2019年10月7日月曜日

【行政書士試験・民法】10. 債権の履行確保・・・ややこしい分野ですがそれぞれの債務のイメージを整理しよう!

10. 債権の履行確保

最終更新日:2020年1月9日



今回は民法の分野の「債権の履行確保」について紹介していきます。




債務者の責任財産保全


責任財産の保全


抵当権などの担保の目的となっておらず、債権回収の最後の拠り所となる財産を責任財産といいます。責任財産を国家権力が差し押さえ、売却した金銭から配当を受けるというのが、債権回収の最後の手段です。そのため、債務者の責任財産が減少しないようにしなければなりません。


債権者代位権


1. 債権者代位権とは何か?


債権者代位権
債権者代位権の例



債務者代位権とは、ある債権の債務者がその有する財産権を行使しない場合、債権者が自分の債権を保全するために、債務者に代わってその権利を行使できる権利を言います。

民法423条 
1項 
債権者は、自己の債権を保全するため、債務者に属する権利を行使することができる。ただし、債務者の一身に専属する権利は、この限りでない。 
2項 
債権者は、その債権の期限が到来しない間は、裁判上の代位によらなければ、前項の権利を行使することができない。ただし、保存行為は、この限りでない。



上の図を例にすると、
Aさんから借金しているBさんが、Cさんに対して金銭債権を持っているとして、BがCkaraその債権の弁済を受ければ、Aは自分の債権を弁済してもらえるのにBがその債権をそのままにしている場合、AがBに代わって、BのCに対する権利を行使してしまうという権利です。


2. 債券代位権の行使の要件


債権者代位行使の要件は以下の通りです。

①債権者の資力が十分でなく、代位権を行使しないと、債券を回収できなくなるおそれのあること(無資力要件)

②原則として債権者の債権(被保全債権)の履行期が到来しているとのこと。

③債務者の権利が、権利の性質上、債務者自身に行使させるべき権利(行使上の一身専属権)でないこと。

④債務者が権利を行使しないこと。


3. 行使上の一身専属権


債務者に属する権利であって、その行使が債権者の債券の実現に役立つものは、原則として債権者代位権の客体となります。しかし、権利の性質上、権利者自身に行使させるべき権利を代位行使させるわけにはいきません。このような権利を行使上の一身専属権といいます。

例としては、夫婦間の契約取消権や親族間の扶養請求権がこれに当たります。


4. 債権者代位権の行使方法


債権者代位権を行使する場合、債権者は自分の名で、債務者の権利を行使します。債務者の代理人として行使するものではありません。また、債権者代位権は、原則として裁判外でも自由に行使できます。

債権者代位権の行使は、被保全債権を保全するのに必要な範囲内に限定されています。例えば、債務者が1000万円の債権を持っていても、被保全債権が800万円であれば、債権者は、800万円しか請求できません。

債権者は、債務者の権利を代位行使しているにすぎません。そのため、例えば、債務者の権利が不動産の移転登記請求権であれば、債権者は、直接自分に登記を移転するように請求することはできず、債務者に登記を移転するように請求できるだけです。

しかし、債務者の権利が金銭の支払請求権や物の引き渡し請求権の場合には、債権者は、直接自分に支払え、あるいは引き渡せと請求できます。本来の権利者である債務者が金銭や物を受け取らないと、代位行使の目的を達成できなくなってしまうからです。


5. 債権者代位権の転用


債権者代位権は、金銭債権を保全するために、債権者が債務者の権利を代位行使するものです。しかし、債権者代位権を、金銭債権の保全とは全く異なる場面で用いることが認められています。これを債権者代位権の転用といいます。


債権者取消権


1. 債権者取消権とは何か


債権者取消権(詐害行為取消権)とは、債務者がその責任財産を減少させるような財産的処分行為(詐害行為)を行った場合に、債権者がその行為を取り消して流失した財産を取り戻すことを認め、債務者の責任財産を維持しようという制度です。


2. 債権者取消権の成立要件


次の3つの要件を満たすと債権者取消権が成立します。

①詐害行為時に保全すべき債権(被保全債権)が存在すること。

②債務者が債権者を害することを知りながら財産権を目的とする法律行為(詐害行為)を行うこと。

③詐害行為によって利益を受けた物(受益者)・転得者が債権者を害することを知っていること。


債権者取消権が成立するためには、被保全債権が詐害行為の前に成立し、詐害行為時にそれが存在していなければなりません。しかし、被保全債権は、成立していればよく、履行期が到来している必要はありません。


3. 詐害行為


債務者が債権者を害することを知りながら行う財産権を目的とする法律行為を詐害行為と呼んでいます。「債権者を害する」とは、債務超過という意味での無資力を意味します。債権者取消権を行使するためには、詐害行為時だけではなく、取消権行使時にも債務者が無資力でなければなりません。

弁済は、債務者の義務であり、原則として詐害行為に当たりませんが、債務者が、特定の債権者と共謀して他の債権者を害する意思で、その特定の債権者にのみ弁済した場合には、取消権が成立します。

詐害行為は、財産権を目的とする行為に限定されています。そのため、婚姻・養子縁組・相続の放棄などの家族法上の行為は、債権者取消権の対象にならないのが原則です。


4. 債権者取消権の行使方法


債権者取消権は、債権者代位権と異なり、裁判以外で行使することはできません。債権者取消権を行使しようと思えば、裁判所に取消訴訟を提起しなければなりません。債権者取消権の行使は、被保全債権の範囲に限定されています。そのため、詐害行為の目的物が金銭などの可分なものであれば、被保全債権の債権額に相当する部分だけを取り消すことができます。

債権者取消権の行使は、総債権者の利益のためであり、目的物が債務者に戻れば目的を達成することができます。しかし、目的物が金銭や物の場合には、債権者代位権の場合と同様に、債権者が直接自分に引き渡すように請求できます。そして、金銭については、受領した金銭を債務者に変換する債務と本来の債権とを相殺することによって、事実上優先弁済を受けることができます。



5. 債務者取消権の行使期間


債務者取消権は、債権者が取り消しの原因を知った時から、2年間行使しないと、時効によって消滅します。また、詐害行為の時から20年を経過すると、債権者取消権は消滅します。

民法426条 
第424条の規定による取消権は、債権者が取消しの原因を知った時から二年間行使しないときは、時効によって消滅する。行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。


法律関係を早期に確定させるためです。



連帯債務


多数当事者の債権債務関係


1. 分割債務の原則


一方の当事者が複数人いる場合の債権債務関係を多数当事者の債権債務関係といいます。金銭債務のように分割して実現できる可分給付について複数の債務者がいる場合、原則として、債務者は、それぞれ頭数で分割した給付だけを行えばよいことになっています。

民法427条 
数人の債権者又は債務者がある場合において、別段の意思表示がないときは、各債権者又は各債務者は、それぞれ等しい割合で権利を有し、又は義務を負う。


このような債務を分割債務といいます。


2. 不可分債務


複数人が1個の不可分な給付を目的とする債務を負う場合もあります。これを不可分債務といいます。例えば、共同賃借人の賃料支払債務を性質上不可分の債務であるというのが判例です。

不可分債務の債権者は、債務者の1人に生じた事由は、弁済や代償弁済などの債権者を満足させるものを除いて、他の債務者に影響しません。そのため、不可分債務は、消滅しにくく、債権の回収が容易であると解されています。

連帯債務


1. 連帯債務とは何か


連帯債務とは、複数の債務者がそれぞれ独立して可分な同一内容の給付を全て行う義務を負うが、債務者の誰かが給付をすれば、他の債務者も債務を免れるというものです。連帯債務は、複数の債務者を一体的なものとして債権の回収を簡単にしようという制度です。例えば、A・B・Cさんの3人が、Dさんに対して6億円の連帯債務を負っていたとします。A・B・Cさん達は、いずれもDさんに対してを6億円を支払う義務を負っていますが、そのうちの誰かが6億円全額を支払うと、3人の債務は全て消滅します。

2. 連帯債務の性質


連帯債務は、1つの債務ではなく、債務者ごとに別途独立の債務が存在します。債務者の数だけ別途独立の債務があります。そのため、1つの債務について無効・取消原因があり、その債務が無効となったり、取り消されたりして存在しなくなっても、他の債務は、何ら影響を受けることなく、存続します。

3. 連帯債務の履行請求


連帯債務が成立した場合、債権者は、自己の債権の範囲内である限り、どのようにでも請求できます。1人にのみ全額の支払いを請求することもできるし、全員に対して同時に全額の支払いを請求することもできます。また、適当に振り分けて請求することもできます。連帯債務者は、それぞれ独立して債権全額を弁済する 義務があるからです。


連帯債務者の1人に生じた事由


1. 履行請求の絶対的効力


連帯債務を構成する複数の債務は、それぞれ別途独立の債務ですから、連帯債務者の1人に生じた事由は、他の債務者に影響しないのが原則です。

民法440条 
第434条から前条までに規定する場合を除き、連帯債務者の一人について生じた事由は、他の連帯債務者に対してその効力を生じない。


しかし、債権者が連帯債務者の1人に対して履行を請求した場合、その効力は、他の連帯債務者にも及び、他の連帯債務者にも請求したことになります。

民法434条 
連帯債務者の一人に対する履行の請求は、他の連帯債務者に対しても、その効力を生ずる。


このように債務者の1人に生じた事由が他の債務者にも影響を与えることを絶対的効力といいます。



2. 弁済等の絶対的効力


弁済にも、絶対的効力があります。連帯債務者は、それぞれ別個独立の債務を負っていますが、それらは同一内容の債務です。そのため、連帯債務者の誰か1人が弁済をすれば、債務の内容は実現されたこととなり、債務は全て消滅します。
また、代物弁済・弁済供託・弁済の提供・混同・更改にも絶対的効力が認められています。


3. 相殺の絶対効力


例えば、Aさん・Bさん・Cさんの3人がいたとし、連帯債務を負っているとします。Aさんが相殺した場合、絶対効力が認められ、Bさん・Cさんの債務も消滅します。そして、Aさんが相殺をしない場合には、Aの負担部分について、B・Cが相殺を援用できます。
民法436条

B・CはAに相殺可能な債権があることを主張して、Aの負担部分だけを弁済額を減額することができるのです。


4. 免除の絶対的効力


債権者が連帯債務者の1人に対して債務を免除した場合もその連帯債務者の負担部分について絶対的効力が認められています。

民法437条 
連帯債務者の一人に対してした債務の免除は、その連帯債務者の負担部分についてのみ、他の連帯債務者の利益のためにも、その効力を生ずる。


その連帯債務者の負担部分だけ他の連帯債務者の債務も減少するのです。

債務の一部についてのみ免除がなされた場合には、全額の免除を受けた場合に比例した割合で、他の債務者も債務をの免れるというのが判例です。


5. 消滅時効の絶対的効力


通教債務者の1人について、債権の消滅時効が完成した場合も、その連帯債務者の負担部分について絶対的効力が生じ、その負担部分だけ、他の債務者の債務は減少します。

民法439条 
連帯債務者の一人のために時効が完成したときは、その連帯債務者の負担部分については、他の連帯債務者も、その義務を免れる。


保証債務


保証債務とは何か?


保証人と債権者との間で、債務者が債務を弁済できない場合に、保証人が代わって弁済するという合意(保証契約)をすることを保証といいます。そして、この合意によって、保証人が債権者に対して負うことになる債務を保証債務といいます。

保証債務は、債務者が債権者に対して支払う債務(主たる債務)とは、別個の独立した債務です。しかし、保証が担保としての機能を果たすことから、保証債務は、債務者の債務(主たる債務)に従属する従たる債務とされています。そのため、保証人が、債権者の請求に応じて弁済などをした場合、保証人は最終的な債務の負担者である主たる債務者に対して求償できます。


保証債務の成立


1. 保証契約


保証債務は、債権者と保証人との保証契約によって成立します。保証契約は、書面でしないと効力を生じません。

民法446条 
1項 
保証人は、主たる債務者がその債務を履行しないときに、その履行をする責任を負う。 
2項 
保証契約は、書面でしなければ、その効力を生じない。 
3項 
保証契約がその内容を記録した電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。)によってされたときは、その保証契約は、書面によってされたものとみなして、前項の規定を適用する。


2. 保証人の資格


一般的には、保証人になるために、特に資格は必要ありません。しかし、主たる債務者が法律上の規定または債権者との保証人を立てる義務を負う場合には、行為能力と弁済の資力のある者を保証人としなければなりません。
民法450条


保証債務の性質


1. 付従性


従たる債務である保証債務は、次のように、存在・内容面において主たる債務に付き従い、主たる債務と運命を共にします。これを付従性といいます。

①保証債務は、主たる債務がなければ成立しない

②保証債務の内容は、主たる債務より重くなることはない

③主たる債務が消滅すれば、保証債務も消滅する。

付従性により、主たる債務者に生じた事由は、原則として保証人にも効力が生じます。例えば、主たる債務者に対して時効中断の措置を取っておけば、保証人にも時効中段の効力が生じます。これに対して、保証人に生じた事由は、主たる債務者に影響しません。


2. 補充性


保証債務は、債権が譲渡されて、主たる債務者が履行しない場合に初めて履行する責任が生じる二次的な債務です。これを補充性といいます。
保証債務の補充性から、保証人には、催告の抗弁権と検索の抗弁権という2つの抗弁権が認められています。

民法452条 
債権者が保証人に債務の履行を請求したときは、保証人は、まず主たる債務者に催告をすべき旨を請求することができる。ただし、主たる債務者が破産手続開始の決定を受けたとき、又はその行方が知れないときは、この限りでない


民法453条 
債権者が前条の規定に従い主たる債務者に催告をした後であっても、保証人が主たる債務者に弁済をする資力があり、かつ、執行が容易であることを証明したときは、債権者は、まず主たる債務者の財産について執行をしなければならない


催告の抗弁権とは、債権者が保証人に履行を請求した場合に、先に主たる債務者に請求してくれと言える権利です。そして、検索の抗弁権とは、保証人が主たる債務者に弁済の資力があり、その執行が容易であることを証明して、主たる債務者の財産にまず執行するように求める権利です。


保証債務の内容


保証債務は、債務の目的または態様において主たる債務より軽いものであっても良いが、重くすることはできません。

民法448条 
保証人の負担が債務の目的又は態様において主たる債務より重いときは、これを主たる債務の限度に減縮する。


例えば、主たる債務が1000万円であれば、保証債務は1000万円以内でなければならず、たとえ、1500万円と定めたとして、1000万円に減額されます。
しかし、保証債務は、あくまで主たる債務とは別個独立の債務であり、付従性に反しない限り、保証契約によって独自の内容を持たせることもできます。例えば、保証債務についてだけ、主たる債務にない違約金や損害賠償の額を約束することができます。



保証債務の範囲


保証債務は、主たる債務の利息、違約金、損害賠償などの主たる債務の全ての従属物に及びます。また、判例では、特定物売買の売主のためにする保証について、売主の債務不履行による損害賠償義務はもちろん、特に反対の意思表示のない限り、売主の債務不履行における原状回復義務についても、保証が及ぶといっています。


連帯保証


1. 連帯保証とは何か?


連帯保証とは、保証人が、主たる債務者と連帯して債務を負担することに合意した保証のことです。連帯保証債権は、主たる債務者が弁済しない場合にだけ責任を負う二次的な債務ではなく、補充性がありません。そのため、連帯保証人には、催告の抗弁権や検索の抗弁権がなく、債権者は、主たる債務の弁済期が到来しさえすれば、直ちに連帯保証人に対して債務全額の弁済を請求することができます。


2. 一方に生じた事由


連帯保証にも、付従性がありますから、主たる債務者に生じた事由は、連帯保証人にも効力が及びます。ただし、それが保証債務の内容を加重させるものは別であり、例えば、主たる債務者が事項の利益を放棄しても、その効果は、連帯保証人には及びません。
そして、通常の保証と異なり、連帯保証人について生じた事由が、主たる債務者に影響することもあります。

民法458条 
第434条から第440条までの規定は、主たる債務者が保証人と連帯して債務を負担する場合について準用する。


例えば、連帯保証人に対する請求の効力は、主たる債務者にも及び、連帯債務者に対して裁判上の請求を行えば、主たる債務の消滅時効も中断します。


共同保証


1. 共同保証とは何か?


複数の人が同一の主たる債務について保証債務を負うことを共同保証といいます。共同保証人は、原則として平等な割合で分割された額についてのみ保証債務を負います。

民法456条 
数人の保証人がある場合には、それらの保証人が各別の行為により債務を負担したときであっても、第427条の規定を適用する。


これを分別の利益といいます。例えば、1000万円の主たる債務について、共同保証人が2人いた場合、分別の利益によって、各保証人には500万円の保証債務を負えばよいことになります。

しかし、次の場合は分別の利益がなく、共同保証人は債権者に対して全額の共済義務を負うと解されています。

①連帯保証人の場合

②債権者との間で、全額弁済するという特約のある場合(保証連帯)および主たる債務が不可分の場合


2. 共同保証人の求償権


共同保証人の1人が弁済した場合、共同保証人も、保証人であることに変わりありませんから、最終的な負担者である主たる債務者に求償することができます。それに加えて、共同保証人は、他の共同保証人に対しても求償することができます。

民法465条 
1項 
442条から第444条までの規定は、数人の保証人がある場合において、そのうちの一人の保証人が、主たる債務が不可分であるため又は各保証人が全額を弁済すべき旨の特約があるため、その全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。 
2項 
第462条の規定は、前項に規定する場合を除き、互いに連帯しない保証人の一人が全額又は自己の負担部分を超える額を弁済したときについて準用する。

次は、民法の分野の「契約総論」について紹介していきます。
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