2019年10月31日木曜日

【行政書士試験・民法】15. 契約以外での債権の発生原因・・・押さえておきたいポイントまとめ

15. 契約以外での債権の発生原因


15. 契約以外での債権の発生原因



今回は、民法の分野の「契約以外での債権の発生原因」について、紹介したいと思います。




事務管理


事務管理とは何か?


事務管理とは、義務がないのに他人の事務を処理することをいいます。例えば、家族全員が旅行中で誰もいない家の窓が、台風などで壊れ、放置すれば、空き巣が忍び込んだりするため、見かねた隣人が応急修理をしたりしたようなケースが事務管理の例です。


事務管理の成立要件



事務管理が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。


①本人との関係で、法律上の義務がないこと

②自分以外のもののためにする意思(事務管理意思)があること。

③明かに本人の利益と本人の違法な意思に反する管理ではないこと。

④明らかに本人の利益と本人の適法な意見に反する管理ではないこと



事務管理の効果


事務管理が成立すると、管理行為は、相互扶助の精神から行われた利他的行為であると正当化され、違法性がなくなります。そして、事務管理者は、事務管理を始めたことを本人に通知し、本人側が管理できるようになるまで、管理を継続しなければなりません。

民法699条 
管理者は、事務管理を始めたことを遅滞なく本人に通知しなければならない。ただし、本人が既にこれを知っているときは、この限りでない。

民法700条 
管理者は、本人又はその相続人若しくは法定代理人が管理をすることができるに至るまで、事務管理を継続しなければならない。ただし、事務管理の継続が本人の意思に反し、又は本人に不利であることが明らかであるときは、この限りでない。

また、事務管理者は、善管注意義務を負います。

事務管理者は、本人のために支出した有益な費用の償還を請求することができます。

民法702条 
1項 
管理者は、本人のために有益な費用を支出したときは、本人に対し、その償還を請求することができる。 
2項 
第650条2項の規定は、管理者が本人のために有益な債務を負担した場合について準用する。 
3項 
管理者が本人の意思に反して事務管理をしたときは、本人が現に利益を受けている限度においてのみ、前二項の規定を適用する。

しかし、管理者に報酬請求権はありません。



不当利得


不当利得とは何か?


不当利得とは、法律上の根拠がないのに利益を得たために、本来利益を得るべき人がその分だけ損失を被っていることをいいます。

民法703条 
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。



この状態は公平ではないので、法律上の根拠の無い利益の移転・帰属を本来あるべき状態に移そうというのが、不当利得制度です。


不当利得の要件


不当利得とされるためには、次の要件を満たす必要があります。

①受益と損失の存在

②受益と損失との因果関係

③法律上の原因がないこと



不当利得の効果


不当利得の要件を満たすと、損失を被ったものは受益者に対して利得の返還を請求できます。返還義務の範囲は受益者が法律上の原因のないことを知っているかによって異なります。

知らない(善意)の場合は、現存利益を返還すれば良いとされています。

民法703条 
法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者(以下この章において「受益者」という。)は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。


これに対して知っている(悪意)場合は、受けた利益に利率をつけて返却する必要があり、また損害賠償責任も負います。

民法704条 
悪意の受益者は、その受けた利益に利息を付して返還しなければならない。この場合において、なお損害があるときは、その賠償の責任を負う。




非償弁済


債務の存在しないことを知りながら、債務を弁済することは、事実上贈与と解されるため、あとで債務がなかったと主張しても、債務の弁済として給付した物の返済を請求することはできません。


民法705条 
債務の弁済として給付をした者は、その時において債務の存在しないことを知っていたときは、その給付したものの返還を請求することができない。



ただし、返済を請求できないのは、任意に弁済された場合だけであり、強制執行を免れるためなど、経済的・社会的圧力からやむを得ず弁済した場合には、返還を請求することができます。



不法原因給付


不法な原因(公序良俗を違反する)のために給付を受けた者は、不当利益返還請求権を行使することができません。

民法708条 
不法な原因のために給付をした者は、その給付したものの返還を請求することができない。ただし、不法な原因が受益者についてのみ存したときは、この限りでない。


ただし、返還を請求できないのは、受益者に終局的に利益を与えてしまった場合に限定されています。例えば、判例では未登記の建物であれば、登記を移転した場合に返還請求ができなくなるといっています。
【重要判例】建物所有権移転登記手続等請求事件・・・最判昭46・10・28

また、不法な原因が受益者だけにある場合には、返還請求権を行使できます。

例えば、犯罪資金を提供するように脅され、やむを得ず支払ったような場合には、返還請求ができるということです。



不法行為


不法行為制度


不法行為とは、他人の権利や利益を違法に侵害して損害を発生させる行為です。不法行為制度は、不法行為によって損害を受けた被害者に損害賠償請求権を認め、その損害を填補(穴埋め)するとともに、将来の不法行為を阻止しようとする制度です。

公平の観点から、損害を加害者に責任転嫁して、被害者を救済しようとする趣旨です。



不法行為の成立


1. 不法行為の成立要件


不法行為が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。

民法709条 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


①故意または過失

②権利または法律上保護される利益の侵害

③損害の発生

④行為と損害との因果関係

⑤責任能力


2. 故意または過失


過失責任の原則から、不法行為が成立するためには、加害者に故意または過失があること被害者が立証しなければなりません。


3. 責任能力


責任能力とは、事故の行為の責任を弁識できる知能のことです。責任能力のない未成年や心神喪失者は、不法行為責任を負いません。

民法712条 
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。


民法713条 
精神上の障害により自己の行為の責任を弁識する能力を欠く状態にある間に他人に損害を加えた者は、その賠償の責任を負わない。ただし、故意又は過失によって一時的にその状態を招いたときは、この限りでない。


責任能力がなかったことを立証すれば、不法行為責任を免れます。ただし、責任能力のないものが行なった不法行為については、法定の監督義務者などが損害賠償責任を負います。

民法714条 
1項 
前二条の規定により責任無能力者がその責任を負わない場合において、その責任無能力者を監督する法定の義務を負う者は、その責任無能力者が第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、監督義務者がその義務を怠らなかったとき、又はその義務を怠らなくても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。 
2項 
監督義務者に代わって責任無能力者を監督する者も、前項の責任を負う。

4. 不法行為の成立阻却事由:せいりつそきゃくじゆう


不法行為の成立要件を満たしても、行為を正当化し、不法行為の成立を阻却する事由があれば、責任を追及することはできません。正当化事由の代表例は、正当防衛と緊急避難です。

民法720条 

正当防衛とは、他人の客観的に違法な行為に対して自分または第三者の権利を防衛する為に、やむを得ず行なった加害行為のことをいいます。

これに対して、緊急避難とは、他人のものから生じた急迫の危機を避けるために、その物を毀損することをいいます。


不法行為の効果


1. 損害賠償請求


不法行為が成立すると、被害者は加害者に対して損害賠償請求ができます。

民法709条 
故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。


損害賠償とは、他人に与えた損害を穴埋めすることです。賠償の対象は、財産的な損害だけではありません。不法行為を行なったものは、財産的損害だけでなく、精神的損害などの非財産的損害についても賠償しなければなりません。

民法710条 
他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。


精神的損害を賠償するのが、慰謝料です。
よくテレビのドラマや漫画などで出てくる「慰謝料よこせ!」は精神的損害に対する賠償を指すのですね。


2. 金銭賠償の規則


不法行為の損害賠償は、原則として損害を金銭に換算して行います。

民法712条 
未成年者は、他人に損害を加えた場合において、自己の行為の責任を弁識するに足りる知能を備えていなかったときは、その行為について賠償の責任を負わない。


民法417条 
損害賠償は、別段の意思表示がないときは、金銭をもってその額を定める。


ただし、人の社会的評価(名誉)を低下させたものに対しては、謝罪広告などを命じることができます。

民法723条 
他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。


3. 損害賠償の範囲


損害賠償の範囲について、判例・通説では、民法416条を類推適用して、通常損害と予見可能な特別損害に限定しています。


4. 過失相殺


損害の公平な分担という観点から、損害の発生または拡大について、被害者にも落ち度がある場合には、損害賠償額を考慮しようという制度があります。これを過失相殺といいます。民法では、被害者にも損害発生について過失があった時には、裁判所はそのことを考慮して、損害賠償額を定めることができるとしています。この損害賠償額を定めることができるというのは、被害者の過失を”考慮しても”、”考慮しなくても”よいという点がポイントです。

民法722条2項 
被害者に過失があったときは、裁判所は、これを考慮して、損害賠償の額を定めることができる。



5. 近親者の損害賠償請求


不法行為は被害者本人だけでなく、被害者の近親者にも、大きな影響を与えます。そこで、生命を奪われた者の父母・配偶者・子には、精神的損害が発生したこと等の立証を要求せずに当然に、固有の慰謝料請求権が認められています。

民法711条 
他人の生命を侵害した者は、被害者の父母、配偶者及び子に対しては、その財産権が侵害されなかった場合においても、損害の賠償をしなければならない。


また、判決では、即死した被害者の逸失利益の賠償請求権や慰謝料請求権の相続を認めています。


6. 履行遅滞


判例では、不法行為による損害賠償債務は、損害の発生と同時に履行地帯に陥るとしています。
最判昭37.9.4

この債務も、債務不履行による損害賠償債務と同じように、期限の定めのない債務ですが、被害者保護のため催告の必要はなく、損害が発生すると直ちに履行遅滞になるとされています。


7. 時効消滅


不法行為による損害賠償請求権は、被害者またはその法定代理人が、損害および加害者(賠償義務者)を知った時から3年で消滅時効にかかります。また、不法行為の時より20年を経過したときも消滅します。

民法724条 
不法行為による損害賠償の請求権は、被害者又はその法定代理人が損害及び加害者を知った時から三年間行使しないときは、時効によって消滅する。不法行為の時から二十年を経過したときも、同様とする。


長い時間が経過すると、立証が困難になるため、早く決着をつけさせようとする趣旨のものです。


使用者責任


1. 使用者責任とは何か?


ある事業のために他人を使用するものは、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負います。
民法715条1項

ただし、被用者の専任やその事業の執行につき相当の注意を行なったことを使用者が立証すると、使用者は免責させます。また、使用者の選任・監督上の過失と損害との間に因果関係のないことを立証した場合にも、使用者は免責されます。


2. 使用関係


使用者責任が成立するためには、事業のために他人を使用するという使用関係が必要です。これは、雇用関係である必要はなく、実質的な指揮監督の関係があればよいとされています。


3. 事業の執行について


使用者責任が成立するためには、被用者の不法行為が事業の執行について行われたものでなければなりません。事業の執行について、判例では、外形理論(がいけいりろん)を採用し、行為の外形から観察して、被用者の職務の範囲内に属する行為と認められれば良いとされています。
最判昭和40.1.30


4. 被用者の行為


使用者責任が成立するためには、被用者の行為が民法709条の要件を満たしている必要があります。そのため、使用者責任が成立する場合には、使用者が被害を賠償する債務を負うだけでなく、被用者も常に民法709条に基づく賠償債務を負います。両者の債務は、不真正連帯債務であり、使用者と被用者は、いずれも被害者に対して金銭の賠償義務を負いますが、いずれか一方が賠償金を払えば双方ともに免責されるというのが、判例です。


5. 求償権


使用者が損害を賠償した場合、使用者は、被用者に対して求償することができます。
民法715条

ただし、判例では、損害の公平な分担という見地から、使用者の被用者に対する求償は、信義則上相当と認められる限度に制限されるといっています。


土地工作物責任


1. 土地工作物とは?


土地の工作物の設置または保存に瑕疵があり、これによって他人に被害が発生した場合、工作物の占有者が賠償責任を負います。そして、占有者が損害の発生防止に必要な注意をしていたことを立証すると、占有者は免責され、所有者が責任を負います。占有者と異なり、所有者には、無過失による免責が認められていません。

ただし、損害の原因について責任のある者がいる場合には、賠償を行なった占有者または所有者は、その者に対して、求償権を行使できます。

民法717条 
1項 
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。 
2項 
前項の規定は、竹木の栽植又は支持に瑕疵がある場合について準用する。 
3項 
前二項の場合において、損害の原因について他にその責任を負う者があるときは、占有者又は所有者は、その者に対して求償権を行使することができる。


2. 土地の工作物と瑕疵


土地の工作物とは、土地に接着して人工的に築造した設備のことです。例えば、自動販売機やプール、井戸などが、土地の工作物です。

瑕疵とは、通常すべき安全性を欠いていることですから、判例では、鉄道の踏切に保安設備の無いことを設置の瑕疵としています。


共同不法行為


1. 共同不法行為とは何か?


複数のものによる共同の不法行為によって損害が生じた場合、各人が全損害について連帯して賠償義務を負います。

民法719条 
1項 
数人が共同の不法行為によって他人に損害を加えたときは、各自が連帯してその損害を賠償する責任を負う。共同行為者のうちいずれの者がその損害を加えたかを知ることができないときも、同様とする。 
2項 
行為者を教唆した者及び幇助した者は、共同行為者とみなして、前項の規定を適用する。

他の共同不法行為者の行為によって生じた損害であって、自分の行為とは事実的因果関係のない損害を含めて、全損害について責任を負うのです。

判例では、共同とは、複数の違法行為が関連共同して損害の原因になること(客観的関連共同)であり、共同不法行為が成立するためには、各行為者が民法709条の要件を満たす必要があるといっています。


2. 他の共同不法行為者に対する求償権


共同不法行為者の1人が損害を賠償すると、他の共同不法行為者に対して求償できます。共同不法行為の加害者の間では、過失の割合あるいは損害の寄与の割合に応じた求償が認められます。

建物の賃借人と地代の弁済/最判昭和63.7.1

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