9. 債務不履行
今回は民法の分野の「債務不履行」について紹介していきます。
債務不履行とは何か?
債務の本旨(本来の趣旨)に従った履行がなされないことを債務不履行といいます。債務を履行しない場合はもちろん、債務を履行しても、それが債務の本旨に従ったものでなければ、債務不履行になります。債務不履行には、履行遅滞・履行不能・不完全履行という3つの形態があります。
履行遅滞
1. 履行遅滞とは何か?
履行遅滞とは、債務の履行が可能であるのに、債務者が履行期までに債務の本誌に従った履行をしないことです。わかりやすく言うと、履行が遅れることです。
2. 履行期について
履行遅滞となるためには、履行期が到達している必要があります。履行期は次のようになります。
①具体的な日付等(例:5月5日まで)の確定期限がある場合は、その期限が到達した時
②「天気が秋に変わった時」のように、期限を定めているが、それがいつ到来するのかわからない不確定期限がある場合は、その期間の到来を債務者が知った時。
③期限の定めがない場合には、債務者が履行の請求を受けた時
②「天気が秋に変わった時」のように、期限を定めているが、それがいつ到来するのかわからない不確定期限がある場合は、その期間の到来を債務者が知った時。
③期限の定めがない場合には、債務者が履行の請求を受けた時
履行不能
1. 履行不能とは何か
履行不能とは、債権発生後に、債務の本旨に従った履行ができない状態にあること(後発的不能)をいいます。物理的にできない場合(物理的不能)だけでなく、目的物の取引が法律上禁止された場合(法律的不能)も含みます。
不動産が二重に譲渡された場合、売主が一方の買主に対して所有権移転登記を完了すると、他方の買主に対する売主の債務は、履行不能になるというのが、判例です。
2. 履行不能と履行期
履行不能は、履行期とは関係がなく、履行期前であっても、履行できない状態になれば、直ちに履行不能になります。
不完全履行
不完全履行とは、履行遅滞にも、履行不能にも当たらない債務不履行のことです。形の上では、履行に相当する給付がなされたものの、それが債務の本旨に従った完全な履行ではない場合です。
不完全な給付がなされた場合、債権者は、債務者に対して不完全な給付を完全なものにするように求めることができます、(追完請求権)。追完として、瑕疵の修補だけでなく、代物の請求もできます。
債務不履行の解消
強制履行
債務不履行を正当化する事由がないと、債権者は、法の助けを借りて、債権を強制的に実現することができます。強制履行には、次の3種類のものがあります。
強制履行の種類
①直接強制
債務者の意思とは無関係に、国家機関が直接かつ強制的に債務の内容を実現することです。
②代替執行
第三者に給付内容を実現させて、その費用を国家機関が債務者から取り立てることです。
③間接強制
一種の罰金を貸すなどの方法によって、さいむしゃを心理的に圧迫して履行させることです。
債務者の意思とは無関係に、国家機関が直接かつ強制的に債務の内容を実現することです。
②代替執行
第三者に給付内容を実現させて、その費用を国家機関が債務者から取り立てることです。
③間接強制
一種の罰金を貸すなどの方法によって、さいむしゃを心理的に圧迫して履行させることです。
損害賠償
債務不履行から債権者を保護する手段として、損害賠償という制度も活用されています、損害賠償とは、債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)による債務不履行によって債権者が損害を金銭で賠償させようというものです。
契約の解除
また、債務不履行から債権者を保護する手立てとして、契約の解除という制度もあります。契約の解除とは、一方的な意思表示によって、債権の発生原因である契約を白紙に戻し、それをなかったことにすることです。
債務不履行があり、それを正当化する事由がなく、かつ、それが債務者の帰責事由に基づく場合には、債権者は一方的にその債権の発生原因である契約を解除し、それを白紙に戻すことができます。
債務不履行に基づく損害賠償
損害賠償請求の要件
次の要件を満たす場合には、債権者は、債務者に対して損害賠償を請求できます。
民法415条
債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。
債権者が、債務者に対して損害賠償を請求できる要件
①債務の本旨に従った履行がなされていないこと。
②同時履行の抗弁権などの不履行を正当化する事由がないこと
③不履行が債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)に基づくものであること。
④不履行によって(事実的因果関係)、財産的または精神的な損害が発生していること。
②同時履行の抗弁権などの不履行を正当化する事由がないこと
③不履行が債務者の責めに帰すべき事由(帰責事由)に基づくものであること。
④不履行によって(事実的因果関係)、財産的または精神的な損害が発生していること。
帰責事由とは、債務者の故意・過失または信義則上これと同視すべきじゆうであるというのが判例・通説です。そして、判例・通説は、信義則上、債務者の故意・過失と同視すべきものとして、債務者が自分の手足として使う履行補助者の故意・過失を挙げています。
なお、債務者の帰責事由に履行遅滞状態になっていた債務が、不可抗力によって履行不能になった場合には、履行不能についても、債務者の帰責事由に基づくものとすべきであると解されています。
遅延賠償と填補賠償
債務者が履行を遅滞した場合には、債権者は、本来の給付の請求に加えて、履行が遅れたことによる損害の賠償を請求することができます。この履行が遅れたことによる損害の賠償を遅延賠償といいます。
これに対して、本来の給付が債務者の帰責事由によって履行不能になった場合には、債権者は、填補賠償請求権を取得します。填補賠償とは、本来の給付に代わる価額の賠償です。本来の債権は、履行不能により填補賠償請求権に転化するのです。
損害賠償の方法
1. 損害賠償の対象
債務不履行による損害賠償の対象となるのは、その債務不履行によって通常生じる損害(通常損害)と、債務不履行時に債務者が予見可能であった特別の事情によって生じた損害(特別損害)です。
2. 金銭賠償の原則
損害賠償は、当事者間に特段の合意がない限り、金銭で行います。
民法417条
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。
債務者は原則として、損害を金銭に換算し、その金額を債権者に支払うのです。
3. 履行不能による損害賠償額の算定
履行不能による損害賠償額の算定について、判例では、原則として履行不能時を基準に賠償額を決定しますが、価格が上っているという特別の事情があり
それを債務不履行時に債務者が予見できた場合には、債権者は、騰貴した現在(口頭弁論終結時)の価格によって損害賠償を請求できるといいます。ただし、その価格に騰貴する前に処分したであろうという場合は、この限りではないと、判例はいっています。
また、判例では、価格が一旦上昇後、下降した場合において、中間時の最高価格を賠償額にするといっています。
4. 過失相殺
債権者が損害の発生防止やその拡大防止に努める義務に違反すれば、
必ず過失相殺が行われ、賠償額が減額されたり、債務者の損害賠償責任が否定されたりします。過失相殺とは、損害の発生やその拡大に関して、債権者にも落ち度があった場合には、その落ち度を賠償額などに反映させ、公平を図ることです。
5. 損害賠償額の予定
当事者間で、債務不履行があった場合には、一定額の損害賠償をするという合意が、あらかじめなされていることがあります。(損害賠償額の予定)
この合意があると、債権者は、債務不履行の事実さえ立証すれば、合意した賠償額を請求することができます。しかし、よう定額と実際の損害額が異なっても、当事者間で増減を求めることはできません。裁判所さえも、その額を増減することはできません。
金銭債務の特則
金銭債務の債務不履行は、通常、履行遅滞です。そして、金銭債務の場合、債権者は、損害を証明する必要がなく、履行遅滞の事実を証明するだけで、損害賠償を請求できます。
また、金銭債務の場合には、債務者は、不可抗力をもって抗弁することができません。そのため債務者は、帰責事由の有無を問わず、損害賠償責任を負うことになります。金銭債務の履行遅滞の損害賠償額は、債権額に一定の利率を掛けた額です。利率は、原則として、法定利率によりますが、それ以上の利率によることを合意していた場合には、その約定利率によります。
民法419条
1項
金銭の給付を目的とする債務の不履行については、その損害賠償の額は、法定利率によって定める。ただし、約定利率が法定利率を超えるときは、約定利率による。
2項
前項の損害賠償については、債権者は、損害の証明をすることを要しない。
3項
第一項の損害賠償については、債務者は、不可抗力をもって抗弁とすることができない。
次は民法の「債権の履行確保」について説明しています
0 件のコメント:
コメントを投稿