14. 雇用・委任・請負・寄託(他人の労務を利用する契約)
最終更新日:2019年11月18日
今回は民法の分野の「雇用・委任・請負・寄託(他人の労務を利用する契約)」について紹介していきます。
他人の労務を利用する契約
他人の労務を利用する契約として、民法では、雇用・委任・請負・寄託について定めています。
1. 寄託について
寄託の特徴
寄託は物を預かって保管する契約のことです。物の保管という限定された労務だけを対象としています。これに対して、他の契約は、対象となる労務に限定はありません。
寄託は、もっぱら寄託者の利益のために締結される契約です。そのため、寄託物の返還時期が定められていても、寄託者はいつでも寄託物の返還を請求できます。
例としては・・
1. 銀行でお金を預かること
2. ロッカーなどで荷物を預かること
3. 知人に荷物を預かってもらうこと
などが挙げられます。
2. 雇用について
雇用の特徴
請負の目的は、仕事の完成であるのに対して、雇用・委任の目的は、労務の提供です。そして、委任は、労働を提供する側に裁量が認められているのに対して、雇用は指示どおりに労務を提供するだけです。労務を提供する側に裁量権はありません。雇用では、使用者の指示通りに働きさえすれば、債務を履行したことになり、成果の如何を問わず報酬がもらえます。
請負契約
請負契約とは何か?
1. 請負契約の性質
請負契約とは、当事者の一方がある仕事の完成を約束し、相手方がその仕事の結果に対して報酬を与えることを約束する契約です。
請負契約は、当事者の合意のみで契約の効力が生じる契約(諾成契約;だくせいけいやく)であり、注文者と請負人が合意すれば、それだけで請負契約は成立します。そして請負契約が成立すると、請負人は仕事を完成させる義務を負い、注文者は報酬支払い義務を負います。仕事の完成と報酬の支払いは、対価関係にあるので、請負契約は、双務・有償契約です。
2. 請負の目的
うけおいのもくてきは、仕事の完成にあります。そのため、請負人は、いくら労務を提供しても、仕事を完成しない限り、債務を履行したとはいえず、報酬をもらえません。
仕事とは、労務の提供によって生じる成果のことであり、建物の建築などの有形のものだけでなく、講演・演奏等の無形のものも含まれます。
3. 報酬の支払い時期
請負契約は仕事の完成が目的ですから、特約がない限り、支払いは後払いです。仕事が有形のものであれば、完成した目的物の引き渡し時に報酬を支払い、仕事が無形のものであれば、仕事の完成時に報酬を支払います。
4. 下請負
請負契約は、仕事さえ完成すれば、目的を達成するため、そのプロセスは問わないのが普通です。そのため、請負人自身が仕事を完成させる必要はなく、下請負が認められるのが原則です。
完成した建物の所有者
請負によって完成した建物の所有者は、誰に帰属するかについては、判例では次のような考え方を採用しています。
①注文者が材料の全部または主要部分を提供した場合
竣工時から注文者の所有物である。(大判昭7.5.9)
②請負人が材料の全部または主要部分を提供した場合
請負人が所有権を取得し、引き渡しによって注文者に移転する。(大判大3.12.26)
③材料の提供者が請負人であっても、特約があれば最初から注文者のものである。
(大判大5.12.13)
注文者が代金の全部または大部分を支払っている場合には、この特約の存在が推認される。(大判昭18.7.20)
竣工時から注文者の所有物である。(大判昭7.5.9)
②請負人が材料の全部または主要部分を提供した場合
請負人が所有権を取得し、引き渡しによって注文者に移転する。(大判大3.12.26)
③材料の提供者が請負人であっても、特約があれば最初から注文者のものである。
(大判大5.12.13)
注文者が代金の全部または大部分を支払っている場合には、この特約の存在が推認される。(大判昭18.7.20)
請負人の担保責任
1. 瑕疵修補と損害賠償
請負人が完成させた仕事の目的物に瑕疵(傷や欠陥)があった場合、それが重要でなく、かつ修補費用がかかりすぎるものでない限り、注文者は請負人に対して瑕疵の修補を請求できます。損害賠償請求は修補に代えて行うこともできるし
修補をさせると共に、なお不完全な点や履行が遅れた点について賠償を請求することもできます。
2. 契約の解除
また、仕事の目的物に瑕疵があるために、契約の目的を達成できない場合には、注文者は契約を解除できるのが原則です。しかし、目的物が建物などの土地の工作物の場合は別となります。土地の工作物について解除を認めると、解除後の原状回復に多額の費用がかかり、請負人に大きく不利な結果になるからです。
3. 請負人の担保責任の特徴
請負人の担保責任は次の点で売主の瑕疵担保責任と異なります。
①瑕疵が隠れた瑕疵に限定されない。
②瑕疵修補請求権がある
③瑕疵が注文者の供給した材料の性質または注文者の指図に由来する場合には、原則として担保責任を負わない。
②瑕疵修補請求権がある
③瑕疵が注文者の供給した材料の性質または注文者の指図に由来する場合には、原則として担保責任を負わない。
4. 注文者の解除権
請負人が仕事を完成させる前であれば、注文者は、いつでも損害を賠償して請負契約を解除できます。無用になった仕事を続けさせて、注文者のコストを大きくする必要はないからです。ただし、注文者は、請負人が支出した費用だけでなく、仕事を完成すれば請負人が支出した費用だけでなく、仕事を完成すれば請負人が得たであろう利益についても賠償をしなければならないとされています。
委任契約
委任契約とは何か?
1. 委任とは何か?
委任とは、広く事務を委託することです。信頼関係に基づき、委託を受ける人に一定の事務処理を任せる諾成契約が委任です。
2. 委任と報酬
委任契約は、原則として無償契約であり、特約がない限り、受任者は報酬を請求することができません。報酬を支払うべき場合であっても、報酬は後払いが原則です。ただし、委任が受任者の帰責事由によらずに途中で終了した場合、受任者は履行の割合に応じた報酬を請求できます。
民法648条
仕事が完成しない限り、報酬を得られない請負との大きな違いがこれです。
受任者の事務処理
1. 善管注意義務
受任者は、委任の本旨に従い、善良な管理者の注意を持って事務を処理しなければなりません。これを善管注意義務といいます。
そして、委任は、当事者相互の高度な信頼関係を基礎としているため、受任者自身が、事務処理を行わなければならないのが原則です。もちろん単純な補助者を使うことはできますが、副委任は原則として禁止されています。広く下請負の認められている請負との大きな違いです。
2. 報告義務
受任者には独立性があり、事故の裁量で事務を処理することができます。しかし、委任者から請求があれば、受任者は、事務処理状況を報告しなければなりません。そして、委任が終了した場合には、その顛末を報告する義務があります。
民法645条
3. 受け取った物等の移転義務
受任者には、受け取った物や取得した権利を委任者に移転する義務があります。
民法646条
1項
受任者は、委任事務を処理するに当たって受け取った金銭その他の物を委任者に引き渡さなければならない。その収取した果実についても、同様とする。
2項
受任者は、委任者のために自己の名で取得した権利を委任者に移転しなければならない。
そして、委任者が委任者に引き渡すべき金銭などを自分のために消費するという背信行為を行なった場合には、委任者は、受任者に対して故意・過失や損害の証明なしで利息の支払いを請求できます。
民法647条
受任者は、委任者に引き渡すべき金額又はその利益のために用いるべき金額を自己のために消費したときは、その消費した日以後の利息を支払わなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。
4. 事務処理費用
委任事務を処理するために必要な経費は、事務処理によって利益を受ける委任者が負担すべきです。そのため、受任者に費用の前払請求権が認められています。
民法649条
委任事務を処理するについて費用を要するときは、委任者は、受任者の請求により、その前払をしなければならない。
そして、受任者が事務処理に必要な費用を支出した場合には、委任者に対してその費用や利息の償還を請求できます。
民法650条
1項
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる費用を支出したときは、委任者に対し、その費用及び支出の日以後におけるその利息の償還を請求することができる。
2項
受任者は、委任事務を処理するのに必要と認められる債務を負担したときは、委任者に対し、自己に代わってその弁済をすることを請求することができる。この場合において、その債務が弁済期にないときは、委任者に対し、相当の担保を供させることができる。
3項
受任者は、委任事務を処理するため自己に過失なく損害を受けたときは、委任者に対し、その賠償を請求することができる。
5. 損害賠償請求
委任された事務を処理するために、受任者が過失なく損害を受けた場合は、委任者に対して損害賠償を請求できます。これは委任者の一種の無過失責任とされ、委任者は、故意・過失の有無を問わず、賠償をしなければなりません。
委任の任意解除権
委任契約の各当事者は、いつでも任意に契約を解除できます。受任者の利益のために委任がなされた場合であっても、やむを得ない事由があるとき、または委任者が委任契約の解除権自体を放棄したといえない事情がある時は、解除を認めるのが、判例です。委任契約は、当事者相互の信頼関係を基礎とするため、嫌になったものを無理につなぎとめておく意味はなく、委任者も受任者も、いつでも事由に契約を解除できるのです。ただし、解除の時期が相手方に不利な時期であれば、やむを得ない事由のある場合を除いて、相手方に損害賠償をしなければなりません。
委任契約の解除には、遡及効がありません。解除によって委任契約は、将来に向かって消滅するだけです。
次は、民法の「契約以外の債権発生原因」について説明しています。
➡【リンク】15. 契約以外の債権発生原因
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