2019年10月14日月曜日

【行政書士試験・民法】12. 売買と贈与・・・条文とともに基本を確認しておきましょう

12. 売買と贈与


【行政書士試験・民法】12. 売買と贈与・・・条文とともに基本を確認しておきましょう


今回は民法の分野の「売買と贈与」について紹介していきます。




所有権と移転と目的とする契約


所有権の移転を目的とする典型契約


民法は、所有権の移転を目的とする契約として、贈与・売買・交換について定めています。これら3種類の契約は、所有権を取得するのに、対価が必要か否かで分類することができます。対価が不要なのが贈与であり、対価が必要なのが、売買と交換です。


交換とは?


交換は、物と物を交換する契約であり、売買との違いは、対価が金銭ではないという点だけです。所有権を取得する対価として、金銭を支払うのが売買であり、金銭以外のものを引き渡すのが交換です。


贈与


贈与とは?


贈与とは、当事者の一方(贈与者)が自己の財産を無償で相手方(受贈者)に与える契約であり、両者の合意により成立します。

民法549条 
贈与は、当事者の一方がある財産を無償で相手方に与える意思を表示し、相手方が受諾をすることによって、その効力を生ずる。


贈与は、ただで財産を与える契約ですから、無償契約です。そして、贈与契約は、片務契約です。贈与者に目的物を引き渡す債務が発生するだけで、受贈者には、何らか債務を引き渡す債務が発生するだけで、受贈者には、何らか債務が発生しないからです。

書面によらない贈与の撤回


軽率な贈与を防止し、贈与者が不当な不利益を受けないようにするために、書面に寄らない贈与について、撤回が認められており、贈与の効力を将来に向かってなくすことができます。

民法550条 
書面によらない贈与は、各当事者が撤回することができる。ただし、履行の終わった部分については、この限りでない。


ただし、書面に寄らない贈与であっても、履行の終わった部分については、撤回することはできません。「履行の終わった」とは、動産については、引渡し(簡易の引渡しや占有改定でよい)が行われることであり、不動産については、登記・引渡しのいずれかがなされることです。動産の引渡しや不動産の登記・引渡しがあると、もはや撤回できないのです。

負担付贈与


贈与の中には、受贈者になんらかの義務を負担させるものもあります、これを負担付贈与といいます。

負担付贈与には、双務契約に関する規定も適用されます。そのため、負担を怠ると、債務不履行として、契約を解除されます。また、贈与者は、その負担の限度において、売主と同様の担保責任を負います。


売買




売買契約


1. 売買契約とは何か


売買契約とは、売主がある財産を買主に移転することを約束して、これに対して買主がその代金を支払うことを約束する契約のことをいいます。つまり、財産権を与え、その対価として金銭を取得する契約です。

民法555条 
売買は、当事者の一方がある財産権を相手方に移転することを約し、相手方がこれに対してその代金を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。


財貨と金銭とを交換する契約が、売買契約であり、売買契約に関する費用は、当事者双方が等しい割合で負担します。


2. 売買契約の成立


売買契約は、諾成契約であり、両当事者の合意だけで成立します。書面を作る必要は特になく、口約束だけで契約は成立します。

一方的な意思表示によって売買契約を成立させる権限(予約完結権)を当事者の一方にだけ与えるという合意を売買の一方の予約といいます。予約完結権を与えられた当事者がそれを行使すると、相手方の承諾なしに、当然に売買契約が成立します。


3. 目的物の引渡債務と代金支払債務


売買契約が成立すると、売主に目的物の引き渡し債務が発生し、買主に代金支払い債務が発生します。目的物の引渡債務と代金支払債務は、相互に対価的な関係になりますから、売買契約は、双務契約です。

売買の目的物の引渡しについて期限があれば、代金の支払いについても同一の期限が付かれていると推定されます。そして、目的物の引渡しと同時に代金を支払う場合には、代金は、目的物の引渡し場所で支払わなければなりません。

ただし、売買の目的物について、権利を主張するものがいるため、買主が目的物の権利を失うおそれがあるときは、買主は、売主が相当の担保を提供した場合を除き、その危険の限度に応じて、代金の全部または一部の支払いを拒むことができます。


手付


1. 手付とは何か?


手付
手付のイメージ


手付とは、売買契約の締結の際に、当事者の一方から他方に対して支払われる金銭等のことをいいます。例えば、上の図で説明すると、自転車が欲しい人が、自転車を持っている人を見つけたけど、手持ちのお金が足りないとき、持っている人に「少し払っておくから、誰にも売らないでとっておいて」とお願いする場面をイメージするとわかりやすいと思います。

手付の交付によって、手付の所有権は、買主から売主に移転します。
手付には、証約手付・解約手付・違約手付があります。証約手付とは、証拠としての機能を持つ手付です。解約手付とは、手付を犠牲にすれば、どんな理由であっても契約を解除できるというものです。そして、違約手付とは、一方が債務を履行しない場合に、相手方に無条件で没収されるものです。

2. 解約手付による解除


解約手付を交付した場合には、手付流し、手付倍返しによる無理由解除ができます。手付流しによる無理由解除とは、解約手付を交付した買主は、その手付を放棄しさえすれば、どのような理由であろうと、契約を解除できることをいいます。これに対して手付倍返しによる無理由解除とは、売主も、手つきを倍額にして返せばどんな理由も解除できることをいいます。

解約手付による解除は、当事者の一方が契約の履行に着手するまでに行わなければなりません。「当事者の一方」とは、解除の相手方であって、解除する側は含まれないというのが、判例です。


売主の担保責任


1. 売主の担保責任とは何か


売主の担保責任とは、売主が、目的物を十分な状態で買主に引き渡すことを保証することです。目的物が他人の物であったり、数量が不足していたりするなど、契約成立前から目的物に何らかの瑕疵(欠陥・きず)があるため、代金に見合った価値がなく、対価的不均衡を生じる場合には、公平の理念から、売主に帰責事由がなくても一定の責任を課し、買主の利益を保護しようというわけです。


2. 他人物売買


他人物売買(たにんぶつばいばい)とは、他人の所有するものを売ってしまう場合です。例えば、まだ自分のものになっていないけど、購入予定があって、転売できると考える場面も考えられます。

売買の目的物が売主の所有物でなく、他人の物であった場合(他人物売買)でも、売買契約は、当事者間では有効であり、売主は、売買の目的物を買主に移転する義務を負うということです。

目的物の所有権を移転できない場合には、売買の目的を達成できないため、買主は、契約当時に目的物が他人の物であることを知っていても(悪意)、知らなくても(善意)、契約を解除できます。そして、善意の買主は、損害賠償を請求することもできます。これらについては、1年以内という制限はありません。


3. 一部他人物


売買の目的物の一部に他人のものが含まれており、その部分の所有権を移転んできないという場合、買主はその部分の割合に応じて代金の減額を請求できます。そして、残存部分だけなら、買わなかったという場合には、契約成立時に善意の買主は、契約を解除できます。また、善意の買主は、損害賠償を求めることもできます。
代金減額請求は、買主の善意・悪意を問いませんが、契約の解除と損害賠償請求は、善意の買主に限定されています。


4. 数量指示売買


数量を基礎にして価格が決定された売買を数量指示売買といいます。例えば、1㎡当たりの価格が30万円の土地で、総面積が5000㎡あるから、その代金は15億円であると言った場合がこれに当たります。
数量指示売買において、目的物の数量が不足した場合、善意の買主は、数量不足を知ったときから1年以内に代金減額請求・損害賠償請求ができ、残存部分だけでは買わなかったであろうという場合には、1年以内に契約の解除もできます。


5. 瑕疵担保責任


売買の目的物に隠れた瑕疵がある場合、善意無過失の買主は、売主に対して損害賠償を請求できます。そして、目的を達成できない場合には、善意無過失の買主は、契約を解除することもできます。

「隠れた」とは、取引上要求される一般的な注意では発見できないことをいいます。つまり、買主が、瑕疵のあることについて善意無過失であることを意味します。

そして、「瑕疵」とは、目的物に欠陥・キズがあり、備えるべき品質・性能を備えていないことをいいます。備えるべき品質・性能は、目的物の使用目的など契約の趣旨を考慮して判断すべきであると解されています。

損害賠償請求や契約の解除は、瑕疵を知った時から1年以内に行わなければなりません。


売買の目的物から生じた果実


売買契約成立と同時に、売買の目的物は買主のものになるのが原則する。

しかし、目的物を買主に引渡す前に生じた果実は、売主のものであり、目的物の引渡し後に生じた果実だけが、買主のものになります。その代わりに、代金の利息は、目的物の引渡日から支払えばよいとされています。

民法575条 
1項 
まだ引き渡されていない売買の目的物が果実を生じたときは、その果実は、売主に帰属する。 
2項 
買主は、引渡しの日から、代金の利息を支払う義務を負う。ただし、代金の支払について期限があるときは、その期限が到来するまでは、利息を支払うことを要しない。

果実を取得する利益と代金の利息を同価格とみなして、引き渡しまでの生産を簡略化しているのです。

また、判例では、売主が目的物の引渡し期限を徒過している場合でも、買主が代金を支払わなければ、果実の収取権は、売主にあるといっています。


買戻し


不動産の売買契約に解除できるという特約を付けておき、その特約に基づいて、売主が売買契約を解除し、売った不動産を取り戻すことを買戻しといいます。

買い戻しの際に、売主が買主に返還すべきものは、代金と契約費用だけです。売主は、代金と契約費用の返還だけで不動産を取り戻すことができるのです。

民法579条 
不動産の売主は、売買契約と同時にした買戻しの特約により、買主が支払った代金及び契約の費用を返還して、売買の解除をすることができる。この場合において、当事者が別段の意思を表示しなかったときは、不動産の果実と代金の利息とは相殺したものとみなす。


ただし、買い戻しの期間は、10年以内に限定されており、10年より長い期間を定めても、10年に短縮されます。また、買戻特約を第三者に対抗するには、売買契約と同時に特約を登記する必要があります。

民法581条 
1項 
売買契約と同時に買戻しの特約を登記したときは、買戻しは、第三者に対しても、その効力を生ずる。 
2項 
登記をした賃借人の権利は、その残存期間中一年を超えない期間に限り、売主に対抗することができる。ただし、売主を害する目的で賃貸借をしたときは、この限りでない。


次は、民法の分野の「物の貸し借り」について紹介していきます。
➡【リンク】13.物の貸し借り


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