4. 行政行為・・・行政書士試験で押さえておきたいポイント
行政行為とは
行政行為とは、一般的には、行政庁がその一方的な判断で国民の権利義務その他法的地位を具体的に決定する行為を言います。
行政行為の特徴
①一方的であること
②直接的であること
③特定の国民についての
④具体的権利を決定すること
行政の活動によるものでも、特定の国民の具体的権利ではなく、一般的に全ての国民に対する基準を作る行政立法や、任意の協力依頼であって一方的に権利義務を決定するわけではない行政指導は、行政行為ではありません。
一般民法の秩序では、市民の権利義務は、当事者双方の自由な合意が形成されたときに成立します(私的自治の原則)。しかし、行政関係においては、行政目的の確実、迅速、公平な達成のために、私人に一方的に義務を課したり、権利を与えたりする必要があります。
例えば、公共工事の用地取得を、常に任意買収の手段で行うとすれば、用地買収の完了までに多大な費用と時間がかかってしまいます。
そこで、行政法では、行政庁が一方的な判断で国民の権利義務など法的地位を決定したりする手法を認めています。これを「行政行為」と呼んでいます。しかし、行政行為は私人の権利義務を一方的に確定しているので、法律の根拠がある場合にのみ行えるとしています。
また、行政行為には特別な効力が認められ、その効力は特別の手段によらなければ失わせることはできないものとされています。
行政行為の種類
裁量行為と覊束行為
行政行為は裁量行為と覊束行為とに分けられます。この行政行為の分類は行政庁に一定の裁量権が認められるか認められないかにより分けられます。
1. 裁量行為
裁量行為とは、行政庁に一定の裁量が認められる行政行為のことです。
行政行為は私人の権利義務を一方的に確定するものなので、法律の根拠が必要とされています。しかし、、駐車違反の取り締まりや飲食店の営業禁止処分等の多種多様の状況の対応をしなければならない場面もあるので、法律の根拠を必要としつつも、その判断にある程度の行政庁の裁量の幅を持たせる必要があります。これを裁量行為と言います。
裁量行為の具体的な例として、飲食店などの営業許可が挙げられます。食品の安全性を確保できないような場合を、法律で全て想定するのは無理です。急であったり、不測である事態の対処ができません。そこで法律上、許可の要件は細かく定められておらず、裁量行為とされています。
2. 覊束行為:きそくこうい
一方、法律上そのような余地を認めない場合もあります。このような行為を覊束行為(きそくこうい)といいます。羈束とは、つないでしばることです
覊束行為の例:
選挙人名簿への登録
18歳以上の有権者は、実際に投票するためには、市区町村の選挙管理委員会が管理する名簿に登録されていなければなりません。この登録の要件は、法律で市区町村に住所を持つ年齢が満18歳以上の日本国民で、その住民票がつくられた日(他の市区町村からの転入者は転入届をした日)から3ヶ月以上、その市区町村の住民基本台帳に記録されている人と決められています。この要件を満たしさえすれば登録されます。
これに加えて下記の場合にも、旧住所に登録されます。
旧住所地における住民票の登録期間が3箇月以上である17歳の人が転出後4箇月以内に、新住所地において18歳となったが、新住所地における住民票登録期間が3箇月未満である場合。
旧住所地における住民票の登録期間が3箇月以上である18歳以上の人が選挙人名簿に登録される前に転出をしてから4箇月以内で、かつ新住所地における住民票の登録期間が3箇月未満である場合。
総務省HP なるほど!選挙 > 選挙人名簿
このような特定の事実または法律関係の存在を公に証明する行為のうち、法律により法律効果の発生が予定されているものを公証といいます。
法律行為的行政行為と準法律行為的行政行為
1. 法律行為的行政行為
営業許可などのように行政庁が、一定の法律行為化の発生を欲する意思を持ち、それを外部に表示することによって成立する行政行為を法律行為的行政行為といいます。これは行政の意思に基づいて法的効果を認めているものなので、行政庁に一定の裁量権が認められています。
法律行為的行政行為の例:
下命、禁止、免除、許可、特許、剥権、認可
2. 準法律行為的行政行為
それに対して、選挙人名簿への登録などの公証あるいは、確認などは、行政庁が判断・認識・観念などを発現し、それに対して法律が法的効果を与える行政行為を準法律行為的行政行為といいます。意思を発現しているわけではないため、行政庁に裁量権を認める余地はありません。
準法律行為的行政行為の例:
確認、公証、通知、受理
命令的行為と形成的行為
法律行為的行政行為は、さらに命令的行為と形成的行為に分けられます。
1. 命令的行為
命令的行為とは、行政庁が、国民が本来有している自由に対して制限を加える、または自由の制限を解除する行為をいいます。
命令的行為の例:
下命、禁止、免除、許可
2. 形性的行為
形成的行為とは、行政庁が国民が本来有していない権利能力、行為能力、特定の権利、その他法的地位を与え、または剥奪するなどの行為をいいます。
形成的行為の例:
特許、剥権、認可、代理
※許可と特許の違い・・ここでいう「特許」は、発明などの権利を保全するための特許とは別の制度。
飲食店などの営業を認める場合、原則自由の原則(命令的行為)なので・・・「許可」という言葉を使う。
鉄道会社、電気供給事業者、ガス供給事業者等の国民生活に必須な役割の公益性の高い事業は、行政としても多くの観点からの検討が必要で、役所が公益事業を営む特権を与える場合、大幅な自由裁量(形成的行為)なので・・・「特許」という言葉を使う。
このように、命令的行為(許可)と形成的行為(特許)との違いは、行政庁に認められる最良の強さによります。
附款:ふかん
1. 附款の意味
行政行為に付られる条件で「何月何日から営業を開始してよい」というようなことを附款といいます。
附款を難しく定義すると、行政行為の効果の一部を制限するために、行政行為の主たる意思表示に附加された従たる意思表示のことを指します。
2. 附款の種類
①条件
行政行為の効力の発生や消滅を、発生不確実な将来の事実にかからせる意思表示のことです。条件には、停止条件と解除条件があります。
停止条件・・・事実の発生によって行政行為の効力が発生する場合
解除条件・・・事実の発生によって行政行為の効力が消滅する場合
②期限
行政能力の発生や消滅を、将来発生することの確実な事実にかからせる意思表示のことです。期限には、始期と終期があります。
始期・・・事実の発生によって行政行為の効力が発生する場合
終期・・・事実の発生によって行政行為の効力が消滅する場合
③負担
主たる行政行為の内容に付随する義務を追加することです。例えば、主たる行政行為が「自動車の運転免許」を付与する場合には、裸眼視力が一定以下のものに対して、負担として「メガネの使用」を義務付けたりすることがこれに当たります。
④撤回権の留保
主たる行政行為に付加して、公益上の支障が発生したり、相手方の義務違反が発生したりした時などには行政行為を消滅させる権利を留保することです。例えば、河川の使用を許可するが、公益上の必要が発生した時にはその許可を取り消すことができるなどの場合がこれに当たります。
⑤法律効果の一部除外
法律行為に付加して、法律効果の一部を発生させないことです。例えば、公務での出張を命じるが、規定の旅費を支出しないというような場合がこれに当たります。
3. 附款を附しうる場合
法律が俯瞰を付すことを認めている場合や行政庁に裁量が認められている場合でなければ附款を付けることはできません。附款は「主たる意思表示に 附加された」従たる意思表示なので、附款を付しうる行政行為は、意思表示を要素とする法律行為的行政行為に限られることになります。準法律的行政行為には、附款を付すことはできません。
法律行為的行政行為(営業許可など)・・・附款を付られる
準法律行為的行政行為(公証など)・・・附款を付られない
行政行為にはどのような効果が発生するのか?
行政行為には、その特徴をよりよく発揮できるように、特別の効果が認められています。一般的には、公定力、自力執行力、不可争力、不可変更力があるとされています。
1. 公定力
行政行為は、法律の規定に違反していい方なものであったとしても、権限ある機関が正式にこれを取り消さない限り有効とされ、国民を拘束する力が持たされています。このように違法であっても、有効なものとして通用し関係人を拘束する力を公定力といいます。
一般的に法の世界では、法律に違反する行為は無効であって、何人に対しても法的拘束力は持たないというのが原則です。しかし、役所が下した行政行為(行政処分)に対して、それぞれの勝手な判断で「違法だから無効である、したがって従う必要はない」ということが許されてしますと、公共の安全は守ることができない場合が発生してしまいます。
なので、いったんは有効として扱い、国民はそれに拘束されるとしました、しかし、役所にも間違いはありうるので行政行為が違法である場合もないとはいえません。そこで、行政不服申し立て、取消訴訟などの手続によって権限ある機関が取り消すことができることにしたのです。
2. 不可争力
違法な行政行為によって権利利益を侵害された者が、侵害を排除するには、まず行政行為の取り消しを求めて公定力を除去しなければなりません。そのための手続が行政不服審査と取消訴訟です。
行政不服審査は、原則として処分を知った日の翌日から起算して60日以内に申し立てをしなければなりません。
取消訴訟は原則として処分を知った日から6ヶ月以内です。
これら不服申立期間や出訴機関が経過してしまうと、行政行為によって権利利益を侵害された者であっても、不服申立てや出訴ができなくなります。国民はもはや違法を主張してその拘束を免れることはできなくなります。この効力を不可争力といいます。行政行為を速やかに安定させるため、このような効力が認められています。
ただしこれは「私人が」不服申し立てや出訴ができないということにすぎません。したがって、行政庁の側から行政行為を取消す分には、期間を過ぎていてもいっこうにかまいません。
3. 自力執行力
自力執行力とは、行政行為によって命じられたことを国民が利口しない場合、裁判判決を経ることなく、行政行為自体を法的根拠として、行政庁自らの判断で義務者に対して強制執行を行い、義務の内容を実現することができることをいいます。
4. 不可変更力
不可変更力とは、行政庁が一度行った行政行為は自ら取り消したり、変こくしたりすることができないという動力のことです。
役所は公益の管理者として、常時、適法かつ公益に適合した状態を作り出さなければならなく、もし誤って違法・不当な行政行為をした場合には、自ら進んでこれを取り消し、適法な状態にしなければなりません。したがって、行政行為には原則として不可変更力は認められません。
ただ、異議申し立てに対する決定や審査請求に対する裁決あるいは審決のように、紛争裁断作用として行われるものには例外的に不可変更力が認められる事があります。
行政行為の瑕疵
行政行為はその成立の手続、内容、形式などあらゆる点で法律の定めに合致し、かつ公益に合致していなければなりません。適法性に反する違法な行政行為、法律には違反しているといえなくても公益適合性に反する不当な行政行為は、いずれも危うい行政行為であり、瑕疵ある行政行為といいます。
行政行為が違法とされても、公定力によって、ただちに無効とはなりません。権限ある機関によって取消されるまでは、違法であっても一応有効なものとして扱われます。
しかし、瑕疵があまりにもひどい場合、本来の手続きで取り消されるまでは有効であるとして国民はそれに従わなければならないとするのは不合理です。そこで、瑕疵があまりにもひどく、行政庁側のいいかげんな判断によるときは、例外的に無効な行政行為として、公定力、不可争力などいかなる法的効果も生じないとしました。
行政行為が無効であるということは、正規の取消し手続を経るまでもなく、いつでも誰でも行政行為の瑕疵を主張してその効果を否定することができるような行為であることとなります。
そもそも行政行為に公定力が認められ、瑕疵があってもただちに無効とせず、権限ある国家機関が正式に取り消すまでは有効としたのは、行政行為の瑕疵の判定には専門的又は技術的な判断が必要であり、ここの国民が各人の判断でこれを無効と判定し、「無効故に従う必要はない」とできるとすれば行政行為の目的は達成できないからです。だとすれば、行政行為が、重要な要件に違反し、そのことが客観的に疑う余地のないほど明白であれば、あえて専門機関の判断を待つまでもないと考えられます。
そこで最高裁は、行政行為の違法が重大かつ明白である場合は、その行政行為は法律上当然無効となるとしました。
瑕疵の治癒と違法行為の転換
瑕疵ある行政行為は本来取り消されることになります。しかし、法的安定性の観点から、一定の例外が認められています。
1. 瑕疵の治癒
行政行為が行われた時には存在していた瑕疵がのちになくなった時には、行政行為は適法として扱われるようになります。これを瑕疵の治癒といいます。
2. 違法行為の転換
行政庁が意図した行政処分としては違法な行政処分であったとしても、それを他の種類の行政処分としてとらえると違反でない場合もあります。このような場合に、この処分を取り消すことなく、その効力を別の種類の行政処分として維持することもできます。これを違法行為の転換といいます。
行政行為の取消と撤回
行政行為がいったん有効に成立すると、期限の到来、条件の成就、義務の履行その他の事情によってその効力が消滅するまでは存在します。しかし、役所としては、つねにもっとも国民全体の利益に適した状況を作り出すべきなので、行政行為の効力は行政行為の効力はもはや維持すべきではないと判断したならば、職権でその効力を消滅させることができます。
1. 職権取消し
行政行為が成立当初から違法または不当であったと判断したときは、そのことを理由に処分庁は行為を取り消す旨の意思表示をして、はじめから無かったものとすべきです。これを、職権による取消しといいます。職権取消とは、瑕疵ある行政行為について、行政行為が行われた時点に戻って、その行政行為がなかった、ことにすることです。法律上の根拠は不要です。
2. 撤回
撤回とは、当初瑕疵なく敵法理成立した行政行為について、その後の事情の変化によりその法律関係を存続させることが妥当でないということが生じたときに、この法律関係を消滅させる行為のことをいいます。
例:医薬品の製造承認
医薬品の製造承認をしたが、その薬品が後日有害であると判断したときは、承認を取り消すべきです。
撤回は、問題が生ずるまでは瑕疵がなく成立していた行為の効力を失わせるものですから、その効力は将来に向かってのみ生じます。また、撤回はいったん適法に行われた行為に対して公益判断などに基づいて行われるもので、その権限は処分をする権限の中に内包されていると考えられるため、処分庁は公益の管理者として自由にこれを撤回することができます。これは処分庁の権限であり、原則として処分庁にしかできないことです。