8. 債権
今回は行政書士試験の民法の分野の「債権」について説明していきます。
債権とは
債権の目的
特定の人に対して、特定の行為を要求する権利を「債権」といいます。債権の逆の言葉が、特定の行為をしなければならない義務として「債務」といいます。
債権の目的である特定の行為は次の要件を満たす限り、何でもいいです。
①適法性
②社会的妥当性
③実現可能性
④内容の確定
②社会的妥当性
③実現可能性
④内容の確定
経済的な価値がなく、金銭に見積もることができないことでもかまいません。
特定物債権
特定物債権とは、特定物の引渡しを目的とする債権です。
わかりにくいですね。不動産(土地や建物)、動産(車、本、フィギュア…etc)はそれぞれ、固有な状態で存在していますよね。使ったら壊れるし、全く管理していなければ、土地や建物は変化を経てしまうかもしれません。それぞれ、同じ種類の物でも一つ一つ違う状態です。
特定物とは、当事者が者の個性に着目し、1つの物に狙いを定め、その個物だけを目的物とする場合をいいます。
例えば、あなたが中古屋さんでとあるブランドの革財布を買おうとしていると想像してみましょう。革財布を購入する売買契約であったとして,「ここに置いてあるこの革財布」を購入するというのであれば,その目的物引渡請求権は特定物債権になります。
特定物債権では、引き渡すべきものが不特定物に限定されているため、債務者は、その特定物を善良な管理者の注意で保管し、債権者に引き渡さなければなりません。他のもので代用しても、債務を履行したことにならないのです。
その反面、特定物に何らかの瑕疵(欠陥・キズ)があっても、それをそのままの状態で引き渡せば、債務を履行したことになります。
民法483条
債権の目的が特定物の引渡しであるときは、弁済をする者は、その引渡しをすべき時の現状でその物を引き渡さなければならない。
また、特定物がなんらかの理由で滅失した場合には、引渡債務は消滅します。
種類債権
1. 種類債権とは何か
種類債権とは、目的物を種類と数量だけで指示した債権のことです。
先ほどの革財布を例えとして、わかりやすく言うと、「○○社の✕✕革の財布」といったような感じになります。
当事者が物の種類だけを指示し、その種類に属するものでありさえすれば、それで当事者は満足し、個物自体を狙っているわけではない場合を種類物といいます。
2. 債務者の調達・完全引渡義務
種類債権の目的物は、種類と数量で指示されているだけなので、その指示に合致する物は、市場にたくさんあります。そのため、給付しようと思っていたものが滅失した場合には、種類債権の債務者は、改めて市場から目的物を調達しなければなりません。
種類債権の債務者が市場から調達し債権者に給付する物は、指示された種類と数量に合致した完全なものでなければなりません。債務者は、完全なものを給付する義務を負っており、瑕疵(欠陥・キズ)のあるものを給付しても、債務を履行したことにはなりません。
3. 種類債権の特定
種類債権の債務者には、指示された種類と数量に合致した完全な物を市場から調達し、債権者に給付する義務があります。しかし、次の場合には、種類債権の目的物は特定のものに決定し、その目的物だけが債権の対象になります。これを種類債権の特定あるいは集中と言います。
①債務者が者の給付をするのに必要な行為を完了した場合
②債務者が指定権を行使することについて予め債権者の同意を得た上で、債務者が給付すべきものを指定した場合。
③両当事者の合意によって、給付すべき目的物が具体的に決められた場合。
②債務者が指定権を行使することについて予め債権者の同意を得た上で、債務者が給付すべきものを指定した場合。
③両当事者の合意によって、給付すべき目的物が具体的に決められた場合。
選択債権
選択債権とは、複数の給付の中から、1つの給付を選択して履行するという制度です。誰が選択するかについて当事者間に合意があれば、それによりますが、合意がなければ、債務者に選択権があります。
民法406条
債権の目的が数個の給付の中から選択によって定まるときは、その選択権は、債務者に属する。
債務者が選択権を持つ場合、債務者は、債権者に対する意思表示によって選択権を行使します。選択権が行使されると、その効果は、債権発生時に遡及し、給付の内容は、債権発生時から選択されたものに決まっていたことになります。
民法411条
選択は、債権の発生の時にさかのぼってその効力を生ずる。ただし、第三者の権利を害することはできない。
弁済
弁済とは何か?
弁済とは、債権の内容である特定の行為(給付)が行われることをいいます。例えば、土地の売買契約を締結した売主が、土地を引き渡すことや、買主が代金を支払うことが、弁済です。弁済によって、債権は目的を達成して消滅するのが原則です。
弁済は債務の本来の趣旨(本旨)に従ったものでなければなりません。債務の本旨に従わないと、さ弁済義務を果たしたとはいえず、債務不履行の問題が発生します。
弁済の場所と費用
弁済の場所について、当事者(債権者と債務者)の間で合意があれば、その合意した場所で弁済する必要があります。当事者間に合意がない場合には、特定物の引渡債務は、債権が発生した時にその特定物が存在した場所で、それ以外の債務は債権者の現住所で弁済します。
民法484条
弁済をすべき場所について別段の意思表示がないときは、特定物の引渡しは債権発生の時にその物が存在した場所において、その他の弁済は債権者の現在の住所において、それぞれしなければならない。
ただし、売買代金について、売買の目的物の引渡しと同時に支払うという約束の場合には、目的物の引渡場所で支払います。
弁済の費用についても、当事者間に合意があれば、それが優先し、合意で定めたものがそれを負担します。ただし、債権者の移転等によって弁済費用が増加した場合、債権者が増価額を負担します。
民法485条
弁済の費用について別段の意思表示がないときは、その費用は、債務者の負担とする。ただし、債権者が住所の移転その他の行為によって弁済の費用を増加させたときは、その増加額は、債権者の負担とする。
弁済の相手方
弁済は、債権者あるいは債務者から弁済の受領権限を与えられたものに対して行うのが原則です。これら以外のものに弁済をしても、原則として弁済の効力は生じません。
民法479条
前条の場合を除き、弁済を受領する権限を有しない者に対してした弁済は、債権者がこれによって利益を受けた限度においてのみ、その効力を有する。
しかし、領収書などの受取証書を持参したものは、弁済の受領権限があるとみなされます。そのため、受領詔書を持ってきた人に対して、弁済受領権限のないことを知らず、かつ、そのことに加湿なく弁済した場合には、その弁済は有効とみなされます。
民法480条
受取証書の持参人は、弁済を受領する権限があるものとみなす。ただし、弁済をした者がその権限がないことを知っていたとき、又は過失によって知らなかったときは、この限りでない。
また、弁済者が債権の準占有者を真の債権者と信じて、そのことに加湿のない場合、その弁済は有効とされています。債権の準占有者とは、一般の取引観念から見て、真の債権者のような外観を有するものです。
第三者の弁済
民法は、債務者以外の人が債務者の債務を弁済することを認めています。ただし、次の3つの場合には、第三者の弁済は許されません。
①性質上許されない
②当事者が禁止した場合
③利害関係のない者の弁済が債務者の意思に反する場合
民法474条
1項
債務の弁済は、第三者もすることができる。ただし、その債務の性質がこれを許さないとき、又は当事者が反対の意思を表示したときは、この限りでない。
2項
利害関係を有しない第三者は、債務者の意思に反して弁済をすることができない。
弁済による代位
1. 弁済による代位とは何か
弁済による代位とは、債務者以外のものが弁済した場合に、本来、弁済によって消滅するはずの債権(原債権)と担保権を弁済者に移転し、弁済者がそれらを求償権の範囲内で行使できることにし、求償を確実なものにしようという制度です。これを代位弁済ともいいます。
2. 法定代位と任意代位
法定代位とは、弁済者が弁済をするについて正当な利益のある者であれば、法律上当然に債権者に代位することです。弁済をするについて正当な利益のあるものとは、後順位担保権者・保証人・連帯債務者などのことです。
これに対して、任意代位とは、弁済者が債権者の承諾を得て、債権者になり代わって、原債権や担保権を行使することです。
民法499条
法定代理と異なり、任意代理を債務者や第三者に主張するには、債務者の承諾または債権者による通知が必要です。
3. 代位の効果
代位すると、弁済によって本来消滅するはずの原債権やそれに付随する担保権が弁済者に移転します。そして、弁済者は、自分の求償権の範囲内で、移転した権利を行使することができます。
弁済の提供
1. 弁済の提供とは何か
弁済の提供とは、債務者が債務の本旨に従って自分1人でできることを尽くし、債権者の協力があれば、履行が完成するという状況を作り出すことをいいます。弁済の提供をすると、債務者は、債務の不履行によって生ずべき一切の責任を免れます。
2. 弁済の提供の方法
弁済の提供は、債務の本旨に従い、現実に提供しなければなりません。これを現実の提供といいます。ただし、次の場合には、例外的に、弁済の準備をして受領を催告すれば、、弁済の提供になります。これを口頭の提供といいます。
民法493条
①債権者が予め受領を拒んでいた場合
②債務の履行について債権者の行為を要する場合
債権者が予め受領を拒んでいる場合であっても、翻意する可能性があるため、口頭の提供が求められています。しかし、受領拒絶の意思が極めて固く、翻意の余地のない場合には、口頭の提供も不要というのが判例です。
弁済以外の債権の消滅事由
債権の消滅事由
弁済以外にも、供託・代物弁済・更改・免除。混同などによって、債権は消滅します。更改とは、給付の内容・債務者などの債務の要素を変更することによって、従来の債権を消滅させ、新しい債権を発生させる契約です。そして、免除とは、債権者が一方的に無償で債権を消滅することです。また、混同とは、債務者が債権を譲り受けたりして、債権者が同時に債務者でもあるという状況になった場合に、債権・債務は消滅したものと扱う制度です。
代物弁済
1. 代物弁済とは何か
代物弁済とは、債権者の承諾を得て、本来の給付内容と異なる他の給付をおこなうことです。他の給付を完了すると、弁済と同一の効力が生じ、債権は消滅します。
2. 他の給付の完了
他の給付の完了とは、目的物が動産の場合は引き渡すことであり、不動産の場合は登記をすることです。これらが完了しない限り、本来位の債権は消滅せず、その債権から利息が発生したりします。また、これらが完了しない限り、本来の債務が残っていますから、それを履行して、他の給付する義務を免れることもできます。
相殺
1. 相殺とは何か
相殺とは、債権者と債務者が、互いに同じ種類の債権・債務を有する場合に、100万円によって、債務は、相殺に適するようになった時(相殺的常時)に遡って、債権との対等額(いずれか少ない方の額)だけ消滅します。
2. 相殺の要件
相殺をするためには、その時点で相殺適状(相殺に適した状態)になっていなければなりません。いったん、相殺適状となっても、相殺の意思表示がなされる前に、その状態が崩れてしまっていては、相殺できないのが原則です。
相殺適状になるためには、次の要件を満たす必要があります。
民法505条
1項
二人が互いに同種の目的を有する債務を負担する場合において、双方の債務が弁済期にあるときは、各債務者は、その対当額について相殺によってその債務を免れることができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2項
前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
①同種の給付を求める自働債権(反対債権)と受働債権が存在すること
②両債権が相殺可能なものであること
③両債権が弁済期にあること
なお、双方の債権の履行地が異なっていても、相殺をすることができます。
3. 相殺適状後の自動債権の時効消滅
いったん、相殺適状になった後、自動債権が時効消滅しても、その債権で相殺することができます。
民法508条
いったん、相殺適状になると、債務者は、これで債権・債務は帳消しになったと安心し、相殺の意思表示をしないまま所定の期間を徒過してしまうことも多く、相殺済みという債務者の期待を保護する必要があるからです。
4. 不法行為による債務の相殺
不法行為によって発生した損害賠償債権を受動債権とする相殺は禁止されています。薬代を現金で支払わせ、被害者を救済するとともに、被害者が、腹いせに加害者に対して不法行為を行い、双方の損害賠償債務を帳消しにしようなどという行為に出ることを防止するためです。
ただし、民法509条が禁止しているのは、不法行為によって発生した損害賠償債権を受働債権とする相殺だけです。不法行為の被害者が、加害者に対する別の債務を免れるために、損害賠償債権を自働債務として相殺することは可能です。
5. 差押えと相殺
受働債権が差し押さえられた場合、その債務者は、差押後に自働債権を取得しても、それで相殺することはできません。
しかし、逆に、差押前に自働債権を取得していた場合には、相殺をすることができるというのが、判例です。
受動債権の差押前に自働債権を取得している限り、自働債権と受働債権との弁済期の前後を問わず、相殺することができるというのです。(無制限説)
6. 相殺の方法
相殺は、相手方に対する一方的な意思表示によって行われます。相殺の意思表示は、相殺をしようとする者の判断で一方的に行うことができます。相手方の同意を得る必要はありません。
相殺の意思表示に、一方的に条件や期限をつけることはできません。条件をつけると、相手方の地位を不安定にします。また、相殺の効果が相殺適状時に遡る以上、期限をつけても、無意味だからです。
債権譲渡
債権の譲渡性とその制限
1. 債権の譲渡性
債権譲渡とは、契約によって、中身を変えずに、債権を譲渡人から譲渡人に移転させることです。債権は、原則として、譲渡人と譲渡人との合意だけで、自由に譲渡する必要はありません。これを債権の譲渡性といいます。
2. 債権の譲渡性の制限
債権の中には、その性質上、譲渡人と譲渡人の合意だけではじょうとできないものもあります。また、扶養請求権や労働者災害補償請求権など、個別の法律が明文で、譲渡を禁止している債権もあります。
さらに、債権者と債権者との合意(譲渡禁止特約)によって、債権の譲渡性を奪うこともできます。ただし、善意無重過失の第三者に対しては、譲渡禁止特約を対抗できません。
民法466条
1項
債権は、譲り渡すことができる。ただし、その性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2項
前項の規定は、当事者が反対の意思を表示した場合には、適用しない。ただし、その意思表示は、善意の第三者に対抗することができない。
指名債権譲渡
1. 指名債権の譲渡方法
指名債権とは、債権者が誰か特定しており、債権の成立や譲渡に証書のいらない債権のことです。指名債権は、譲渡人(旧債権者)と譲受人(新債権者)との合意だけで譲渡することができます。
2. 債務者に対する対抗要件
次のいずれかの要件を満たさないと、債権の譲受人は、債務者に対して自分が債権者であることを主張できません。
民法467条1項
①従来の債権者である譲渡人が債務者に対して譲渡を通知すること
②債務者が譲渡を承諾すること
②債務者が譲渡を承諾すること
※債権譲渡の通知・承諾
承諾は譲渡前になされてもよいのに対して、通知は譲渡後に限られ、譲渡前に通知をしても、対抗要件を満たしません。また、通知をするのは、譲渡人でなければならず、譲渡人が譲渡人に代位して通知することも許されません。
3. 第三者に対する対抗要件
債務者以外の第三者に対して債権譲渡を主張するには債務者に対する通知または債務者の承諾を確定日付のある証書で行う必要があります。
民法467条2項
確定日付のある証書で通知または承諾を行うことが、第三者に対する対抗要件です。
したがって、債権が二重に譲渡された場合、第三者に対する債権譲渡の対抗要件を先に備えた譲受人が権利を取得します。
異議を留めない承諾と抗弁事由
1. 債権譲渡と抗弁事由
債権譲渡の通知が到達する前に発生したものである限り、債務者は、譲渡人に対する抗弁事由を譲渡人に対して主張できます。
例えば、譲渡通知の到達前に債務者が譲渡人に弁済したりして、債権が消滅していた場合には、債務者は、それを主張して譲受人から弁済請求を拒絶することができます。
2. 異議を留めない承諾
ところが、債務者が異議を留めずに債権譲渡を承諾すると、債務者は、それまで譲渡人に対して主張できた抗弁事由を譲渡人に主張できなくなります。
民法468条
1項
債務者が異議をとどめないで前条の承諾をしたときは、譲渡人に対抗することができた事由があっても、これをもって譲受人に対抗することができない。この場合において、債務者がその債務を消滅させるために譲渡人に払い渡したものがあるときはこれを取り戻し、譲渡人に対して負担した債務があるときはこれを成立しないものとみなすことができる。
例えば、譲渡人に対して弁済し、債権が消滅していても、異議を留めないで承諾をすると、債権の消滅を譲渡人には主張できなくなり、譲受人との関係では、一旦消滅したはずの債権が復活したことになるのです。
次は民法の「債権不履行」について紹介しています。
➡【リンク】9. 債権不履行
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