

当事者が物の種類だけを指示し、その種類に属するものでありさえすれば、それで当事者は満足し、個物自体を狙っているわけではない場合を種類物といいます。


2. 債務者の調達・完全引渡義務


種類債権の目的物は、種類と数量で指示されているだけなので、その指示に合致する物は、市場にたくさんあります。そのため、給付しようと思っていたものが滅失した場合には、種類債権の債務者は、改めて市場から目的物を調達しなければなりません。
種類債権の債務者が市場から調達し債権者に給付する物は、指示された種類と数量に合致した完全なものでなければなりません。債務者は、完全なものを給付する義務を負っており、瑕疵(欠陥・キズ)のあるものを給付しても、債務を履行したことにはなりません。

3. 種類債権の特定


種類債権の債務者には、指示された種類と数量に合致した完全な物を市場から調達し、債権者に給付する義務があります。しかし、次の場合には、種類債権の目的物は特定のものに決定し、その目的物だけが債権の対象になります。これを種類債権の特定あるいは集中と言います。

①債務者が者の給付をするのに必要な行為を完了した場合

②債務者が指定権を行使することについて予め債権者の同意を得た上で、債務者が給付すべきものを指定した場合。

③両当事者の合意によって、給付すべき目的物が具体的に決められた場合。


選択債権


選択債権とは、複数の給付の中から、1つの給付を選択して履行するという制度です。誰が選択するかについて当事者間に合意があれば、それによりますが、合意がなければ、債務者に選択権があります。

民法406条 
債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。


債務者が選択権を持つ場合、債務者は、債権者に対する意思表示によって選択権を行使します。選択権が行使されると、その効果は、債権発生時に遡及し、給付の内容は、債権発生時から選択されたものに決まっていたことになります。

民法411条 
選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。


弁済


弁済とは何か?


弁済とは、債権の内容である特定の行為(給付)が行われることをいいます。例えば、土地の売買契約を締結した売主が、土地を引き渡すことや、買主が代金を支払うことが、弁済です。弁済によって、債権は目的を達成して消滅するのが原則です。
弁済は債務の本来の趣旨(本旨)に従ったものでなければなりません。債務の本旨に従わないと、さ弁済義務を果たしたとはいえず、債務不履行の問題が発生します。


弁済の場所と費用


弁済の場所について、当事者(債権者と債務者)の間で合意があれば、その合意した場所で弁済する必要があります。当事者間に合意がない場合には、特定物の引渡債務は、債権が発生した時にその特定物が存在した場所で、それ以外の債務は債権者の現住所で弁済します。

民法484条 
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。


ただし、売買代金について、売買の目的物の引渡しと同時に支払うという約束の場合には、目的物の引渡場所で支払います。

弁済の費用についても、当事者間に合意があれば、それが優先し、合意で定めたものがそれを負担します。ただし、債権者の移転等によって弁済費用が増加した場合、債権者が増価額を負担します。

民法485条 
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。


弁済の相手方


弁済は、債権者あるいは債務者から弁済の受領権限を与えられたものに対して行うのが原則です。これら以外のものに弁済をしても、原則として弁済の効力は生じません。

民法479条 
前条の場合を除き、弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。



しかし、領収書などの受取証書を持参したものは、弁済の受領権限があるとみなされます。そのため、受領詔書を持ってきた人に対して、弁済受領権限のないことを知らず、かつ、そのことに加湿なく弁済した場合には、その弁済は有効とみなされます。

民法480条 
受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。


また、弁済者が債権の準占有者を真の債権者と信じて、そのことに加湿のない場合、その弁済は有効とされています。債権の準占有者とは、一般の取引観念から見て、真の債権者のような外観を有するものです。


第三者の弁済


民法は、債務者以外の人が債務者の債務を弁済することを認めています。ただし、次の3つの場合には、第三者の弁済は許されません。


①性質上許されない

②当事者が禁止した場合

③利害関係のない者の弁済が債務者の意思に反する場合


民法474条 
1項 
債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。 
2項 
利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。



弁済による代位


1. 弁済による代位とは何か


弁済による代位とは、債務者以外のものが弁済した場合に、本来、弁済によって消滅するはずの債権(原債権)と担保権を弁済者に移転し、弁済者がそれらを求償権の範囲内で行使できることにし、求償を確実なものにしようという制度です。これを代位弁済ともいいます。


2. 法定代位と任意代位


法定代位とは、弁済者が弁済をするについて正当な利益のある者であれば、法律上当然に債権者に代位することです。弁済をするについて正当な利益のあるものとは、後順位担保権者・保証人・連帯債務者などのことです。
これに対して、任意代位とは、弁済者が債権者の承諾を得て、債権者になり代わって、原債権や担保権を行使することです。
民法499条

法定代理と異なり、任意代理を債務者や第三者に主張するには、債務者の承諾または債権者による通知が必要です。


3. 代位の効果


代位すると、弁済によって本来消滅するはずの原債権やそれに付随する担保権が弁済者に移転します。そして、弁済者は、自分の求償権の範囲内で、移転した権利を行使することができます。



弁済の提供


1. 弁済の提供とは何か


弁済の提供とは、債務者が債務の本旨に従って自分1人でできることを尽くし、債権者の協力があれば、履行が完成するという状況を作り出すことをいいます。弁済の提供をすると、債務者は、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れます。


2. 弁済の提供の方法


弁済の提供は、債務の本旨に従い、現実に提供しなければなりません。これを現実の提供といいます。ただし、次の場合には、例外的に、弁済の準備をして受領を催告すれば、、弁済の提供になります。これを口頭の提供といいます。
民法493条

①債権者が予め受領を拒んでいた場合
②債務の履行について債権者の行為を要する場合

債権者が予め受領を拒んでいる場合であっても、翻意する可能性があるため、口頭の提供が求められています。しかし、受領拒絶の意思が極めて固く、翻意の余地のない場合には、口頭の提供も不要というのが判例です。



弁済以外の債権の消滅事由


債権の消滅事由


弁済以外にも、供託・代物弁済・更改・免除。混同などによって、債権は消滅します。更改とは、給付の内容・債務者などの債務の要素を変更することによって、従来の債権を消滅させ、新しい債権を発生させる契約です。そして、免除とは、債権者が一方的に無償で債権を消滅することです。また、混同とは、債務者が債権を譲り受けたりして、債権者が同時に債務者でもあるという状況になった場合に、債権・債務は消滅したものと扱う制度です。


代物弁済


1. 代物弁済とは何か


代物弁済とは、債権者の承諾を得て、本来の給付内容と異なる他の給付をおこなうことです。他の給付を完了すると、弁済と同一の効力が生じ、債権は消滅します。

2. 他の給付の完了


他の給付の完了とは、目的物が動産の場合は引き渡すことであり、不動産の場合は登記をすることです。これらが完了しない限り、本来位の債権は消滅せず、その債権から利息が発生したりします。また、これらが完了しない限り、本来の債務が残っていますから、それを履行して、他の給付する義務を免れることもできます。


相殺


1. 相殺とは何か


相殺とは、債権者と債務者が、互いに同じ種類の債権・債務を有する場合に、100万円によって、債務は、相殺に適するようになった時(相殺的常時)に遡って、債権との対等額(いずれか少ない方の額)だけ消滅します。

2. 相殺の要件


相殺をするためには、その時点で相殺適状(相殺に適した状態)になっていなければなりません。いったん、相殺適状となっても、相殺の意思表示がなされる前に、その状態が崩れてしまっていては、相殺できないのが原則です。

相殺適状になるためには、次の要件を満たす必要があります。

民法505条 
1項 
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。 
2項 
前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。


①同種の給付を求める自働債権(反対債権)と受働債権が存在すること

②両債権が相殺可能なものであること

③両債権が弁済期にあること

なお、双方の債権の履行地が異なっていても、相殺をすることができます。


3. 相殺適状後の自動債権の時効消滅


いったん、相殺適状になった後、自動債権が時効消滅しても、その債権で相殺することができます。
民法508条

いったん、相殺適状になると、債務者は、これで債権・債務は帳消しになったと安心し、相殺の意思表示をしないまま所定の期間を徒過してしまうことも多く、相殺済みという債務者の期待を保護する必要があるからです。


4. 不法行為による債務の相殺


不法行為によって発生した損害賠償債権を受動債権とする相殺は禁止されています。薬代を現金で支払わせ、被害者を救済するとともに、被害者が、腹いせに加害者に対して不法行為を行い、双方の損害賠償債務を帳消しにしようなどという行為に出ることを防止するためです。
ただし、民法509条が禁止しているのは、不法行為によって発生した損害賠償債権を受働債権とする相殺だけです。不法行為の被害者が、加害者に対する別の債務を免れるために、損害賠償債権を自働債務として相殺することは可能です。


5. 差押えと相殺


受働債権が差し押さえられた場合、その債務者は、差押後に自働債権を取得しても、それで相殺することはできません。
しかし、逆に、差押前に自働債権を取得していた場合には、相殺をすることができるというのが、判例です。
受動債権の差押前に自働債権を取得している限り、自働債権と受働債権との弁済期の前後を問わず、相殺することができるというのです。(無制限説)


6. 相殺の方法


相殺は、相手方に対する一方的な意思表示によって行われます。相殺の意思表示は、相殺をしようとする者の判断で一方的に行うことができます。相手方の同意を得る必要はありません。

相殺の意思表示に、一方的に条件や期限をつけることはできません。条件をつけると、相手方の地位を不安定にします。また、相殺の効果が相殺適状時に遡る以上、期限をつけても、無意味だからです。



債権譲渡


債権の譲渡性とその制限


1. 債権の譲渡性


債権譲渡とは、契約によって、中身を変えずに、債権を譲渡人から譲渡人に移転させることです。債権は、原則として、譲渡人と譲渡人との合意だけで、自由に譲渡する必要はありません。これを債権の譲渡性といいます。

2. 債権の譲渡性の制限


債権の中には、その性質上、譲渡人と譲渡人の合意だけではじょうとできないものもあります。また、扶養請求権や労働者災害補償請求権など、個別の法律が明文で、譲渡を禁止している債権もあります。

さらに、債権者と債権者との合意(譲渡禁止特約)によって、債権の譲渡性を奪うこともできます。ただし、善意無重過失の第三者に対しては、譲渡禁止特約を対抗できません。

民法466条
1項 
債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。 
2項 
前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。



指名債権譲渡


1. 指名債権の譲渡方法


指名債権とは、債権者が誰か特定しており、債権の成立や譲渡に証書のいらない債権のことです。指名債権は、譲渡人(旧債権者)と譲受人(新債権者)との合意だけで譲渡することができます。

2. 債務者に対する対抗要件


次のいずれかの要件を満たさないと、債権の譲受人は、債務者に対して自分が債権者であることを主張できません。
民法467条1項

①従来の債権者である譲渡人が債務者に対して譲渡を通知すること

②債務者が譲渡を承諾すること


※債権譲渡の通知・承諾
承諾は譲渡前になされてもよいのに対して、通知は譲渡後に限られ、譲渡前に通知をしても、対抗要件を満たしません。また、通知をするのは、譲渡人でなければならず、譲渡人が譲渡人に代位して通知することも許されません。

3. 第三者に対する対抗要件


債務者以外の第三者に対して債権譲渡を主張するには債務者に対する通知または債務者の承諾を確定日付のある証書で行う必要があります。
民法467条2項

確定日付のある証書で通知または承諾を行うことが、第三者に対する対抗要件です。

したがって、債権が二重に譲渡された場合、第三者に対する債権譲渡の対抗要件を先に備えた譲受人が権利を取得します。


異議を留めない承諾と抗弁事由


1. 債権譲渡と抗弁事由


債権譲渡の通知が到達する前に発生したものである限り、債務者は、譲渡人に対する抗弁事由を譲渡人に対して主張できます。
例えば、譲渡通知の到達前に債務者が譲渡人に弁済したりして、債権が消滅していた場合には、債務者は、それを主張して譲受人から弁済請求を拒絶することができます。

2. 異議を留めない承諾


ところが、債務者が異議を留めずに債権譲渡を承諾すると、債務者は、それまで譲渡人に対して主張できた抗弁事由を譲渡人に主張できなくなります。

民法468条 
1項 
債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。

例えば、譲渡人に対して弁済し、債権が消滅していても、異議を留めないで承諾をすると、債権の消滅を譲渡人には主張できなくなり、譲受人との関係では、一旦消滅したはずの債権が復活したことになるのです。


次は民法の「債権不履行」について紹介しています。
➡【リンク】9. 債権不履行



2019年9月29日日曜日

【行政書士試験】担保物権の分野のトレーニング問題

【行政書士試験】担保物権の分野のトレーニング問題



●次の問のうち正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。

★担保制度と担保物権


(1) 民法では、留置権、先取特権、質権、抵当権の4つを担保物権として定めている。

○…問題文の通り。担保物権とは、債権の回収を担保するための制度である。


(2) 法律の規定で発生する担保物権を法定担保物権という。

○…問題文の通り。留置権と先取特権が法定担保物権である。


(3) 契約で設定される担保物権を約定担保物権という。

○…問題文の通り。質権と抵当権が約定担保物権である。


★先取特権


(4) 葬式の費用による債権を有する者は、債務者の総財産について先取特権を有する。

○…問題文の通り。「共益の費用」「雇用関係」「葬式の費用」「日用品の供給」によって生じた債権には先取特権がある。


(5) Aさんは、Bさんから建物を賃借し、Aは、その建物内に電気製品等の動産を備え付けている。Aが、これらの動産をCさんに売却し、引き渡した場合には、Bは、これらの動産について先取特権を行使できない。

〇…問題文の通り。先取特権の目的物である動産が、その所有権を取得した第三者に引き渡されると、先取特権(動産先取特権だけでなく、一般先取特権も)は効力が及ばなくなってしまう。

民法333条 
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。


★質権


(6)質権は、目的物の引き渡しがないと効力を発生しない。

〇…問題文の通り。


★抵当権


(7)抵当権は所有物にだけ設定できるので、地上権や永小作権に抵当権を設定することは出来ない。

×…地上権や永小作権も抵当権の目的とすることができる。


(8)抵当権の設定は担保物件を債権者へ引き渡すことで完了する。

×…抵当権は、質権とは異なり、担保物件を債権者へ引き渡す必要がない。


(9)1つの不動産について複数個の抵当権を設定することもできる。

○…問題文の通り。同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は登記の前後による。


(10)抵当不動産について所有権を買い受けた者が、抵当権者の請求に応じて抵当権の代価を弁済したときは、抵当権は消滅する。

○…問題文の通り。抵当不動産を買い受けた者を第三取得者といい、第三取得者は抵当権者の請求に応じて代価弁済をすることによって、抵当権を消滅させることができる。


(11)抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。

○…問題文の通り。ただし、抵当権者の権利は土地の代価についてのみ行使することができる。


(12)抵当不動産の第三取得者は、その競売において買受人となることは出来ない。

×…抵当不動産の第三取得者は、その競売において自らが買受人となることもできる。


7. 担保物権・・・行政書士試験で押さえておきたい担保物権に関する部分を総まとめ

7. 担保物権


7. 担保物権・・・行政書士試験で押さえておきたい担保物権に関する部分を総まとめ

今回は民法の「担保物権」について紹介していきます。



担保とは?


担保とは、債務者がお金を返済できない場合に備えて、あらかじめ債権者に提供される事物のことです。


担保制度と担保物権


担保制度


担保には物的担保と人的担保があります。物的担保とは、債務者などの財産に担保券を設定して、その財産から優先的に債権の回収を図る制度です。これに対して、人的担保とは、債務者以外の第三者の資力を債務の引当にすることによって、債務の回収を確実なものにする制度です。

1. 担保物権


担保物権は、債務回収の確保を目的とする物権であり、ものの担保価値を把握するものです。担保物権には、法定担保物権と約定担保物権があります。


法定担保物権とは、法律上当然に発生する担保物権です。これに対して、約定担保物権とは、当事者の合意で成立する担保物権です。


2. 担保物権の性質


多くの担保物権に共通する性質として、以下の性質があります。

①付従性
担保物権が、担保される債権(被担保物権)に付き従うことです。被担保債権がなければ、担保物権が存在せず、被担保債権が消滅すると、担保物権も消滅します。

②随伴性
随伴性とは、被担保債権と連動し、被担保債権が移転すると、担保物権もそれにともなって移転することです。

③不可分性
不可分性とは、被担保債権の弁済を受けるまで、目的物全部について権利を行使できることです。

④物上代位性
物上代位性とは、担保物権が滅失しても、それに代わる物に担保物権が存続し、その物に効力を及ぼすことです。


留置権


留置権とは何か?


留置権とは、他人の物の占有者が、そのものに関して生じた債権の弁済を受けるまで、そのものを留置(継続占有)する権利をいいます。留置権は、留置的効力によって、間接的に履行を強制するものであり、公平の見地から法律上当然成立する法定担保物権です。

留置権の例

例えば、皆さんが自分で使っているスマートフォンを壊してしまったとして、スマートフォンの修理店にそれの修理を頼んで預けたとします。その修理を請け負ったお店は皆さんがその代金を支払うまで、そのスマートフォンを留置(占有)する権利を持ちます。これが留置権です。イメージ湧きましたでしょうか?


留置権の成立要件


留置権が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。

民法295条 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。 
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。


①他人の物を占有していること

②そのものに関して生じた債権を持っていること(目的物と債権の牽連性)

③債権が弁済期にあること。

④占有が不法行為によって始まったものでないこと


留置権の効力


留置権者は、債権全額の弁済を受けるまで、目的物全部を留置できます。しかし、目的物を留置しているだけでは、被担保債権の主張とは言えないため、留置権を行使しても、被担保債権の消滅時効は中断しません。留置権者は、留置物を善良な管理者の注意をもって保管しなければなりません。


民法298条 
1項 
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。


そして留置権をもった人は、無断で留置物を使用したり、賃借っしたり、担保にしたりすることはできません。ただし、留置権の保存に必要な行為は、留置権者の判断で出来ます。

民法298条2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。


先取特権(さきどりとっけん)


先取特権とは何か?


先取特権とは、法律の定める特殊な債権を持つ人が、債務者の財産から優先的に弁済を受ける権利です。先取特権は、法律上当然に発生する法定担保物権であり、契約で発生させることはできません。先取特権にも、物上代位性があり、目的物の売却代金や資料などにも及びます。

民法304条 
1項 
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 
2項 
債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。


一般の先取特権


一般の先取特権は、債務者の総財産から優先弁済を受けるものです。一般の先取特権と特別の先取特権が競合する場合には、原則として特別の先取特権が優先します。
民法329条2項


動産の先取特権


1. 動産の先取特権とは何か?


動産の先取特権は、特定の動産から優先弁済を受けるものです。
民法311条

例えば、不動産の賃貸人は、賃料債権について、賃借人の動産(借地上に備え付けた動産など)から優先弁済を受けることができます。

民法312条 
不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。

民法313条 
1項 
土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。 
2項 
建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。

動産が転貸された場合には、賃貸人の先取特権は、転借人の備え付けた動産にも及びます。

民法314条 
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。


この不動産賃貸の先取特権は、不動産売買の先取特権に優先します。
民法330条


2. 即時取得


先取特権が成立するのは、本来、債務者所有の動産だけですが、債権者が債務者の所有物と加湿なく誤信した場合には、先取特権を即時取得します。
民法319条 
第192条から第195条までの規定は、第312条から前条までの規定による先取特権について準用する。


3. 目的物の第三者への引渡し


先取特権の目的物である動産が、その所有権を取得した第三者に引き渡されると、先取特権(動産先取特権だけでなく、一般先取特権も)は効力が及ばなくなってしまいます。

民法333条 
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

この引き渡しには、占有改定も含まれています。



不動産の先取特権


不動産の先取特権は、特定の不動産から優先弁済を受けるものです。例えば、不動産を売却した場合、売主は、代価およびその利息について、売却した不動産から優先的に弁済を受けることができます。

民法328条 
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。


不動産保存の先取特権は、保存行為完了後直ちに登記をすることにより、不動産先取特権は、工事を始める前に予算額を登記することにより、そして、不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に登記することによって、その効力を保存することができます。

民法337条 
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

民法338条 
1項 
不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。 
2項 
工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

また、不動産保存及び工事の先取特権については、登記をすれば、その不動産に先に抵当権が設定されていても、それに優先します。


質権(しちけん)


質権とは何か?


質権とは、債権者が担保として債務者または物上保証人から受け取った物を、債務が弁済されるまで留置して弁済を間接的に強制すると共に、弁済されない場合には、その担保物を競売して優先弁済を受けることのできる担保物権です。質権は、当事者の契約によって発生する約定担保物権です。


質権の設定


質権は、当事者の合意の他に、目的物の引き渡しがないと効力を発生しません。

民法344条 
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

この引き渡しには、占有改定は含まれません。質権設定者が質権者に代わって目的物を占有することは許されないからです。

民法345条 
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。


また、質権の目的物は、譲渡性のあるものに限定されています。

民法343条 
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。


譲渡性がないと、競売によって換価して優先弁済を受けることができないからです。


動産質


動産を目的とする動産質は、目的物の占有を継続することが対抗要件です。そのため、判例は、質権がいったん有効に成立した後に、目的物を質権設定者に返すと、第三者に対抗できなくなります。

動産質の目的を奪われた場合、質権者は、占有回収の訴えによってのみ、質物を回復することができます。質権自体の効力として、目的物を取り戻すことはできません。そのため、騙し取られたりすると、もはや質物を取り戻すことが出来なくなります。


不動産質


不動産を目的とする不動産質は、他の質権と異なり、原則として、目的物を使用収益することができます。しかし、その反面、不動産質権者は管理費用を負担し、再建の利息を請求できないのが原則です。

また、不動産質は、存続期間が10年以内となっています。


債権質


質権を目的とする債権質は、譲渡に証書の交付を要する場合には、その交付によって効力が発生する点と、質権者に債権の直接取立権がポイントとして挙げられますよう。


抵当権



抵当権とは何か


抵当権とは何か

抵当権の例として、イメージしやすいのは、マイホームを建てるときに住宅ローンを組むことでないでしょうか。一般的な例として、銀行は新築した建物とその土地に抵当権を設定します。もしローンの支払いが滞ってしまった場合、銀行はその抵当権を実行して、その売却代金から優先して弁済を受けることができます。

抵当権は、建物の所有者(抵当権設定者)がきちんとローン(債務)の支払いさえ行っていれば、自由に家に住んでいられる点で、設定者が自由にその目的物を使用できます。逆に、銀行(抵当権者)は、抵当権設定者の債務の支払いが滞らない限り、留置権や質権のように目的物を手元に留置できないという特徴を持っています。

1. 非占有担保物権


抵当権とは、目的物の占有を設定者の元にとどめ、設定者の使用収益を認めつつ、債務が弁済されない場合に、その物の交換価値から優先的に弁済を受けることのできる担保物権です。抵当権は、目的物の占有を留めたままの非占有担保物権であるため、留置する効力はありません。


2. 約定担保物権


抵当権は、目的物の所有者と債権者との契約によって成立する約定担保物権です。目的物の所有権は、債務者である必要はなく、第三者(物上保証人)でも構いません。


3. 目的物


抵当権は、目的物の占有を移さないため、抵当権の存在を公示する必要があります。そのため、抵当権の目的物は、登記による公示が可能な不動産・地上権・永自作権に限定されています。


4. 付従性


抵当権は被担保債権に付従します。付従性の本質は、抵当権の実行時に、被担保債権の存在を要求することです。そのため、成立における付従性は、緩和され、抵当権設定時に被担保債権が存在している必要はないとされ、将来発生する債権のために抵当権を設定することも認められています。


5. 抵当権の順位


一つの目的物に複数の抵当権を設定することができます。その場合の優先順位は、設定登記の順序によります。

民法373条 
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。


抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができます。ただし、利害関係人がいる場合には、その承諾を得る必要があります。そして、抵当権の順位の変更は、登記が効力発生要件であり、登記をして初めて効力が発生します。

民法374条 
1項 
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。 
2項 
前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。


抵当権の及ぶ範囲


1. 付加一体物


民法370条は、抵当権の目的物の範囲について、次のような一般的基準を定めています。

①土地と建物は別個独立の不動産だから、土地に設定された抵当権は建物には及ばない。

②抵当不動産の付加一体物(付加物)にも、抵当権の効力が及ぶ。


2. 従物


従物とは、継続的にある物(主物)の経済的効用を高めるために、付属している独立性のある物です。
民法87条1項

従物の例:
ガソリンスタンドの地下タンクや洗車機
最判平2.4.19

独立性を維持している従物は、付加一体(付加物)ではないというのが、判例です。しかし、従物は主物と法律的運命を共にし、主物を処分すると、その効果は従物にも及びます。
民法87条2項

そこで、判例では抵当権設定した時に存在した従物については、それを除外するんどの特段の事情のない限り、民法87条2項により、抵当権の効力が及ぶといっています。
最判昭44.3.28

しかし、抵当権設定後に生じた従物については、抵当権が及ばないとするのが判例です。


3. 果実


果実には、抵当権の効力が及ばないのが普通ですが、被担保債権について不履行があった場合には、抵当権は、その後に生じた抵当権不動産の果実にも及びます。

民法371条 
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。


抵当権の処分


1. 相対的処分


抵当権を被担保債権から切り離し、抵当権だけを処分(相対的処分)することができます。

民法376条 
1項 
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。 
2項 
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。

抵当権の相対的処分を債務者や抵当権設定者などに主張するには、債務者への通知または債務者の承諾が必要です。

民法377条 
1項 
前条の場合には、第467条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。 
2項 
主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。

2. 抵当権等の譲渡・放棄


抵当権の相対的処分として、抵当権者は、抵当権やその順位を譲渡することができます。譲渡されると、譲渡人・譲受人の双方の取り分から譲受人が優先弁済を受け、残りが譲渡人のものになります。
また、抵当権者は、抵当権やその順位を放棄することもできます。放棄されると、放棄者・受益者は同等の地位となり、放棄者・受益者双方の取り分をそれぞれの債券額によって比例分配することになります。

抵当権者が自分の受ける優先弁済の利益を一般債権者に与えるのが、抵当権の譲渡であり、後の順位の抵当権者に与えるのが、抵当権の順位の譲渡です。また、抵当権者が自分と同等の優先順位を一般債権者に認めるのが、抵当権の放棄であり、後の順位抵当権者に認めるのが、抵当権の放棄です。


抵当不動産の第三取得者の保護


抵当不動産を買った第三者を保護する制度として、代価弁済と抵当権消滅請求があります。

代価弁済とは、抵当不動産の所有権または地上権を買った第三者が、抵当権者の請求に応じてその提示額(代価)を支払った場合に、抵当権者は第三者のために消滅し、第三者は抵当権者に支払った範囲で代金債務を免れるというものです。

民法378条 
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。


これに対して、抵当権消滅請求は、抵当不動産を買った第三者が、抵当権者に対して、代価または指定金額を提供して抵当権の消滅を請求することです。

抵当権消滅請求は、抵当権の実行として行われる競売の差し押さえの効力が発生する前にしなければなりません。

民法382条 
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。


抵当権の実行


1. 抵当地上の建物


債権が任意に弁済されないと、抵当権が実行され、競売が行われることになります。競売されるのは、抵当権の目的物が原則です。しかし、抵当権設定後に抵当地に建物が建てられた場合、抵当権者は、土地と共に建物も競売できます。優先弁済を受けられるのは、土地の代価だけですが、建物も一緒に競売できます。ただし、建物の所有者が、抵当権の占有について抵当権者に対抗できる権利を持っている場合には、建物を一緒に競売することはできません。

民法389条 
1項 
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。 
2項 
前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。

2. 被担保債権の範囲


抵当権によって担保される被担保債権の範囲について、民法では利息などの定期金については満期になった最後の2年分に限定しています。遅延損害金も同様です。後順位抵当権者を保護するためです。


3. 抵当権に劣後する賃貸借


抵当権に劣後する賃貸借は、その期間にかかわらず、抵当権者に対抗できません。ただし、優先するすべての抵当権者の同意を得て、その旨の登記をおこなった場合には、例外的に賃貸借を抵当権者に対抗できます。

また、抵当権者に対抗できない建物の賃借人であっても、競売手続開始前から使用または収益をする者などには、6ヶ月間の建物明渡猶予期間が認められています。
民法395条

ただし、賃借人は、猶予期間中の使用の対価を建物の買受人に支払う必要があります。


共同抵当


1. 共同抵当


1つの債権を担保するために、複数の不動産に抵当権を設定している場合を共同抵当といいます。

2. 同時配当


共同抵当の目的物である複数の不動産を、同時に競売することを同時配当といいます。この場合、被担保債権は、不動産価格に応じて割り付けられ、共同抵当権者は、その額の範囲内で優先弁済を受けます。


3. 異時配当


共同抵当の目的である複数の不動産を、1つずつ順に競売することを異時配当といいます。この場合、共同抵当権者は、債権全額について競売された不動産から優先弁済を受けます。そして、競売された不動産の後順位抵当権者は、同時配当の場合に共同抵当権者が他の不動産から配当を受ける限度で代位できます。同時配当と同様の結果になるように調整するのです。
なお、土地に配当権の設定を受けた後、さらに、その土地条の建物にも抵当権の設定を受けた場合、いずれを競売にするかは、抵当権者の自由であり、抵当権者は、建物についてのみ競売することもできます。


法定地上権


1. 法定地上権の成立要件


次の要件を満たす場合に、法律上当然に地上権が成立します。

民法388条 
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること。

②土地と建物が同一の所有者に属すること

③土地・建物の一方または双方に抵当権が設定され抵当権の実行によって土地・建物の所有者が別人になっていること。

2. 建物の存在


抵当権設定当時、土地の上に建物が存在するという要件を遵守しており、更地に抵当権が設定された場合には、一貫して法定地上権の成立を否定しています。更地として評価した抵当権者の期待を保護するためです。

3. 同一の所有者


土地と建物が同一の所有者に属するという要件をかなり緩和しています。土地が共有の場合には、法定地上権の成立を否定しますが、建物が共有の場合には、法定地上権の成立を肯定しています。


抵当権の消滅


1. 被担保債権の消滅


抵当権は被担保債権に付従しますから、被担保債権が弁済等により消滅すると、抵当権も消滅します。ただし、被担保債権の一部が消滅するに過ぎない場合は、抵当権は不可分性により消滅しません。


2. 根抵当権の時効消滅


債務者および抵当権設定者(物上保証人)との関係では、債権が消滅せずに、抵当権だけが時効で消滅することはありません。また、これらのものが抵当不動産を時効取得しても、抵当権は消滅しません。

民法397条 
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。



これに対して、抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者との関係では、抵当権は、被担保債権とは別に20年の消滅時効にかかるというのが、判例です。


3. 地上権・永小作権の放棄


地上権・永小作権が消滅すると、それを目的とする抵当権も消滅します。しかし、抵当権の設定者である地上権者・永小作権者が、勝手に地上権・永小作権を放棄しても、その消滅を抵当権者に対抗することはできません。


根抵当権


1. 根抵当権


根抵当権とは、増減する不特定の債権を極度額まで担保する抵当権です。不特定の債権を担保すると言っても、包括的なものは許されません。
根抵当権によって、元本債権は、極度額を限度として、元本確定時に存するものだけが担保されます。これに対して、利息と損害金は、極度額を限度として、元本確定時に存するものに加えて、元本確定後に発生するものも担保されます。


2. 根抵当権の内容の変更


極度額は、担保範囲の最大限を示すものなので、元本確定前に極度額を変更するには、利害関係人の承諾が必要です。
これに対して、被担保債権の範囲や債務者については、元本確定前であれば、根抵当権者と根抵当権設定者の合意だけで、自由に変更することができます。ただし、これらの変更は、元本確定前に登記する必要があります。


3. 根抵当権の譲渡


元本確定前であれば、根抵当権者は設定者の承諾を得て、根抵当権という枠だけを譲渡することができます。根抵当権を全部譲渡することもできるし、根抵当権を分割して譲渡することもできます。ただし、分割譲渡するには、譲渡される根抵当権の極度額を定めなければなりません。
また、根抵当権者は、設定者の承諾を得て、根抵当権の一部を譲渡し、譲渡人が根抵当権を共有することもできます。


4. 元本の確定


根抵当権設定契約の当事者が合意で元本の確定期日を定めた場合、その到来によって、元本が確定します。元本確定期日の定めがない場合には、根抵当権者は、いつでも担保すべき元本の確定を請求でき、請求時に元本が確定します。そして、根抵当権設定時から3年が経過すると、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求でき、請求の2週間後に確定します。また、債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けた時など、民法398条の事由が発生すると、元本が確定します。
元本が確定し、極度額余裕がある場合には、根抵当権設定者は、極度額の減額請求ができます。逆に確定した債権が極度額を超えている場合には物上保証人などが極度額を支払って、根抵当権権を消滅させることができます。

民法398条 
地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。



次は民法の「債権」について紹介しています。
➡【リンク】8. 債権



2019年9月22日日曜日

【行政書士試験・民法】6. 所有権と占有権

6. 所有権と占有権





今回は所有権と占有権について紹介したいと思います。





所有権


所有権とは


所有権とは、特定のものを全面的に支配する権利のことです。所有権は物に対する全体的な支配権であり、所有者は、自由に物を使用収益したり、処分したりすることができます。ただし、法令の範囲内という制限があります。


相隣関係:そうりんかんけい


1. 境界


土地の所有者にとって、問題となるのが、お隣との関係(相関関係)です。両者の境界をはっきりとするために、土地の所有者は隣地所有者と共同で境界を表示する物(境界標)を設置することができます。設置費用および保存費用は、両者が同じ割合で(半分ずつ)負担しますが、測量費用は、土地の広さに応じて負担します。


2. 建物と境界線


建物は、境界線から50cm以上離して築造しなければなりません。これに違反する場合、隣地の所有者は、建築を中止させたり、変更させたりすることができます。ただし、その建物の完成後は、損害賠償を請求できるだけです。また、建物の着手時から1年を経過した場合も同様です。


3. 隣地の使用等


土地の所有者は、隣地との境界またはその付近で、障壁や建物を築造したり修繕したりするのに必要な範囲内で隣地の使用を請求することができます。ただし、隣人の住居に立ち入るためには、そのものの承諾が必要です。
土地の高低のために、隣地から自然に水が流れてきた場合、それを受諾しなければなりません。隣地の竹木の枝が境界線を越えて侵入してきた場合、その所有者に対して切り取るように請求できます。そして、侵入してきたのが根の場合は、自分で切り取ることができます。


周囲の土地の通行権


他の土地に囲まれて公道に通じない土地を「袋地」といい、囲んでいる方の土地を「囲繞地;いにょうち」といいます。

袋地の所有者は、公道に出るために、民法210条では通行することができるとされています。この民法210条に規定されている「公道に至るための他の土地の通行権」が囲繞地通行権といいます。

民法210条 
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。 
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

民法210条は、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」としています。通行権を有する者は、必要があるときは、道路を開設することもできます。通行の場所や方法は道場の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ない方法を選ばなければなりません。このさいに通行する他の土地の「損害」に対してお金を払わなければなりません。この、他人に与えた損害を償うために払うお金「償金;しょうきん」といいます。

袋地が、共有物の分割によって生じた場合や土地の一部譲渡によって生じた場合には、分割・譲渡の残余地についてのみ、無償での通行権が発生します。


所有権の取得方法


1. 所有権の原始取得


所有権を取得するのは、売買などの契約や相殺によって他人の所有権を引き継ぐ場合(承継取得)だけでなく、新たに所有権を取得する場合(原始取得)もあります。原始取得の代表的な例は、時効による所有権の取得です。

2. 無主物の先占(せんせん)


無主物の先占とは、誰の所有物にもなっていない物を所有の意思で占有することをいいます。「無主物」が誰のものにもなっていない物を意味し、「先占」とは他人より早く占有することを意味します。所有者のない動産を、所有の意思を持って占有すると、その所有権を原始取得します。
民法239条 
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

無主物先占の対象は、動産だけであり、無主の不動産は国庫に帰属します。


3. 遺失物の拾得・埋蔵物の発見


落し物などの遺失物は、遺失物法に従って公告後3ヶ月以内に所有者が判明しないと、拾った人(拾得者)が所有権を原始取得します。
※遺失物・・・所有していた人から見た、落とした物のこと
※拾得物・・・拾った人から見た、落し物のこと

民法240条 
遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

また、埋蔵物も、遺失物法に従って公告後6ヶ月以内に所有者が判明しないと、発見者が所有権を原始取得します。ただし、他人のものの中から発見された埋蔵物は、発見者とその物の所有者が折半します。

民法241条 
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。


4. 付合


不動産に従として付合(くっついて分離できない、または分離が相当でない)した動産は、不動産の所有者に帰属します。ただし、付合が権原(所有権を留保する法律上の正当な根拠)に基づくものであり、かつ、その動産が独立性を維持している場合は、その動産の所有権は、元の所有者にあります。

民法242条 
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。

所有者の異なる複数の動産が付合(分離することができない、または分離に過去の費用を要する)した場合、合成物の所有権は、主たる動産の所有者にあります。

民法243条 
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。

ただし、付合した動産の主従を区別できない場合には、付合当時の各動産の価格割合による共有となります。

民法244条 
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。


5. 加工


他人のものに工作を加えた場合(加工)、加工物の所有権は、材料の所有者にあるのが原則です。ただし、工作によって材料価格を大きく上回る価値がそう自他場合には、加工者のものになります。


共有


共有とは何か


共有とは、複数の人が、一つのものの上に均質な支配権を及ぼす場合をいいます。例えば、AさんとBさんがお金を出し合って事務所を買い、両者がその事務所に対して均質な支配権を及ぼすというのが共有の例です。


持分


共有者が目的物の上に有する権利を持分といいます。持分の割合は、各共有者とも同じと推定されています。

民法250条 
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

明文の規定はないですが、持分には、譲渡性が認められています。各共有者は、その持分を自由に譲渡することができます。また、持分を放棄することもできます。共有者の1人が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します。
民法255条 
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。


共有物の使用収益


共有者は、各々1個の所有権を持っており、共有物全部について使用収益をすることができます。共同で事務所を買ったAさんとBさんは、それぞれが事務所を全部使えるのです。しかし、共有状態にありますから、その使用収益は、各人の持分の割合に応じたものでなければなりません。
民法249条 
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。


共有物の変更


共有物を変更するには、共有者全員の同意が必要です。

民法251条 
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

共有物の変更とは、共有者の使用収益権能を制限する結果になることをいいます。
例;共有物の売買契約の締結やその解除


共有物の利用・改良行為・保存行為


共有物の管理に関する事項(利用・改良行為)は持分価格の過半数で決するのが原則です。

民法252条 
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

共有物の分割請求


各共有者はいつでも分割請求を行い、共有状態を解消することができます。ただし、5年以内の期間であれば、不分割特約を締結することもできます。分割方法について、共有者間で協議がまとまらない場合には、裁判所に分割を請求できます。

民法258条 
共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。 
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

裁判による分割の方法は、原則として現物分割です。



占有権


占有権とは何か


占有とは、対象となるものを自分の支配下に置いていることです。この占有に基づいて認められている物権が占有権です。


代理占有と占有権


1. 代理占有とは何か


他人(占有代理人)を通じて、間接的に物を支配していることを代理占有(間接占有)といいます。代理占有(間接占有)によっても、本人に占有権が認められます。例えば、賃貸人は、賃借人を通じて間接的に賃借物を支配しています。そのため、賃貸人には、賃貸物の占有権が認められます。


2. 占有代理人


占有代理人は、本人との占有代理関係に基づき、物を支配していますが、その支配には、独立性があります。そのため、占有代理人にも、独立した占有が認められています。


占有訴権


1. 占有訴権とは何か?


占有訴権(占有の訴え)とは、事実的に支配の解決を目的とするものであり、

①占有回収の訴え
②占有保持の訴え
③占有保全の訴え

という3種類の占有権があります。占有訴権は、占有者であれば誰にでも認められます。悪意の占有者や、泥棒にも認められます。また、直接占有者だけでなく、間接占有者も行使できます。

2. 占有回収の訴え


占有者の意思に反して所持が奪われた場合、占有者は、占有回収の訴えにより、そのものの返還請求ができます。占有回収の訴えを提起できるのは、占有者の意思に反して所持が奪われた場合です。騙し取られたり、落としたりして占有を失っても、占有回収の訴えを提起することはできません。
占有回収の訴えは、現在、その物を所持しているものに対して提起します。奪った人(侵奪者)だけでなく、悪意の特定継承人に対しても、提起できますが、善意の特定継承人には提起できません。

民法200条 
1項 
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。 
2項 
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

占有回収の訴えは、奪われたときから1年以内に提起しなければなりません。


3. 占有保持の訴え


占有を妨害された場合、占有者は、占有保持の訴えにより、妨害者(現に占有を妨害している者)に対して妨害者の費用で妨害を排除するように請求することができます。占有保持の訴えは、妨害が存在する間または妨害消滅後1年以内に提起しなければならないのが原則です。


4. 占有保全の訴え


占有保全の訴えとは、占有者が、占有を妨害する恐れのあるものに対して妨害の予防または損害賠償の担保を請求する権利です。

民法199条 
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。

占有保全の訴えは、妨害の危険がある限り提起できるのが原則です。


5. 占有訴権と本権の訴え


占有訴権は、所有者などの本権(物を支配できる権原)の訴えとは独立したものであり、一方で敗訴しても、他方を提起することができます。また、占有訴権は、本権の訴えとは独立していますから、それを本権に基づいて判断することはできません。例えば、占有回収の訴えの相手方に所有権等の本権があっても、それを理由に占有回収の訴えを否定することはできないのです。


占有物の返還と占有者の利益調整


1. 果実


果実とは、物(元物)から得られる経済的利益のことです。善意の占有者は、占有物から生じた果実を取得することができます。善意の占有者は、占有物の返還を求められても、果実は返還する必要がないのです。
これに対して、悪意の占有者は、占有物の返還を求められた場合には、果実も返還しなければなりません。果実を消費したり、過失によって損傷したり、収取を怠ったりした場合には、果実の代価を返さなければ(償還)ならないのです。

民法190条 
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。 
2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。


2. 占有物の滅失・毀損による損害賠償


占有を正当化する権原(本権)のない占有者が、その帰責事由によって占有物を滅失・毀損された場合、占有物の返還を求めた回復者に対して損害賠償をしなければなりません。賠償の範囲は、悪意の占有者なら、全損害です。善意の占有者なら、現に利益を受けている程度でよいとされています。


3. 支出した費用の償還請求


占有物を返還する場合、占有者は、返還を求めた相手方(回復者)に対して、支出した必要費の返還を請求することができます。

民法196条 
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。 
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

これに対して、有益費の償還を請求できるのは、価格の増加が現存している場合だけです。しかも、その額は支出額と価格の増加額のうち、回復者が選択した方とされています。さらに占有者が悪意の場合には、裁判所が相当の期限を許与できるため。直ちに償還してもらえるとは限りません。


次は民法の「担保物権」について紹介しています。
➡【リンク】7. 担保物権


2019年9月17日火曜日

【行政書士試験】民法177条の「第三者」とは?判例を交えて解説

【重要判例】 家屋明渡請求事件(民法177条の「第三者」)/最大判昭25.12.19




どうもTakaです。今回は、不法占拠者は、民法177条の「第三者」に該当するかどうかが争われた家屋明渡請求事件(民法177条の「第三者」)について紹介していきます。

 家屋明渡請求事件(民法177条の「第三者」)の内容




Aさんは、家をBさんに賃貸し、その後、この家をCさんに売却しましたが、Cさんは家の所有権移転登記をAさんから受けていませんでした。CさんはAさんから賃貸人の地位を継承したとしてBさんと交渉を行い家の賃貸借を解消する合意をなし、BさんはCさんから家明け渡しの代償として金銭を受け取って立ち退きました。しかし、その数日後にBさんはその家に戻ってきて家を占拠しまた住み着いてしまいました。そこで、CさんがBさんに対して、所有権に基づいて家の明渡しを求めて訴えを提起した。

 家屋明渡請求事件(民法177条の「第三者」)の争点


不法占拠者は、民法177条の「第三者」に該当するか?

民法177条 
不動産に関する物権の得喪及び変更は、不動産登記法 (平成16年法律第123号)その他の登記に関する法律の定めるところに従いその登記をしなければ、第三者に対抗することができない。


判決のポイント


不法占拠者は、民法177条の「第三者」に該当しない。よって、Cさんは登記がなくてもBさんに対抗できる。


判決要旨(最高裁判所HPより抜粋)


 不動産の不法占有者は、民法第一七七条にいう「第三者」には当らない。


➡【リンク】最高裁判所HP・・   昭和24(オ)296

2019年9月16日月曜日

【行政書士】物権総論の分野のトレーニング問題

【行政書士】物権総論の分野のトレーニング問題




●次の問のうち正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。

★物権とは


(1)物権とは、人のものに対する権利。物を直接かつ排他的に支配して利益を得る権利が、物権である。

〇…問題文の通り。


(2)物権には絶対性・排他性があり、物権の種類や内容は法律で定めたものに限定される。

〇…問題文の通り。


★物権の種類


(3)物権には、民法上、占有権、所有権、地上権、永小作権、地役権、入会権、留置権、先取特権、質権、抵当権の10種類がある。

〇…問題文通り。


★物権の変動


(4)物権の変動とは、例えば物権の対象物を所有している人が変わることである。

〇…例えばAが所有する自転車をBに売ったら、その車の物権はAからBに変動したことになる。


(5)物権の変動は、売買のみによって生じる。

×…物権の変動は、時効、相続などによっても生じる。


(6)物権の設定および移転は、当事者の意思表示だけでは、その効力を生じない。

×…物権の設定および移転は、当事者の意思表示だけによって、その効力を生じる。


★動産の物権変動


(7)動産に関する物件の譲渡は、その動産の引渡しが無ければ、第三者に対抗することができない。

○…動産に関する物権の譲渡は、第三者に対抗するためには、その動産の引渡しが必要である。

民法178条 
動産に関する物権の譲渡は、その動産の引渡しがなければ、第三者に対抗することができない。


(8)譲受人が現に専有物を所持する場合には、占有権の譲渡は、当事者の意思表示だけで有効に行うことができる。

○…簡易の引渡し。なお、代理人が現に占有物を所持する場合でも、簡易の引渡しは可能である。


(9)所有者は、絶対的に自由にその所有物の使用、収益、処分をする権利を有する。

×…所有者は「法令の制限内において」自由にその所有物の使用、収益および処分する権利を有する。

民法206条 
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


★不動産登記制度


(10)登記とは、土地や建物の所有者などがわかるように、不動産の物権変動を公示する方法である。

○…法務局など国が管轄する登記簿に不動産の権利に関する事項を記録しておくことである。


(11)不動産の物権変動を第三者に主張するには、登記が必要である。

〇…問題文の通り。


(12)公示の原則とは、物権の変動は第三者から認識できるように公示していなければならない、ということである。

○…公示の原則は、取引の安全を確保する制度のひとつで、例えば不動産の場合は陶器で公示する。


★対抗問題


(13)権利を他人に対して主張することを対抗といい、そのために必要な要件を対抗要件という。

○…問題文の通り


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2019年9月15日日曜日

5. 物権総論・・・物権の意味と全体像を勉強しましょう!

5. 物権総論


民法のアイコン


どうもTakaです。今回は民法の物権について全体像から説明していきたいと思います。





物権


物権とは何か?


物権とは、人のものに対する権利です。物を直接かつ排他的に支配して利益を得る権利が、物権です。例として、所有権が挙げられます。


物権の特徴


1. 物権法定主義


物権の種類や内容は、法律で定めた者に限定されます。当事者の合意によって、新しい物権を創設したり、物件に新しい内容を与えたりすることはできません。これを物権法定主義といいます。


2. 物権の絶対性


物権はすべての人に対して主張できる絶対的な権利です。その為、権利行使を妨害された場合は、妨害者が誰であろうとその妨害を排除することができます。


3. 物権の排他性


物権には排他性があります。一つの物の上に、同一内容の物権は、一つしか成立しません。これを一物一権主義といいます。一つの物の上に、所有権は一つしか成立しないのです。一つの物の上に、物権が競合する場合には、その優劣は、対抗要件を備えた順序によって決められます。



物権の種類

物権は民法上は次のように分類できます。んー、メッチャ沢山ですね!

物権の分類
物権の分類

ひとつひとつ分けてみましょう。

1. 所有権


所有権とは、その物を自由に使用・収益・処分できる権利のことです。つまり、特定の物を全面的に支配する権利のことです。所有者は自由に物を使用収益したり、処分したりすることができます。

民法206条 
所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。


2. 制限物権




制限物権(他物権)とは、制限が付いている物権のことです。例えば、地上権という権利は、工作物または竹木を所有するために他人の土地を使用できる権利のことをいいます。この権利は、「工作物または竹木を所有するため」の権利なので、自由な使用とは言えません。つまり、物に対する全面的な支配権である所有権の権能の一部を内容とする物権のことです。制限物権には、用益物権と担保物権があります。

用益物権
物を利用する機能を内容とする物権。ある用途のために他人の土地の使用や収益ができる権利で、例えれば、上の例で出たように地上権という権利は、工作物または竹木を所有するために他人の土地を使用できる権利がこれに当たります。


担保物権
物の担保価値の把握という機能を内容とする物権。例えば、お金を貸す場合、あらかじめ特定の物に担保物権を設定しておいて、返してもらえない場合は、その物に対する権利を譲り受けるという権利といったものが当たります。


3. 占有権


占有権とは、者の所持に基づいて認められる一種の物権です。物を支配しているという事実状態を保護する特殊な物権です。



物権の客体



物権は、物を直接かつ排他的に支配する権利です。ここでいう物とは実際に姿・形を持つ存在(これを有体物といいます)を意味しています。
物体の客体となるためには、有体物であることに加えて、

①支配可能性

②特定性

③独立性・単一性

という要件を満たす必要があります。物権の客体は、原則として、支配可能な、特定の一個の独立した物でなければならないということです。


不動産と動産


物は、不動産と動産に分けられます。不動産は、土地およびその定着物だけであり、それら以外の物は、すべて動産です。また、商品券等の無記名債権も、動産として扱います。
土地の定着物とは、土地に固定された状態で継続的に使用されるものをいいます。建物や線路などがこれに当たります。土地の定着物は、土地の一部を成し、土地の所有権に含まれるのが原則です。しかし、建物は、敷地から独立した一つの不動産です。土地と建物は、別々の独立した不動産であり、それぞれを独立して取引できます。


物権的請求権


物権的請求権とは何か?


物権的請求権とは、物権の円滑な実現に対する支障を除去し、正常化するための制度です。物に対する支配の維持あるいは回復を目的とする請求権であり、相手方の主観的事情は問いません。
物権的請求権には、物権的返還請求権・物権的妨害排除請求権・物権的妨害予防請求権があります。

所有権に基づく物権的請求権


所有者には、所有権に基づく物権的請求権として、次の権利があります。


①物権的返還請求権
目的物の戦友を奪われた場合、現にその目的物を占有している人に対して返還を請求できる。

②物権的妨害排除請求権
所有権の行使が権限なく妨害された場合には、その妨害の排除を請求できる

③物権的妨害予防請求権
所有権侵害の恐れがある場合には、それを防止するための措置を請求できる。


物権変動


物権変動とは何か


物権変動とは、当事者の発生・変更・消滅を意味します。所有権の移転や抵当権の設定が、物権変動です。


物権変動の方法


物権は、当事者の意思表示だけで変動します。意思表示があれば、それだけで物権変動が生じるのです。(意思主義)
よって、売買契約が成立すれば、それだけで所有権は移転します。


物権変動のタイミング


物権変動は、契約の成立と同時に生じるのが原則です。ただし、変動に障害がある場合には、その障害が除去されたときに生じます。例えば、期限があれば、それが到達した時に、停止条件が付いていれば、それが成就した時に物権変動を生じるのです。


混同


併存させておく必要のない対立する2つの法律上の地位が、同一人に帰属することを混同といいます。併存させておく必要のない2つの物権が1人に集中した場合、弱い方の物権は、強い方の物権に吸収されて消滅します。ただし、他に利害関係者が存在し、本人または第三者の利益のために2つの物権の併存を認める必要がある場合は消滅しません。

また、占有権は、他の物権と混同しても、消滅しません。

民法179条 
1項 
同一物について所有権及び他の物権が同一人に帰属したときは、当該他の物権は、消滅する。ただし、その物又は当該他の物権が第三者の権利の目的であるときは、この限りでない。 
2項 
所有権以外の物権及びこれを目的とする他の権利が同一人に帰属したときは、当該他の権利は、消滅する。この場合においては、前項ただし書の規定を準用する。 
3項 
前二項の規定は、占有権については、適用しない。


不動産の物権変動


不動産の物権変動の対抗要件


1. 登記


不動産の物権変動を第三者に主張する為には、登記という()対抗要件を備えなければなりません。物権には排他性がある為、不動産の物権変動があったことを知らせるようにすることが求められており、登記によって物権変動を公示して、取引の安全を図っています。(公示の原則)


2. 民法177条の第三者


登記を要求する理由は、取引の安全のためです。そのため、民法177条の第三者は、登記のないこと(欠缺;けんけつ)を主張する正当な利益のある者に限られ、正当な利益のない者には、登記がなくても、不動産の物権変動を主張できるというのが判例です。


3. 悪意と背信的悪意


単にその物権変動を知っているだけの悪意の第三者に対しては、登記がないと、物権変動を主張できませんが、自由競争の範囲を逸脱し、登記がないという主張が信義則に反すると認められている背信的悪意者には、登記なしで物権変動を主張できるというのが判例です。
そして、判例では背信的悪意者から譲り受けた転得者に対して物権変動を主張するには、転得者が背信的悪意者と評価されない限り、登記が必要であると言っています。


民法177条の第三者について
相続人のように当事者の地位を包括的に承継した者は、当事者と同一視されます。よって、その承継した者は第三者ではありません。また、次の①から⑤に当たる者は、登記のないことを主張する正当な利益がないので、民法177条の第三者ではありません。

①全くの無権利者

②不法占拠者

③詐欺や強迫によって登記の申請を妨げた者

④他人ために登記を申請する義務のある者

⑤一般債権者
※ただし、差押債権者・破産債権者など、目的物に支配を及ぼした債権者は、民法177条の第三者です。


不動産登記制度


1. 登記の対抗力


登記が対抗力を持つためには、次の要件を満たす必要があります。

①実体的権利に裏付けられていること

②適式な申請手続きに基づき、現実に登記簿に記録されていること


2. 登記請求権


登記せよ、あるいは登記に協力せよと請求する権利を登記請求権といいます。登記請求権は、権利変動を忠実に表すという登記制度の理想を実現するための特殊な権利です。そのため、目的物を転売しても、登記請求権を失わず、転売後であっても、買主は売主に対して登記請求権を行使できるというのが判例です。また、登記請求権は、消滅時効にかからないとされています。


対抗問題


1. 二重譲渡


例えば、Aさんが、自分の土地をBさんに売り、引き渡したものの、登記を移転しなかったことをよいことに、同じ土地をCさんに二重に売り、登記もCさんに移転したとします。


このように、二重に譲渡がなされた場合、譲渡人の一方が背信的悪意者でない限り、先に登記を備えたほうが所有権を取得します。そのため、登記を備えているCさんが背信的悪意者でなければ、Cさんが土地の所有権を取得することになります。


2. 取消しと登記


次の例に話を進めます。
Aさんは、自分の土地をBさんに売却するという契約をBさんの詐欺を理由に取り消しましたが、Bさんはそれを無視してCにその土地を売却したとします。


この場合は、いったん、買主に移った所有権が、取消しによって、売主に戻ると消滅することができます。そうすると、買主を基点として、売主が第三者に二重譲渡されたのと同じ結果になります。したがって、したがって、先に登記を備えたほうが土地の所有権を取得できるというのが判例です。


3. 契約の解除と登記


契約の解除によって所有権を回復したことを、解除後に出現した第三者に主張するにも、対抗要件を備える必要があると、判例ではいっています。解除後の第三者との関係は、対抗要件によって決まり、先に対抗要件を備えたほうが勝つというわけです。


4. 相続と登記


遺産分割によって所有権を取得したことを第三者に主張する場合には、登記が必要ですが、相続の放棄による所有権の取得は、登記がなくても第三者に主張できます。相続の放棄は、相続資格を遡及的に失わせるものであって、権利の移転を考えることができないのに対して、遺産分割は、いったん取得した権利の移転と見ることができるからです。


5. 時効と登記


時効取得の対象となっている不動産を元来の所有者が第三者に売ってしまった場合について、判例では、次のようにいっています。


①不動産の売却が時効進行中であれば、第三者はその不動産の所有者として時効の完成を迎えるのでありそのものを特別に保護する必要はないから、時効取得者が常に所有権を取得出来る。

②これに対して、不動産の売却が時効完成後の場合は、元来の所有者を起点にして、第三者と時効取得者に二重に譲渡されたのと類似の関係になるから、登記を先に備えたほうが所有権を取得する。


このように判例の立場では、第三者の出現が時効完成の前か後かで結論が大きく異なることになります。そこで判例は、取得時効の起算点を自由に設定することを禁止し、それを現実に占有を開始した時点に固定しています。


動産の物権変動


動産の物権変動の対抗要件


動産の物権変動の対抗要件は、引渡しであり、動産の物権変動を第三者に主張するためには引き渡しが必要です。
引き渡しとは、占有を移転することであり、①現実の引き渡し、②簡易の引き渡し、③占有改定、④指図による占有移転という方法があります。


引渡しの方法


1. 現実の引渡しと簡易引き渡し


現実の引渡しとは、物を文字どうりに引き渡すことです。これに対して簡易引渡しとは、譲受人またはその占有代理人がすでに目的物を所持している場合に、占有移転の合意だけで、占有が移転することです。賃貸人から賃借人に賃借物を譲渡する場合などに簡易の引き渡しが用いられます。


2. 占有改定


占有改定とは、譲渡人が、譲渡後も占有代理人として目的物を所持するという意思を表示することです。

民法183条 
代理人が自己の占有物を以後本人のために占有する意思を表示したときは、本人は、これによって占有権を取得する。


3. 指図による占有移転


指図による占有移転とは、他人に所有させている目的物を譲渡する場合に、譲渡人が、所有人に対して、以後は譲受人のために占有するように命じ、譲受人がそれを承諾することによって占有が移転することです。


動産の即時取得


動産の即時取得って何?


動産の即時取得とは、取引の安全を図るため、動産の占有者を権利者と過失なく信頼し、取引行為よって動産の占有を取得した者に動産の所有権あるいは質権を原始取得させる制度です。


即時取得の対象


即時取得の対象となるのは、動産だけであり、不動産は対象となりません。自動車は動産ですが、登録されたものは対象外で、未登録のものや登録を抹消されたものだけが即時取得の対象です。


信頼の対象


即時取得における信頼の対象は占有です。代理権があると誤信したり、行為能力があると誤信したりしても、救済されるわけではありません。制限行為能力者や無権代理人から動産を購入した場合、前の占有者の占有に対する信頼を保護する場面ではないから民法192条は適用されないのです。
民法192条


ただし、制限行為能力者・無権代理人と取引した者は、無権利の占有者ですから、この者から動産を譲り受けた転得者には、民法192条が適用されます。


有効な取引行為


即時取得は、取引の安全を保障する制度なので、有効な取引行為によって動産の戦友を取得した場合に限定されています。そのため、拾ったものを即時取得することはできません。ただし、即時取得に必要な取引行為には、売買・贈与・質権設定・弁済としての給付も含まれます。


目的物の引き渡し


現実の引き渡しや簡易の引き渡しによって戦友を取得した場合に、即時取得が認められます。そして、判例では、指図による占有移転についても即時取得を認めています。しかし、占有改定では、即時取得できないというのが判例です。外観上占有状態に変更が認められないからです。


即時取得の効果


即時取得によって、所有権。質権を原始取得()することができます。取引の性質が、売買なら所有権を、質入なら質権を原始取得します。前の占有者の権利を引き継ぐのではなく、何の制約もない真新しい権利を取得するのです。
しかし、占有物が盗品または遺失物の場合には、被害者または遺失者は、盗難または遺失時から2年間、占有者に対してその物の回復を請求できます。盗品または遺失物の場合は、即時取得の成立が盗難または遺失時から2年間猶予されるのです。

次は、民法の所有権と占有権について紹介しています。
➡【リンク】6. 所有権と占有権



2019年9月3日火曜日

【行政書士試験】時効と登記の関係について判例を交えて解説!所有権確認等請求事件(時効と登記)

【重要判例】 所有権確認等請求事件(時効と登記)/最大判昭41.11.22




どうもTakaです。今回は、平穏・公然・善意・無過失で占有を開始した不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に土地所有者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した第三者に対して、時効完成後、登記がなくても所有権の取得を主張することができるのかが争われた「 所有権確認等請求事件(時効と登記)」について紹介したいと思います。

 所有権確認等請求事件(時効と登記)の内容


Aさんは、Bさんが所有する土地を平穏・公然・善意・無過失で占有を開始し、その間にBさんは、その土地を第三者であるCさんに売却した。その後Aさんが当該土地の取得時効期間を経過した。


 所有権確認等請求事件(時効と登記)の争点


平穏・公然・善意・無過失で占有を開始した不動産の時効取得者Aは、取得時効の進行中に土地所有者Bから当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した第三者Cに対して、時効完成後、登記がなくても所有権の取得を主張することができるのか

判決のポイント


時効取得者Aは、時効完成後に登記を経由した第三者に対しては時効取得を対抗できないが、第三者Cのなした登記後に時効が完成した場合には登記を経由しなくても時効取得を対抗できる。

時効完成後の第三者Cは民法177条の対抗問題となるが、時効完成前の第三者は対抗問題とはならない。

なぜなら、時効完成後の関係は、B→AとB→Cという二重譲渡類似の関係にあるから。時効完成前の関係は、B→C→Aという当事者類似の関係にあるから。


時効取得者が、所有権を対抗するには
時効完成前の第三者に対しては・・・登記は不要
時効完成後の第三者に対しては・・・登記が必要


判決要旨(最高裁判所HPより抜粋)


不動産の時効取得者は、取得時効の進行中に原権利者から当該不動産の譲渡を受けその旨の移転登記を経由した者に対しては、登記がなくても、時効による所有権の取得を主張することができる。

➡【リンク】最高裁判所HP・・  昭和38(オ)516

2019年9月2日月曜日

時効援用権の喪失(請求異議事件)って何?行政書士試験の重要判例

【重要判例】時効援用権の喪失(請求異議事件)/最判昭41.4.20



どうもTakaです。今回は時効完成後、その完成を知らずに債務の承認や期限の猶予の申し入れをした場合でも、時効の援用をすることができなくなるのかが争点となった請求異議事件について紹介したいと思います。

時効援用の喪失(請求異議事件)の内容

AさんはBさんから金銭を借り入れたが、Aさんは弁済期到着後弁済せず、消滅時効期間が経過した。その後、Aさんは、Bさんに対して、分割支払いの申し入れをした。これにより、Aさんは時効利益を放棄したものと推定されるのではないか、したがって、貸金債権の消滅時効を援用することができないのではないか?


時効援用の喪失(請求異議事件)の争点

時効完成後、その完成を知らずに債務の承認や期限の猶予の申し入れをした場合でも、時効の援用をすることができなくなるのか?


判決のポイント

時効完成後、その完成を知らずに債務の承認をした場合でも、時効の援用をすることができなくなる。信義則がその理由である。


判決要旨(最高裁判所HPより抜粋)

一 消滅時効完成後に債務の承認をした場合において、そのことだけから、右承認はその時効が完成したことを知つてしたものであると推定することは許されないと解すべきである。

二 債務者が、消滅時効完成後に債権者に対し当該債務の承認をした場合には、時効完成の事実を知らなかつたときでも、その後その時効の援用をすることは許されないと解すべきである。

➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和37(オ)1316

【行政書士試験】時効制度のトレーニング問題

【行政書士試験】時効制度のトレーニング問題

最終更新日:2020年1月10日
【行政書士試験】時効制度のトレーニング問題


●次の問のうち正しいものには○、誤っているものには×をつけなさい。

★時効とは何か?

(1)時効とは、一定の事実状態が永続する場合に、それが真実の権利関係と一致するか否かを問わず、そのまま権利関係として認めようとする制度のことである。

〇…問題文の通り。


(2)時効は、一定期間が経過した事項の完成後から、その効力を発生する。

×…時効は、起算日に遡って、その効力を発生する。

民法 第144条 
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。


(3)時効の完成後、時効を援用しないという選択をし、時効の利益を放棄することもできる。

〇…時効は当事者が援用することも、援用しないことも選択することができる。


(4)旅館や飲食店の代金は、1年間で消滅時効にかかる。

〇…1年の短期消滅時効である。

民法 第174条 
次に掲げる債権は、一年間行使しないときは、消滅する。 
一 月又はこれより短い時期によって定めた使用人の給料に係る債権
二 自己の労力の提供又は演芸を業とする者の報酬又はその供給した物の代価に係る債権
三 運送賃に係る債権
四 旅館、料理店、飲食店、貸席又は娯楽場の宿泊料、飲食料、席料、入場料、消費物の代価又は立替金に係る債権
五 動産の損料に係る債権


(5)弁護士や公証人の職務に関する債権は、2年間で消滅時効にかかる。

〇…2年の短期消滅時効である。なお、2年間は事件が終了したときから起算する。

民法 第172条 
1項 
弁護士、弁護士法人又は公証人の職務に関する債権は、その原因となった事件が終了した時から二年間行使しないときは、消滅する。 
2項 
前項の規定にかかわらず、同項の事件中の各事項が終了した時から五年を経過したときは、同項の期間内であっても、その事項に関する債権は、消滅する。


(6)債権者が裁判に訴える(請求する)ことで、時効を中断させることができる。

〇…訴えが却下されたり、自ら取り下げたりした場合は、時効は中断しない。

民法 第147条  
時効は、次に掲げる事由によって中断する。 
一 請求
二 差押え、仮差押え又は仮処分
三 承認


民法 第149条 
裁判上の請求は、訴えの却下又は取下げの場合には、時効の中断の効力を生じない。

★時効の援用

(7)借金があり、返済する意思があっても、時効になると、法律行為を速やかに安定させる必要があり、借金を返済することは出来なくなってしまう。

×…時効の援用をせずに、借金を返済することもできる。


(8)時効の援用は、債務者本人だけが出来ることで、保証人はできない。

×…時効によって利益を得るものが事項の援用をすることができるので、保証人も時効を援用できる。


★時効の中断と停止

(9)時効が中断し、新たに進行を始めた時は、残りの時間だけで時効が完成する。

×…時効が中断すると、進行した時効は振出しに戻る。


★取得時効

(10)取得時効とは、例えれば、土地の所有者のような外観でその土地に権利行使をしている状態が長期間続くと、法的にもその土地の所有権の取得を認めようという制度である。

〇…問題文の通り。


(11)AはB所有の土地をBの所有であると知りつつ、所有の意思を持って平穏かつ公然に10年間占有した場合、その土地の所有権を取得する。

×…善意無過失で占有を始めた場合には、占有期間が10年に短縮される。善意無過失が要求されるのは、占有開始の時だけ。悪意・有過失の場合は20年。


★消滅時効

(12)消滅時効とは、権利を行使せず放置しているために、その権利が存在しないかのような状態が長期間続いた場合には、法的にもその権利は存在しないものと扱う制度である。

〇…問題文の通り。


(13)10年間行使されなかった債権は消滅する。

〇…10年が民事債権の消滅時効である。

民法167条 
1項 
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。 
2項 
債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。


(14)権利を行使することができる時から消滅時効は進行する。

〇…消滅時効進行の原則。
民法166条 
1項 
消滅時効は、権利を行使することができる時から進行する。 
2項 
前項の規定は、始期付権利又は停止条件付権利の目的物を占有する第三者のために、その占有の開始の時から取得時効が進行することを妨げない。ただし、権利者は、その時効を中断するため、いつでも占有者の承認を求めることができる。

4. 時効制度・・・援用ができる「当事者」と中断の効力が及ぶ範囲に関して理解しましょう。行政書士試験の勉強

4. 時効制度


4. 時効制度・・・援用ができる「当事者」と中断の効力が及ぶ範囲に関して理解しましょう。行政書士試験の勉強

どうもTakaです。今回は民法の分野の「時効制度」について説明したいと思います。


時効制度



時効とは何か?


時効とは、一定の事実状態が永続する場合に、それが真実の権利関係と一致するか否かを問わず、そのまま権利関係として認めようとする制度のことです。時効には、取得時効と消滅時効があります。
時間が経つことにより権利を取得するのが取得事項で、
時間が経つことにより権利を失うことになるのが、消滅時効です。


時効の中断と停止


時効の中断とは?


時効が完成するには、一定の事実状態が一定期間続かなければなりません。その事実の状態が継続していることが破られることを時効の中断と言います。時効が中断すると、それまでに経過した期間はご破算となりクリアされます。そして、また振り出しに戻ってしまいます。そして、中断事由の終了後に、また新たな時効が進行します。

法定中断


取得時効、消滅時効に共通する中断事由は、

①請求

②差押さえ、仮差押さえまたは仮処分

③承認

の3つです。これらの中断を法定中断といいます。
法定中断の効力は、原則として当事者およびその承認人にしか及びません。この事を中断の相対効といいます。

裁判上の請求

請求の代表例は、裁判上の請求です。権利者が原告として訴えを提起すると、その時点で時効中断の効果が発生します。この中断の効果は、請求を認める判決が確定するまで続きます。そして、その判決が確定すると、その時点からあらたな時効が進行を開始します。ただし、訴えが却下されたり、取り下げられたりした場合は、時効中断の効力は生じません。


催告

催告とは、裁判外で執行を請求することです。催告は裁判所が関与せず、単に債務の履行を請求するだけですから時効は中断しません。しかし、催告も一時のつなぎにはなり催告後6ヶ月以内に裁判上の請求などをすれば、時効を中断することができます。ただし、催告を繰り返すことはできません。

承認

承認とは、相手方の権利の存在を事実として認めることであり、支払猶予の申し込みや利息の支払いがこれに当たります。承認をするには、行為能力や代理権といった処分の能力や権限は必要なく、管理の能力・権限があれば良いとされています。

自然中断

取得時効の成立には、一定期間の占有の継続が必要です。占有を自ら中止したり、他人に占有を奪われたりして占有が途切れると、経過した期間はご破算となってしまいます。これを自然中断といいます。

時効の停止

時効の停止とは、時効の進行が一時中断する制度です。時効完成間際に中断を困難にするような事情が生じた場合、その事情が消滅し、所定期間が経過するまでは、時効が完成しないとして、自己の怠慢によらず時効を中断できなかった者を保護しようとするものです。

時効の援用

1. 援用とは何か?

援用とは、時効によって利益を受けるものが、その利益を受けるという意思を表示することです。この時効によって利益を受けるものを「当事者」と判例では定めています。つまり、当事者が時効が完成したよと主張しないと時効の効果が発生しません。
時効の効果が発生するか否かは、当事者の意思にかかっています。時効の効果は、援用をしたものにのみ発生し、援用の効果は、当該援用者のみ及ぶのが原則となっています。

2. 援用権者

援用を受ける権利を持つ者は、時効によって直接利益を受ける者であるとしつつ、保証人は勿論、物上保証人や抵当不動産の第三取得者にも援用権を認めています。


時効の利益の放棄

1. 時効完成前の放棄


民法では、時効の完成前に、時効の利益を放棄する事を禁止しています。債権者によって濫用される恐れがあるためです。

民法146条 
時効の利益は、あらかじめ放棄することができない。

2. 時効完成後の放棄


民法の反対解釈より、時効完成後であれば、時効の権利を放棄することができると解されています。時効の完成を知りつつ、その利益を受ける事を放棄することができるのです。
時効の利益を放棄すると、時効の援用権を失い、時効の利益を享受できなくなります。この効果は、放棄したものにのみ生じ、他の援用権者には及びません。
時効の利益放棄後には、再び新たな時効の進行が開始されます。

3. 債務の自認行為


債務の消滅時効の完成を知らずに、債務者が債務の一部を弁済したり、弁済の猶予を求めたりしたとしても、時効の完成を知らない以上、時効の利益を放棄したとはいえません。しかし、これらの行為がなされると、相手方はもはや時効を援用されることはないとの期待を抱くのが通常です。そのため、判例では、これらの行為を行った後に事項を援用することは信義則上許されないとしています。
【重要判例】時効援用権の喪失(請求異議事件)/最判昭41.4.20

ただし、その後再び新たな時効が進行するまで否定するものではないと、判例ではいっています。
【重要判例】時効の利益の放棄/最判昭45.5.21



取得時効


取得時効とは何か?


取得時効とは、この章の冒頭で、一定の期間の経過である権利を取得してしまうことだと説明しました。例えば、土地の所有者のような外観でその土地に権利行使ををしている状態が長期間続くと、法的にもその土地の所有権を認めるという制度です。

取得時効の対象


取得時効の対象となるのは、所有権・地上権といった財産権です。他人の土地を通行できる権利である身分権の取得事項は認められない権利があります。
例えば、留置権(他人の物の占有者が、そのものに関して生じた債権の弁済を受けるまで、その物を留置することを内容とする権利・・・例:自動車の修理でお店にお金を払うまで車をお店に置いておくこと)・先取特権(債務者の財産について他の債権者に先立って自己の債権の弁済を受ける権利・・・例:家賃滞納などで、自分の家の家具などが競売にかけられた時に、他の債権者よりも優先的に返済を受けられる権利)は、法律が定めた要件を満たして初めて取得できる権利なので、時効によって取得することはできません。
債権も、時効によって取得することはできないのが原則ですが、不動産賃借権については取得時効を認めるのが、判例です。
【重要判例】土地建物所有権移転登記抹消登記手続事件/最判昭43.10.8


所有権の取得時効

所有権の取得時効の要件


次の要件を満たすと、所有権の時効取得が完成します。


民法 第162条 
1項 
二十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その所有権を取得する。 
2項 
十年間、所有の意思をもって、平穏に、かつ、公然と他人の物を占有した者は、その占有の開始の時に、善意であり、かつ、過失がなかったときは、その所有権を取得する。

■所有権の時効取得の要件
①20年間、占有を継続すること

②占有が所有の意思のあるものであること

③占有が平穏かつ公然となされていること

④占有の対象が他人のものであること

占有期間の特則


自分のものであると信じて、なおかつそう信じることに過失がない状態(善意無過失)で占有を始めた場合には、占有期間が10年に短縮されます。善意無過失が要求されるのは、占有の開始時だけです。占有の開始時に善意無過失でありさえすれば、その後に悪意になってもの構わないということです。

また、占有を引き継いだ者は、自分自身の占有期間だけを主張してもいいですし、前の占有者の占有期間を合算して主張しても良いとされています。
ただし、前の占有者の占有期間を合わせて主張する場合には、前の占有者の占有の瑕疵(不利な事情)も引き継がなければなりません。前の占有者が悪意なら、それも引き継がなければならないということです。

所有の意思


所有の意思とは、権利の性質から客観的に判断して所有権の行使と認められるとこをいいます。つまり、外から見て所有者のように見えることをいっています。所有の意思の有無は、占有取得の原因(権原)または占有に関する事情により、外形的客観的に決定すべきであるということが判例です。

【重要判例】 民法186条1項の「所有の意思」の推定が覆される場合
(土地所有権移転登記手続事件)/最判昭58.3.24

所有権の時効取得の対象


所有権の時効取得の対象は、他人の物です。物であればよくて、動産・不動産を問いません。しかも、土地については、土地全体だけではなく、その一部について時効取得することもできるというのが、判例です。

取得時効の効力


時効による所有権の取得は、承継取得ではなく、原始取得です。時効によって取得した所有権は、抵当権や地上権などといった制限のついていない完全な支配権です。時効の効力は、起算日に遡ります。

民法144条 
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

そのため、取得時効が援用されると、時効の完成時ではなく、時効の起算日から所有権を持っていたことになり、時効期間中に生じた果実は、時効取得者に帰属します。


消滅時効


消滅時効って何?

消滅時効とは、一定の期間の経過で、ある権利を失ってしまうことです。つまり、権利を行使せず放置しているために、その権利が存在しないかのような状態が長期間続いた場合には、法的にもその権利は存在しないものと扱う制度です。

消滅時効の対象

消滅時効にかかる権利の主な例は、債権です。また、地上権なども、消滅時効にかかります。しかし、所有権は消滅時効にかからないとされています。

債権の消滅時効

1. 消滅時効期間

普通の債権の消滅時効期間は10年であり、10年間放置しておくと、債権は時効によって消滅するのが原則です。

民法 第167条 
1項 
債権は、十年間行使しないときは、消滅する。 
2項 
債権又は所有権以外の財産権は、二十年間行使しないときは、消滅する。

債権の中には、10年よりも短い期間で時効が消滅するものもあります。これを短期消滅時効といいます。これらの権利も、裁判上の請求によって時効が中断し、その裁判が判例や和解などによって確定すると、新しい時効が開始します。その新しい時効は、短期消滅時効ではなく、時効期間は10年とされています。

2. 時効の起算点

消滅時効は、権利を行使することができる時から進行します。権利を行使することができる時とは、債権行使の法律上の障害がなくなり、債権を実現できるようになった時をいいます。法律上の障害とは、期限が到達していないことおよび条件が成就していないことです。


3. 消滅時効の効力

消滅時効の効力も、起算日に遡ります。

民法144条
時効の効力は、その起算日にさかのぼる。

消滅時効が援用されると、債権は起算日に遡って消滅していたことになるのです。


次は民法の物権について紹介しています。