2020年1月26日日曜日

川崎民商事件って何?行政書士試験の重要判例・・所得税法が規定する税務署による質問検査は、憲法35条に違反しないか?

【重要判例】川崎民商事件/最大判昭47.11.22


川崎民商事件って何?行政書士試験の重要判例・・所得税法が規定する税務署による質問検査は、憲法35条に違反しないか?


今回は、行政手続に憲法35条(令状主義)、憲法38条(不利益供述の強要禁止等)の規定が適用されるか?どうかが問われた川崎民商事件について紹介したいと思います。

川崎民商事件の内容


川崎税務署は、被告川崎民主商工会員Aさんの所得税確定申告に疑いを抱き、帳簿書類を検査しようとしたところ、Aさんはこれを拒み、検査拒否罪で起訴された。Aさんは、検査拒否罪は、憲法35条、38条に違反すると主張した。

憲法35条 
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

憲法38条 
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。


川崎民商事件の争点


①所得税法が規定する税務署職員による質問検査は、裁判所の判断を経ることなく行政庁の判断だけで行えるとしている点で、捜索・押収には正当な理由に基づいて裁判所が発する令状が必要であるとする憲法35条に違反しないか?

②所得税法が規定する税務署職員による質問検査は、自己に不利益な供述の強要を禁止する憲法38条に違反しないか?


判決のポイント


憲法35条1項に違反しない。

刑事責任追及を目的としない手続きにおいて、一切の強制が憲法35条1項の保障の枠外にあると解すべきではないが、税務署職員による質問検査があらかじめ裁判所の発する令状によるべきことを一般要件としていなくても、憲法35条1項に違反しない。

憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下に置かれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続きが刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。


憲法38条に違反しない。

憲法38条1項による保障は、刑事手続き以外でも、それが実質上の刑事責任追及を目的とした資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続きには等しく及ぶ解するべきであるが、税務署職員による質問検査は、そのような手続には当たらないので、自己に不利益な供述を強要するものではない。

憲法38条1項による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、等しく及ぶものと解するものを相当とする。


➡【リンク】最高裁判所HP・・     昭和44(あ)734

2020年1月23日木曜日

個人タクシー事件って何?行政書士試験の重要判例・・事業免許申請の許否手続において抽象的な免許要件を定めていれば足りるか?行政庁は申請人に主張・立証の機会を与える必要があるのか?

【重要判例】個人タクシー事件/最判昭46.10.28


個人タクシー事件って何?行政書士試験の重要判例


今回は、事業免許申請の許否手続において抽象的な免許要件を定めていれば足りるか?行政庁は申請人に主張・立証の機会を与える必要があるのか?が問われた「個人タクシー事件」について紹介したいと思います。

個人タクシー事件の内容


Aさんは、陸運局長Bさんに対して、一般乗用旅客自動車運送事業(個人タクシー)免許申請を行なったが、道路運送法6条1項3号〜5号の用件に該当しないことを理由に申請が却下された。これに対し、Aさんは陸運局側はあらかじめ審査基準を定めてその内容を申請人に告知することにより申請人に主張と証拠提出の機会を与えるのべきにもかかわらず、それがなされないまま申請を却下したのは、職業選択の自由にかかわる法的利益を侵害するものであり違法であり違法であると主張し、Aさんは申請却下処分の取消しを求めて出訴した。


個人タクシー事件の争点


①個人タクシー事業の免許申請の許否手続において抽象的な免許要件を定めていれば足りるか?


②申請人に主張・立証の機会を与える必要があるのか?



判決のポイント


①抽象的な免許基準だけでは足りず、具体化した審査基準を設定しなければならない。


②申請人に主張・立証の機会を与える必要がある。


個人タクシー事業免許が個人の職業選択の自由に関わりを有すことと、道路運送法の規定を合わせ考えれば、多数のもののうちから少数特定の者を具体的個別的事実関係に基づき行政庁の判断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続きをとってはならず、法律上の抽象的な免許基準を具体化した審査基準を設定し、基準を適用する上で必要とされる事項について、申請人に主張と証拠の提出の機会を与えなければならない。


➡【リンク】最高裁判所HP・・    昭和40(行ツ)101


2020年1月22日水曜日

大阪国際空港公害訴訟って何?行政書士試験の重要判例・・営造物の設置又は管理の瑕疵とは何か?将来にわたって継続する不法行為を理由とする損害賠償請求は認められるのか?

【重要判例】大阪国際空港公害訴訟/最大判昭56.12.16




どうもTakaです。今回は、民事上の請求として、一定の時間帯につき航空機のの離着陸の為になされる国営空港の供用の差止を求めることはできるのか?営造物の欠陥以外の原因を理由として国家賠償法2条1項が規定する営造物の設置・管理の瑕疵を認定することは許される?将来にわたって継続する不法行為を理由とする損害賠償請求は認められるのか?が争点となった「大阪国際空港公害訴訟」について紹介します。


大阪国際空港公害訴訟の内容


大阪国際空港(現在の伊丹空港)は、昭和34年の開設以来、拡張を重ね、大型のジェット機が頻繁に離着陸するようになり、周辺の地域に深刻な騒音光害をもたらした。そこで。周辺住人は、空港の設置者である国に対し、国家賠償法2条1項に基づく午後9時から翌朝7時までの空港の使用差し止めと、過去及び将来に係る損害賠償の支払いなどを求めて出訴した。

国家賠償法2条 
1項 
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。


大阪国際空港公害訴訟の争点


国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは何か?

民事上の請求として、一定の時間帯につき航空機のの離着陸の為になされる国営空港の供用の差止を求めることはできるのか?

営造物の欠陥以外の原因を理由として国家賠償法2条1項が規定する営造物の設置・管理の瑕疵を認定することは許されるか?

将来にわたって継続する不法行為を理由とする損害賠償請求は認められるのか?


判決のポイント



国家賠償法2条1項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう。そこにいう安全性の欠如すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、物的施設自体にある物理的、外形的な欠陥ないし不備によって危害を発生させる危険性がある場合だけではなく、その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を発生する危険性がある場合をも含み、また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解するべきである。

①求めることは認められない。

行政訴訟の方法により請求をすることはともかく、通常の民事請求として、一定の時間帯についての国営空港の供用の差し止めを求めることは認められない。


②許されない

営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態には、営造物が供用目的によって利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合も含む。つまり、飛行機の離発着による騒音公害も含むということ。また、その危害は、当該営造物の利用者以外の第三者に対するそれをも含む。つまり、周辺住民への被害も含むということ。


③認められない。

不法行為が将来も継続することが予想されても、損害賠償請求権の成否・額をあらかじめ一義的明確に認定できないなどの場合には、将来の給付の訴えとして損害賠償を求めることは認められない。



➡【リンク】最高裁判所HP・・   昭和51(オ)395

多摩川水害訴訟って何?行政書士試験の重要判例・・河川の安全性とは?また河川管理の瑕疵とは?

【重要判例】多摩川水害訴訟/最判平2.12.13


水害当時の写真 狛江市HPより抜粋 -悪夢のような多摩川堤防決壊


どうもTakaです。
今回は、改修済みの河川における安全性とは何かが問われた「多摩川水害訴訟」について紹介したいと思います。この水害に関しては、長年にわたって裁判で争われた事案で一審は原告の住民が勝訴。控訴審は国が勝訴したが、上告審で破棄差し戻しとなった。最終的には、差戻控訴審で住民が勝訴し、確定しました。今回は、上告審で示された、河川の安全性とは?また河川管理の瑕疵とはどう考えられるかに焦点を当てて、内容を紹介したいと思います。


多摩川水害訴訟の内容


多摩川は、昭和41年に河川法4条に基づき一級河川に指定され、同年7月に建設大臣が策定した「多摩川水系工事実施基本計画」に従って改修工事が実施されました。しかし、狛江市猪方地区については、「改修工事完成区画」とされて、新しい改修の計画はなされませんでした。

そんな中、昭和49年は夜から降り続いた豪雨により、多摩川は著しく増水し、堤防及びその後背地の一部が浸食されて家屋19棟が流されてしまいました。この時の洪水は過去に発生した洪水とほぼ同程度のものであり、そこで、この水害の被害者らは、河川を管理する国に対して、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を請求した。

国家賠償法2条 
1項 
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。


多摩川水害訴訟の争点


①河川の安全性とは何か?

②河川の改修整備がなされた後に水害発生の危険の予測が可能となっていた場合には、それについての河川管理の瑕疵はどのように考えるべきか?


判決のポイント


①河川の備えるべき安全性とは、一般に施行されてきた治水事業の過程における河川の改修・整備の段階に対応する安全性を持って足りるものとせざるを得ない。工事実施基本計画が策定され、右計画に準拠して改修・整備の必要がないものとされた河川の改修、整備の段階に対応する安全性とは、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性をいうものと解すべきである。

②改修整備後に水害発生の危険の予測が可能になった場合の河川管理の瑕疵は、過去に発生した水害の規模や頻度の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無といった諸般の事情、河川管理における財政的・技術的・社会的制約を考慮した上で、当該危険の予測が可能となった時点から現実の水害発生時までの間にその危険に対する対策を講じるべきであったか否かを判断すべきである。

以上の①②の様に示されました。
➡【リンク】最高裁判所HP・・   昭和63(オ)791

2020年1月16日木曜日

川崎駅非番警察官強盗殺人事件って何?行政書士試験頻度の重要判例・・公務員の職務行為の範囲ってどこまで?

【重要判例】川崎駅非番警察官強盗殺人事件

(公務員の職務行為の範囲)/最判昭和31.11.30


【重要判例】川崎駅非番警察官強盗殺人事件 (公務員の職務行為の範囲)/最判昭和31.11.30


どうもTakaです。
今回は、公務員の行為が、外形から見て職務執行行為といえる場合、国家賠償法1条1項の職務を行うについて該当するかが問われた「川崎駅非番警察官強盗殺人事件」を紹介したいと思います。

川崎駅非番警察官強盗殺人事件の内容


警視庁の巡査Aは、非番の日に、川崎駅前で制服制帽を着たうえで、仕事を装って通行人を呼び止め、現金等を取り上げた後、その通行人を射殺した。そこで、被害者の遺族が東京都に損害賠償を請求した。

川崎駅非番警察官強盗殺人事件の争点


公務員の行為が、外形から見て職務執行行為といえる場合、国家賠償法1条1項の職務を行うについて該当するか?

国家賠償法1条 
1項 
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

判決のポイント


該当する


国家賠償法1条は、公務員が主観的に権限行使の意思を持ってする場合に限らず、自己の利を図る意思を持ってする場合でも、客観的に職務執行の外形を備える行為をして、これによって、他人に損害を加えた場合には、国または公共団体に損害賠償の責を負わしめて、広く国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきである。


➡【リンク】最高裁判所HP・・  昭和29(オ)774

高知落石事件って何?行政書士試験の重要判例・・管理の瑕疵により損害が発生しても国・公共団体は賠償責任を免れるか?

【重要判例】高知落石事件/最判昭和45.8.20

【重要判例】高知落石事件/最判昭和45.8.20


どうもTakaです。
今回は、道路における防護柵等を設置することが予算上困難である場合、道路管理の瑕疵により損害が発生しても、国または公共団体は賠償責任を免れることができるかが
争点となった「高知落石事件」を紹介したいと思います。

高知落石事件の内容


高知県の山間部にある国道56号線を走っていたトラックに落石が直撃して、助手席に乗っていた人が死亡しました。この道路には以前から落石が多かったが、県は「落石注意」の標識程度の対策しか行っていませんでした。そこで、死亡した被害者の遺族が、事故は国道の管理者である国・県の道路管理に瑕疵があったことが原因であるとして、損害賠償を請求した事件です。

高知落石事件の争点


道路における防護柵等を設置することが予算上困難である場合、道路管理の瑕疵により損害が発生しても、国または公共団体は賠償責任を免れることができるか?

判決のポイント


免れない。


国家賠償法2条でいう設置管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国及び公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないとし、さらには落石の対策には予算が掛かり、管理する国や県が困ることにはなるが、だからといって莫大な費用が掛かることは免責事由とはならない。

国家賠償法2条 
1項 
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。 
2項 
前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。


➡【リンク】最高裁判所HP・・  昭和42(オ)921

2020年1月1日水曜日

【行政書士試験・一般知識】1. 政治(国家とは何か?)

1.政治(国家とはなにか?)



今回は一般知識の分野「国家」について勉強していきましょう。


国家ってなんだろう?


【行政書士試験・一般知識】1. 政治(国家とは何か?)


国家となる条件


国家とは、一定の地域とそこに住む住民に対して、他国の影響を排して権力を行使する政治組織のことをいいます。

現代における国家は次の3つの要素で成立しているといわれます。

国家の3要素

①領域・・領土・領海・領空

②国民・・そこに居住している住民

③主権・・領土と国民を統治する有効な政府


国家の体制


それでは、国家にはどのような種類の体制を持った国があるのでしょうか?それぞれ見てみましょう。

現在の民主的な世界では、立憲君主制と共和制が代表的な国家体制です。ただし、一部は軍事国家や独裁国家なども存在します。

1. 君主制


君主制は、国や皇帝など君主が支配する政治体制です。そのうち、君主の権力が制限されない政治体制を絶対君主国家(専制君主制)、憲法によって制限される政治体制を立憲君主国家といいます。

近代以降、君主国家は減少し、20世紀には、多くの国が君主制から共和制へと移行しました。


2. 共和制


君主を置かず、国民により選出されたリーダーによって国を統治する政治体制を共和制といいます。


民主主義の基本原理

民主主義には次の4つの基本原理があります。

①国民主権・・政治の主役が国民であること

②基本的人権の尊重・・国民の人権の保証

③権力分立則・・権力が1つに集中しないこと

④代議制・・国民が選んだ議員による政治


民主主義は住民が直接政治に参加する直接民主制と、国民が選挙で代表を選び、選ばれた議員が議会で政治を行う間接民主制に分けれらます。
すべての国民が直接政治に参加するのは現実的ではないことから、多くの国で間接民主制が採用されています。


近代国家とは?


近代の国家は、大きな流れとして次のように変わってきました。

18世紀から19世紀には多くの国が「夜警国家」と呼ばれる、
政治の役割が、安全保障や警察等に限られた、最低限に絞った、消極的な
ものでしたが、当時の社会は、資本主義社会へと移行しており、結局、資産を持っている人はより富み、貧しい人は貧しいままで、貧富の格差が拡大することとなりました。


この社会問題を議論し、社会権という概念が誕生します。
そして克服すべく、

20世紀に入っていくつかの国が「福祉国家」へと移ってきました。
すべての人が人間らしく、生活できるよう保障するのが国家の役割。国家が積極的に国民生活に関与する国家です。