2019年9月29日日曜日

7. 担保物権・・・行政書士試験で押さえておきたい担保物権に関する部分を総まとめ

7. 担保物権


7. 担保物権・・・行政書士試験で押さえておきたい担保物権に関する部分を総まとめ

今回は民法の「担保物権」について紹介していきます。



担保とは?


担保とは、債務者がお金を返済できない場合に備えて、あらかじめ債権者に提供される事物のことです。


担保制度と担保物権


担保制度


担保には物的担保と人的担保があります。物的担保とは、債務者などの財産に担保券を設定して、その財産から優先的に債権の回収を図る制度です。これに対して、人的担保とは、債務者以外の第三者の資力を債務の引当にすることによって、債務の回収を確実なものにする制度です。

1. 担保物権


担保物権は、債務回収の確保を目的とする物権であり、ものの担保価値を把握するものです。担保物権には、法定担保物権と約定担保物権があります。


法定担保物権とは、法律上当然に発生する担保物権です。これに対して、約定担保物権とは、当事者の合意で成立する担保物権です。


2. 担保物権の性質


多くの担保物権に共通する性質として、以下の性質があります。

①付従性
担保物権が、担保される債権(被担保物権)に付き従うことです。被担保債権がなければ、担保物権が存在せず、被担保債権が消滅すると、担保物権も消滅します。

②随伴性
随伴性とは、被担保債権と連動し、被担保債権が移転すると、担保物権もそれにともなって移転することです。

③不可分性
不可分性とは、被担保債権の弁済を受けるまで、目的物全部について権利を行使できることです。

④物上代位性
物上代位性とは、担保物権が滅失しても、それに代わる物に担保物権が存続し、その物に効力を及ぼすことです。


留置権


留置権とは何か?


留置権とは、他人の物の占有者が、そのものに関して生じた債権の弁済を受けるまで、そのものを留置(継続占有)する権利をいいます。留置権は、留置的効力によって、間接的に履行を強制するものであり、公平の見地から法律上当然成立する法定担保物権です。

留置権の例

例えば、皆さんが自分で使っているスマートフォンを壊してしまったとして、スマートフォンの修理店にそれの修理を頼んで預けたとします。その修理を請け負ったお店は皆さんがその代金を支払うまで、そのスマートフォンを留置(占有)する権利を持ちます。これが留置権です。イメージ湧きましたでしょうか?


留置権の成立要件


留置権が成立するためには、次の要件を満たす必要があります。

民法295条 
他人の物の占有者は、その物に関して生じた債権を有するときは、その債権の弁済を受けるまで、その物を留置することができる。ただし、その債権が弁済期にないときは、この限りでない。 
2 前項の規定は、占有が不法行為によって始まった場合には、適用しない。


①他人の物を占有していること

②そのものに関して生じた債権を持っていること(目的物と債権の牽連性)

③債権が弁済期にあること。

④占有が不法行為によって始まったものでないこと


留置権の効力


留置権者は、債権全額の弁済を受けるまで、目的物全部を留置できます。しかし、目的物を留置しているだけでは、被担保債権の主張とは言えないため、留置権を行使しても、被担保債権の消滅時効は中断しません。留置権者は、留置物を善良な管理者の注意をもって保管しなければなりません。


民法298条 
1項 
留置権者は、善良な管理者の注意をもって、留置物を占有しなければならない。


そして留置権をもった人は、無断で留置物を使用したり、賃借っしたり、担保にしたりすることはできません。ただし、留置権の保存に必要な行為は、留置権者の判断で出来ます。

民法298条2項
留置権者は、債務者の承諾を得なければ、留置物を使用し、賃貸し、又は担保に供することができない。ただし、その物の保存に必要な使用をすることは、この限りでない。


先取特権(さきどりとっけん)


先取特権とは何か?


先取特権とは、法律の定める特殊な債権を持つ人が、債務者の財産から優先的に弁済を受ける権利です。先取特権は、法律上当然に発生する法定担保物権であり、契約で発生させることはできません。先取特権にも、物上代位性があり、目的物の売却代金や資料などにも及びます。

民法304条 
1項 
先取特権は、その目的物の売却、賃貸、滅失又は損傷によって債務者が受けるべき金銭その他の物に対しても、行使することができる。ただし、先取特権者は、その払渡し又は引渡しの前に差押えをしなければならない。 
2項 
債務者が先取特権の目的物につき設定した物権の対価についても、前項と同様とする。


一般の先取特権


一般の先取特権は、債務者の総財産から優先弁済を受けるものです。一般の先取特権と特別の先取特権が競合する場合には、原則として特別の先取特権が優先します。
民法329条2項


動産の先取特権


1. 動産の先取特権とは何か?


動産の先取特権は、特定の動産から優先弁済を受けるものです。
民法311条

例えば、不動産の賃貸人は、賃料債権について、賃借人の動産(借地上に備え付けた動産など)から優先弁済を受けることができます。

民法312条 
不動産の賃貸の先取特権は、その不動産の賃料その他の賃貸借関係から生じた賃借人の債務に関し、賃借人の動産について存在する。

民法313条 
1項 
土地の賃貸人の先取特権は、その土地又はその利用のための建物に備え付けられた動産、その土地の利用に供された動産及び賃借人が占有するその土地の果実について存在する。 
2項 
建物の賃貸人の先取特権は、賃借人がその建物に備え付けた動産について存在する。

動産が転貸された場合には、賃貸人の先取特権は、転借人の備え付けた動産にも及びます。

民法314条 
賃借権の譲渡又は転貸の場合には、賃貸人の先取特権は、譲受人又は転借人の動産にも及ぶ。譲渡人又は転貸人が受けるべき金銭についても、同様とする。


この不動産賃貸の先取特権は、不動産売買の先取特権に優先します。
民法330条


2. 即時取得


先取特権が成立するのは、本来、債務者所有の動産だけですが、債権者が債務者の所有物と加湿なく誤信した場合には、先取特権を即時取得します。
民法319条 
第192条から第195条までの規定は、第312条から前条までの規定による先取特権について準用する。


3. 目的物の第三者への引渡し


先取特権の目的物である動産が、その所有権を取得した第三者に引き渡されると、先取特権(動産先取特権だけでなく、一般先取特権も)は効力が及ばなくなってしまいます。

民法333条 
先取特権は、債務者がその目的である動産をその第三取得者に引き渡した後は、その動産について行使することができない。

この引き渡しには、占有改定も含まれています。



不動産の先取特権


不動産の先取特権は、特定の不動産から優先弁済を受けるものです。例えば、不動産を売却した場合、売主は、代価およびその利息について、売却した不動産から優先的に弁済を受けることができます。

民法328条 
不動産の売買の先取特権は、不動産の代価及びその利息に関し、その不動産について存在する。


不動産保存の先取特権は、保存行為完了後直ちに登記をすることにより、不動産先取特権は、工事を始める前に予算額を登記することにより、そして、不動産売買の先取特権は、売買契約と同時に登記することによって、その効力を保存することができます。

民法337条 
不動産の保存の先取特権の効力を保存するためには、保存行為が完了した後直ちに登記をしなければならない。

民法338条 
1項 
不動産の工事の先取特権の効力を保存するためには、工事を始める前にその費用の予算額を登記しなければならない。この場合において、工事の費用が予算額を超えるときは、先取特権は、その超過額については存在しない。 
2項 
工事によって生じた不動産の増価額は、配当加入の時に、裁判所が選任した鑑定人に評価させなければならない。

また、不動産保存及び工事の先取特権については、登記をすれば、その不動産に先に抵当権が設定されていても、それに優先します。


質権(しちけん)


質権とは何か?


質権とは、債権者が担保として債務者または物上保証人から受け取った物を、債務が弁済されるまで留置して弁済を間接的に強制すると共に、弁済されない場合には、その担保物を競売して優先弁済を受けることのできる担保物権です。質権は、当事者の契約によって発生する約定担保物権です。


質権の設定


質権は、当事者の合意の他に、目的物の引き渡しがないと効力を発生しません。

民法344条 
質権の設定は、債権者にその目的物を引き渡すことによって、その効力を生ずる。

この引き渡しには、占有改定は含まれません。質権設定者が質権者に代わって目的物を占有することは許されないからです。

民法345条 
質権者は、質権設定者に、自己に代わって質物の占有をさせることができない。


また、質権の目的物は、譲渡性のあるものに限定されています。

民法343条 
質権は、譲り渡すことができない物をその目的とすることができない。


譲渡性がないと、競売によって換価して優先弁済を受けることができないからです。


動産質


動産を目的とする動産質は、目的物の占有を継続することが対抗要件です。そのため、判例は、質権がいったん有効に成立した後に、目的物を質権設定者に返すと、第三者に対抗できなくなります。

動産質の目的を奪われた場合、質権者は、占有回収の訴えによってのみ、質物を回復することができます。質権自体の効力として、目的物を取り戻すことはできません。そのため、騙し取られたりすると、もはや質物を取り戻すことが出来なくなります。


不動産質


不動産を目的とする不動産質は、他の質権と異なり、原則として、目的物を使用収益することができます。しかし、その反面、不動産質権者は管理費用を負担し、再建の利息を請求できないのが原則です。

また、不動産質は、存続期間が10年以内となっています。


債権質


質権を目的とする債権質は、譲渡に証書の交付を要する場合には、その交付によって効力が発生する点と、質権者に債権の直接取立権がポイントとして挙げられますよう。


抵当権



抵当権とは何か


抵当権とは何か

抵当権の例として、イメージしやすいのは、マイホームを建てるときに住宅ローンを組むことでないでしょうか。一般的な例として、銀行は新築した建物とその土地に抵当権を設定します。もしローンの支払いが滞ってしまった場合、銀行はその抵当権を実行して、その売却代金から優先して弁済を受けることができます。

抵当権は、建物の所有者(抵当権設定者)がきちんとローン(債務)の支払いさえ行っていれば、自由に家に住んでいられる点で、設定者が自由にその目的物を使用できます。逆に、銀行(抵当権者)は、抵当権設定者の債務の支払いが滞らない限り、留置権や質権のように目的物を手元に留置できないという特徴を持っています。

1. 非占有担保物権


抵当権とは、目的物の占有を設定者の元にとどめ、設定者の使用収益を認めつつ、債務が弁済されない場合に、その物の交換価値から優先的に弁済を受けることのできる担保物権です。抵当権は、目的物の占有を留めたままの非占有担保物権であるため、留置する効力はありません。


2. 約定担保物権


抵当権は、目的物の所有者と債権者との契約によって成立する約定担保物権です。目的物の所有権は、債務者である必要はなく、第三者(物上保証人)でも構いません。


3. 目的物


抵当権は、目的物の占有を移さないため、抵当権の存在を公示する必要があります。そのため、抵当権の目的物は、登記による公示が可能な不動産・地上権・永自作権に限定されています。


4. 付従性


抵当権は被担保債権に付従します。付従性の本質は、抵当権の実行時に、被担保債権の存在を要求することです。そのため、成立における付従性は、緩和され、抵当権設定時に被担保債権が存在している必要はないとされ、将来発生する債権のために抵当権を設定することも認められています。


5. 抵当権の順位


一つの目的物に複数の抵当権を設定することができます。その場合の優先順位は、設定登記の順序によります。

民法373条 
同一の不動産について数個の抵当権が設定されたときは、その抵当権の順位は、登記の前後による。


抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができます。ただし、利害関係人がいる場合には、その承諾を得る必要があります。そして、抵当権の順位の変更は、登記が効力発生要件であり、登記をして初めて効力が発生します。

民法374条 
1項 
抵当権の順位は、各抵当権者の合意によって変更することができる。ただし、利害関係を有する者があるときは、その承諾を得なければならない。 
2項 
前項の規定による順位の変更は、その登記をしなければ、その効力を生じない。


抵当権の及ぶ範囲


1. 付加一体物


民法370条は、抵当権の目的物の範囲について、次のような一般的基準を定めています。

①土地と建物は別個独立の不動産だから、土地に設定された抵当権は建物には及ばない。

②抵当不動産の付加一体物(付加物)にも、抵当権の効力が及ぶ。


2. 従物


従物とは、継続的にある物(主物)の経済的効用を高めるために、付属している独立性のある物です。
民法87条1項

従物の例:
ガソリンスタンドの地下タンクや洗車機
最判平2.4.19

独立性を維持している従物は、付加一体(付加物)ではないというのが、判例です。しかし、従物は主物と法律的運命を共にし、主物を処分すると、その効果は従物にも及びます。
民法87条2項

そこで、判例では抵当権設定した時に存在した従物については、それを除外するんどの特段の事情のない限り、民法87条2項により、抵当権の効力が及ぶといっています。
最判昭44.3.28

しかし、抵当権設定後に生じた従物については、抵当権が及ばないとするのが判例です。


3. 果実


果実には、抵当権の効力が及ばないのが普通ですが、被担保債権について不履行があった場合には、抵当権は、その後に生じた抵当権不動産の果実にも及びます。

民法371条 
抵当権は、その担保する債権について不履行があったときは、その後に生じた抵当不動産の果実に及ぶ。


抵当権の処分


1. 相対的処分


抵当権を被担保債権から切り離し、抵当権だけを処分(相対的処分)することができます。

民法376条 
1項 
抵当権者は、その抵当権を他の債権の担保とし、又は同一の債務者に対する他の債権者の利益のためにその抵当権若しくはその順位を譲渡し、若しくは放棄することができる。 
2項 
前項の場合において、抵当権者が数人のためにその抵当権の処分をしたときは、その処分の利益を受ける者の権利の順位は、抵当権の登記にした付記の前後による。

抵当権の相対的処分を債務者や抵当権設定者などに主張するには、債務者への通知または債務者の承諾が必要です。

民法377条 
1項 
前条の場合には、第467条の規定に従い、主たる債務者に抵当権の処分を通知し、又は主たる債務者がこれを承諾しなければ、これをもって主たる債務者、保証人、抵当権設定者及びこれらの者の承継人に対抗することができない。 
2項 
主たる債務者が前項の規定により通知を受け、又は承諾をしたときは、抵当権の処分の利益を受ける者の承諾を得ないでした弁済は、その受益者に対抗することができない。

2. 抵当権等の譲渡・放棄


抵当権の相対的処分として、抵当権者は、抵当権やその順位を譲渡することができます。譲渡されると、譲渡人・譲受人の双方の取り分から譲受人が優先弁済を受け、残りが譲渡人のものになります。
また、抵当権者は、抵当権やその順位を放棄することもできます。放棄されると、放棄者・受益者は同等の地位となり、放棄者・受益者双方の取り分をそれぞれの債券額によって比例分配することになります。

抵当権者が自分の受ける優先弁済の利益を一般債権者に与えるのが、抵当権の譲渡であり、後の順位の抵当権者に与えるのが、抵当権の順位の譲渡です。また、抵当権者が自分と同等の優先順位を一般債権者に認めるのが、抵当権の放棄であり、後の順位抵当権者に認めるのが、抵当権の放棄です。


抵当不動産の第三取得者の保護


抵当不動産を買った第三者を保護する制度として、代価弁済と抵当権消滅請求があります。

代価弁済とは、抵当不動産の所有権または地上権を買った第三者が、抵当権者の請求に応じてその提示額(代価)を支払った場合に、抵当権者は第三者のために消滅し、第三者は抵当権者に支払った範囲で代金債務を免れるというものです。

民法378条 
抵当不動産について所有権又は地上権を買い受けた第三者が、抵当権者の請求に応じてその抵当権者にその代価を弁済したときは、抵当権は、その第三者のために消滅する。


これに対して、抵当権消滅請求は、抵当不動産を買った第三者が、抵当権者に対して、代価または指定金額を提供して抵当権の消滅を請求することです。

抵当権消滅請求は、抵当権の実行として行われる競売の差し押さえの効力が発生する前にしなければなりません。

民法382条 
抵当不動産の第三取得者は、抵当権の実行としての競売による差押えの効力が発生する前に、抵当権消滅請求をしなければならない。


抵当権の実行


1. 抵当地上の建物


債権が任意に弁済されないと、抵当権が実行され、競売が行われることになります。競売されるのは、抵当権の目的物が原則です。しかし、抵当権設定後に抵当地に建物が建てられた場合、抵当権者は、土地と共に建物も競売できます。優先弁済を受けられるのは、土地の代価だけですが、建物も一緒に競売できます。ただし、建物の所有者が、抵当権の占有について抵当権者に対抗できる権利を持っている場合には、建物を一緒に競売することはできません。

民法389条 
1項 
抵当権の設定後に抵当地に建物が築造されたときは、抵当権者は、土地とともにその建物を競売することができる。ただし、その優先権は、土地の代価についてのみ行使することができる。 
2項 
前項の規定は、その建物の所有者が抵当地を占有するについて抵当権者に対抗することができる権利を有する場合には、適用しない。

2. 被担保債権の範囲


抵当権によって担保される被担保債権の範囲について、民法では利息などの定期金については満期になった最後の2年分に限定しています。遅延損害金も同様です。後順位抵当権者を保護するためです。


3. 抵当権に劣後する賃貸借


抵当権に劣後する賃貸借は、その期間にかかわらず、抵当権者に対抗できません。ただし、優先するすべての抵当権者の同意を得て、その旨の登記をおこなった場合には、例外的に賃貸借を抵当権者に対抗できます。

また、抵当権者に対抗できない建物の賃借人であっても、競売手続開始前から使用または収益をする者などには、6ヶ月間の建物明渡猶予期間が認められています。
民法395条

ただし、賃借人は、猶予期間中の使用の対価を建物の買受人に支払う必要があります。


共同抵当


1. 共同抵当


1つの債権を担保するために、複数の不動産に抵当権を設定している場合を共同抵当といいます。

2. 同時配当


共同抵当の目的物である複数の不動産を、同時に競売することを同時配当といいます。この場合、被担保債権は、不動産価格に応じて割り付けられ、共同抵当権者は、その額の範囲内で優先弁済を受けます。


3. 異時配当


共同抵当の目的である複数の不動産を、1つずつ順に競売することを異時配当といいます。この場合、共同抵当権者は、債権全額について競売された不動産から優先弁済を受けます。そして、競売された不動産の後順位抵当権者は、同時配当の場合に共同抵当権者が他の不動産から配当を受ける限度で代位できます。同時配当と同様の結果になるように調整するのです。
なお、土地に配当権の設定を受けた後、さらに、その土地条の建物にも抵当権の設定を受けた場合、いずれを競売にするかは、抵当権者の自由であり、抵当権者は、建物についてのみ競売することもできます。


法定地上権


1. 法定地上権の成立要件


次の要件を満たす場合に、法律上当然に地上権が成立します。

民法388条 
土地及びその上に存する建物が同一の所有者に属する場合において、その土地又は建物につき抵当権が設定され、その実行により所有者を異にするに至ったときは、その建物について、地上権が設定されたものとみなす。この場合において、地代は、当事者の請求により、裁判所が定める。

①抵当権設定当時、土地の上に建物が存在すること。

②土地と建物が同一の所有者に属すること

③土地・建物の一方または双方に抵当権が設定され抵当権の実行によって土地・建物の所有者が別人になっていること。

2. 建物の存在


抵当権設定当時、土地の上に建物が存在するという要件を遵守しており、更地に抵当権が設定された場合には、一貫して法定地上権の成立を否定しています。更地として評価した抵当権者の期待を保護するためです。

3. 同一の所有者


土地と建物が同一の所有者に属するという要件をかなり緩和しています。土地が共有の場合には、法定地上権の成立を否定しますが、建物が共有の場合には、法定地上権の成立を肯定しています。


抵当権の消滅


1. 被担保債権の消滅


抵当権は被担保債権に付従しますから、被担保債権が弁済等により消滅すると、抵当権も消滅します。ただし、被担保債権の一部が消滅するに過ぎない場合は、抵当権は不可分性により消滅しません。


2. 根抵当権の時効消滅


債務者および抵当権設定者(物上保証人)との関係では、債権が消滅せずに、抵当権だけが時効で消滅することはありません。また、これらのものが抵当不動産を時効取得しても、抵当権は消滅しません。

民法397条 
債務者又は抵当権設定者でない者が抵当不動産について取得時効に必要な要件を具備する占有をしたときは、抵当権は、これによって消滅する。



これに対して、抵当不動産の第三取得者や後順位抵当権者との関係では、抵当権は、被担保債権とは別に20年の消滅時効にかかるというのが、判例です。


3. 地上権・永小作権の放棄


地上権・永小作権が消滅すると、それを目的とする抵当権も消滅します。しかし、抵当権の設定者である地上権者・永小作権者が、勝手に地上権・永小作権を放棄しても、その消滅を抵当権者に対抗することはできません。


根抵当権


1. 根抵当権


根抵当権とは、増減する不特定の債権を極度額まで担保する抵当権です。不特定の債権を担保すると言っても、包括的なものは許されません。
根抵当権によって、元本債権は、極度額を限度として、元本確定時に存するものだけが担保されます。これに対して、利息と損害金は、極度額を限度として、元本確定時に存するものに加えて、元本確定後に発生するものも担保されます。


2. 根抵当権の内容の変更


極度額は、担保範囲の最大限を示すものなので、元本確定前に極度額を変更するには、利害関係人の承諾が必要です。
これに対して、被担保債権の範囲や債務者については、元本確定前であれば、根抵当権者と根抵当権設定者の合意だけで、自由に変更することができます。ただし、これらの変更は、元本確定前に登記する必要があります。


3. 根抵当権の譲渡


元本確定前であれば、根抵当権者は設定者の承諾を得て、根抵当権という枠だけを譲渡することができます。根抵当権を全部譲渡することもできるし、根抵当権を分割して譲渡することもできます。ただし、分割譲渡するには、譲渡される根抵当権の極度額を定めなければなりません。
また、根抵当権者は、設定者の承諾を得て、根抵当権の一部を譲渡し、譲渡人が根抵当権を共有することもできます。


4. 元本の確定


根抵当権設定契約の当事者が合意で元本の確定期日を定めた場合、その到来によって、元本が確定します。元本確定期日の定めがない場合には、根抵当権者は、いつでも担保すべき元本の確定を請求でき、請求時に元本が確定します。そして、根抵当権設定時から3年が経過すると、根抵当権設定者は、担保すべき元本の確定を請求でき、請求の2週間後に確定します。また、債務者または根抵当権設定者が破産手続開始の決定を受けた時など、民法398条の事由が発生すると、元本が確定します。
元本が確定し、極度額余裕がある場合には、根抵当権設定者は、極度額の減額請求ができます。逆に確定した債権が極度額を超えている場合には物上保証人などが極度額を支払って、根抵当権権を消滅させることができます。

民法398条 
地上権又は永小作権を抵当権の目的とした地上権者又は永小作人は、その権利を放棄しても、これをもって抵当権者に対抗することができない。



次は民法の「債権」について紹介しています。
➡【リンク】8. 債権



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