2019年9月22日日曜日

【行政書士試験・民法】6. 所有権と占有権

6. 所有権と占有権





今回は所有権と占有権について紹介したいと思います。





所有権


所有権とは


所有権とは、特定のものを全面的に支配する権利のことです。所有権は物に対する全体的な支配権であり、所有者は、自由に物を使用収益したり、処分したりすることができます。ただし、法令の範囲内という制限があります。


相隣関係:そうりんかんけい


1. 境界


土地の所有者にとって、問題となるのが、お隣との関係(相関関係)です。両者の境界をはっきりとするために、土地の所有者は隣地所有者と共同で境界を表示する物(境界標)を設置することができます。設置費用および保存費用は、両者が同じ割合で(半分ずつ)負担しますが、測量費用は、土地の広さに応じて負担します。


2. 建物と境界線


建物は、境界線から50cm以上離して築造しなければなりません。これに違反する場合、隣地の所有者は、建築を中止させたり、変更させたりすることができます。ただし、その建物の完成後は、損害賠償を請求できるだけです。また、建物の着手時から1年を経過した場合も同様です。


3. 隣地の使用等


土地の所有者は、隣地との境界またはその付近で、障壁や建物を築造したり修繕したりするのに必要な範囲内で隣地の使用を請求することができます。ただし、隣人の住居に立ち入るためには、そのものの承諾が必要です。
土地の高低のために、隣地から自然に水が流れてきた場合、それを受諾しなければなりません。隣地の竹木の枝が境界線を越えて侵入してきた場合、その所有者に対して切り取るように請求できます。そして、侵入してきたのが根の場合は、自分で切り取ることができます。


周囲の土地の通行権


他の土地に囲まれて公道に通じない土地を「袋地」といい、囲んでいる方の土地を「囲繞地;いにょうち」といいます。

袋地の所有者は、公道に出るために、民法210条では通行することができるとされています。この民法210条に規定されている「公道に至るための他の土地の通行権」が囲繞地通行権といいます。

民法210条 
他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は、公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる。 
2 池沼、河川、水路若しくは海を通らなければ公道に至ることができないとき、又は崖がけがあって土地と公道とに著しい高低差があるときも、前項と同様とする。

民法210条は、「他の土地に囲まれて公道に通じない土地の所有者は公道に至るため、その土地を囲んでいる他の土地を通行することができる」としています。通行権を有する者は、必要があるときは、道路を開設することもできます。通行の場所や方法は道場の規定による通行権を有する者のために必要であり、かつ、他の土地のために損害が最も少ない方法を選ばなければなりません。このさいに通行する他の土地の「損害」に対してお金を払わなければなりません。この、他人に与えた損害を償うために払うお金「償金;しょうきん」といいます。

袋地が、共有物の分割によって生じた場合や土地の一部譲渡によって生じた場合には、分割・譲渡の残余地についてのみ、無償での通行権が発生します。


所有権の取得方法


1. 所有権の原始取得


所有権を取得するのは、売買などの契約や相殺によって他人の所有権を引き継ぐ場合(承継取得)だけでなく、新たに所有権を取得する場合(原始取得)もあります。原始取得の代表的な例は、時効による所有権の取得です。

2. 無主物の先占(せんせん)


無主物の先占とは、誰の所有物にもなっていない物を所有の意思で占有することをいいます。「無主物」が誰のものにもなっていない物を意味し、「先占」とは他人より早く占有することを意味します。所有者のない動産を、所有の意思を持って占有すると、その所有権を原始取得します。
民法239条 
所有者のない動産は、所有の意思をもって占有することによって、その所有権を取得する。2 所有者のない不動産は、国庫に帰属する。

無主物先占の対象は、動産だけであり、無主の不動産は国庫に帰属します。


3. 遺失物の拾得・埋蔵物の発見


落し物などの遺失物は、遺失物法に従って公告後3ヶ月以内に所有者が判明しないと、拾った人(拾得者)が所有権を原始取得します。
※遺失物・・・所有していた人から見た、落とした物のこと
※拾得物・・・拾った人から見た、落し物のこと

民法240条 
遺失物は、遺失物法(平成十八年法律第七十三号)の定めるところに従い公告をした後三箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを拾得した者がその所有権を取得する。

また、埋蔵物も、遺失物法に従って公告後6ヶ月以内に所有者が判明しないと、発見者が所有権を原始取得します。ただし、他人のものの中から発見された埋蔵物は、発見者とその物の所有者が折半します。

民法241条 
埋蔵物は、遺失物法の定めるところに従い公告をした後六箇月以内にその所有者が判明しないときは、これを発見した者がその所有権を取得する。ただし、他人の所有する物の中から発見された埋蔵物については、これを発見した者及びその他人が等しい割合でその所有権を取得する。


4. 付合


不動産に従として付合(くっついて分離できない、または分離が相当でない)した動産は、不動産の所有者に帰属します。ただし、付合が権原(所有権を留保する法律上の正当な根拠)に基づくものであり、かつ、その動産が独立性を維持している場合は、その動産の所有権は、元の所有者にあります。

民法242条 
不動産の所有者は、その不動産に従として付合した物の所有権を取得する。ただし、権原によってその物を附属させた他人の権利を妨げない。

所有者の異なる複数の動産が付合(分離することができない、または分離に過去の費用を要する)した場合、合成物の所有権は、主たる動産の所有者にあります。

民法243条 
所有者を異にする数個の動産が、付合により、損傷しなければ分離することができなくなったときは、その合成物の所有権は、主たる動産の所有者に帰属する。分離するのに過分の費用を要するときも、同様とする。

ただし、付合した動産の主従を区別できない場合には、付合当時の各動産の価格割合による共有となります。

民法244条 
付合した動産について主従の区別をすることができないときは、各動産の所有者は、その付合の時における価格の割合に応じてその合成物を共有する。


5. 加工


他人のものに工作を加えた場合(加工)、加工物の所有権は、材料の所有者にあるのが原則です。ただし、工作によって材料価格を大きく上回る価値がそう自他場合には、加工者のものになります。


共有


共有とは何か


共有とは、複数の人が、一つのものの上に均質な支配権を及ぼす場合をいいます。例えば、AさんとBさんがお金を出し合って事務所を買い、両者がその事務所に対して均質な支配権を及ぼすというのが共有の例です。


持分


共有者が目的物の上に有する権利を持分といいます。持分の割合は、各共有者とも同じと推定されています。

民法250条 
各共有者の持分は、相等しいものと推定する。

明文の規定はないですが、持分には、譲渡性が認められています。各共有者は、その持分を自由に譲渡することができます。また、持分を放棄することもできます。共有者の1人が持分を放棄すると、その持分は他の共有者に帰属します。
民法255条 
共有者の一人が、その持分を放棄したとき、又は死亡して相続人がないときは、その持分は、他の共有者に帰属する。


共有物の使用収益


共有者は、各々1個の所有権を持っており、共有物全部について使用収益をすることができます。共同で事務所を買ったAさんとBさんは、それぞれが事務所を全部使えるのです。しかし、共有状態にありますから、その使用収益は、各人の持分の割合に応じたものでなければなりません。
民法249条 
各共有者は、共有物の全部について、その持分に応じた使用をすることができる。


共有物の変更


共有物を変更するには、共有者全員の同意が必要です。

民法251条 
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。

共有物の変更とは、共有者の使用収益権能を制限する結果になることをいいます。
例;共有物の売買契約の締結やその解除


共有物の利用・改良行為・保存行為


共有物の管理に関する事項(利用・改良行為)は持分価格の過半数で決するのが原則です。

民法252条 
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。

共有物の分割請求


各共有者はいつでも分割請求を行い、共有状態を解消することができます。ただし、5年以内の期間であれば、不分割特約を締結することもできます。分割方法について、共有者間で協議がまとまらない場合には、裁判所に分割を請求できます。

民法258条 
共有物の分割について共有者間に協議が調わないときは、その分割を裁判所に請求することができる。 
2 前項の場合において、共有物の現物を分割することができないとき、又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは、裁判所は、その競売を命ずることができる。

裁判による分割の方法は、原則として現物分割です。



占有権


占有権とは何か


占有とは、対象となるものを自分の支配下に置いていることです。この占有に基づいて認められている物権が占有権です。


代理占有と占有権


1. 代理占有とは何か


他人(占有代理人)を通じて、間接的に物を支配していることを代理占有(間接占有)といいます。代理占有(間接占有)によっても、本人に占有権が認められます。例えば、賃貸人は、賃借人を通じて間接的に賃借物を支配しています。そのため、賃貸人には、賃貸物の占有権が認められます。


2. 占有代理人


占有代理人は、本人との占有代理関係に基づき、物を支配していますが、その支配には、独立性があります。そのため、占有代理人にも、独立した占有が認められています。


占有訴権


1. 占有訴権とは何か?


占有訴権(占有の訴え)とは、事実的に支配の解決を目的とするものであり、

①占有回収の訴え
②占有保持の訴え
③占有保全の訴え

という3種類の占有権があります。占有訴権は、占有者であれば誰にでも認められます。悪意の占有者や、泥棒にも認められます。また、直接占有者だけでなく、間接占有者も行使できます。

2. 占有回収の訴え


占有者の意思に反して所持が奪われた場合、占有者は、占有回収の訴えにより、そのものの返還請求ができます。占有回収の訴えを提起できるのは、占有者の意思に反して所持が奪われた場合です。騙し取られたり、落としたりして占有を失っても、占有回収の訴えを提起することはできません。
占有回収の訴えは、現在、その物を所持しているものに対して提起します。奪った人(侵奪者)だけでなく、悪意の特定継承人に対しても、提起できますが、善意の特定継承人には提起できません。

民法200条 
1項 
占有者がその占有を奪われたときは、占有回収の訴えにより、その物の返還及び損害の賠償を請求することができる。 
2項 
占有回収の訴えは、占有を侵奪した者の特定承継人に対して提起することができない。ただし、その承継人が侵奪の事実を知っていたときは、この限りでない。

占有回収の訴えは、奪われたときから1年以内に提起しなければなりません。


3. 占有保持の訴え


占有を妨害された場合、占有者は、占有保持の訴えにより、妨害者(現に占有を妨害している者)に対して妨害者の費用で妨害を排除するように請求することができます。占有保持の訴えは、妨害が存在する間または妨害消滅後1年以内に提起しなければならないのが原則です。


4. 占有保全の訴え


占有保全の訴えとは、占有者が、占有を妨害する恐れのあるものに対して妨害の予防または損害賠償の担保を請求する権利です。

民法199条 
占有者がその占有を妨害されるおそれがあるときは、占有保全の訴えにより、その妨害の予防又は損害賠償の担保を請求することができる。

占有保全の訴えは、妨害の危険がある限り提起できるのが原則です。


5. 占有訴権と本権の訴え


占有訴権は、所有者などの本権(物を支配できる権原)の訴えとは独立したものであり、一方で敗訴しても、他方を提起することができます。また、占有訴権は、本権の訴えとは独立していますから、それを本権に基づいて判断することはできません。例えば、占有回収の訴えの相手方に所有権等の本権があっても、それを理由に占有回収の訴えを否定することはできないのです。


占有物の返還と占有者の利益調整


1. 果実


果実とは、物(元物)から得られる経済的利益のことです。善意の占有者は、占有物から生じた果実を取得することができます。善意の占有者は、占有物の返還を求められても、果実は返還する必要がないのです。
これに対して、悪意の占有者は、占有物の返還を求められた場合には、果実も返還しなければなりません。果実を消費したり、過失によって損傷したり、収取を怠ったりした場合には、果実の代価を返さなければ(償還)ならないのです。

民法190条 
悪意の占有者は、果実を返還し、かつ、既に消費し、過失によって損傷し、又は収取を怠った果実の代価を償還する義務を負う。 
2 前項の規定は、暴行若しくは強迫又は隠匿によって占有をしている者について準用する。


2. 占有物の滅失・毀損による損害賠償


占有を正当化する権原(本権)のない占有者が、その帰責事由によって占有物を滅失・毀損された場合、占有物の返還を求めた回復者に対して損害賠償をしなければなりません。賠償の範囲は、悪意の占有者なら、全損害です。善意の占有者なら、現に利益を受けている程度でよいとされています。


3. 支出した費用の償還請求


占有物を返還する場合、占有者は、返還を求めた相手方(回復者)に対して、支出した必要費の返還を請求することができます。

民法196条 
占有者が占有物を返還する場合には、その物の保存のために支出した金額その他の必要費を回復者から償還させることができる。ただし、占有者が果実を取得したときは、通常の必要費は、占有者の負担に帰する。 
2 占有者が占有物の改良のために支出した金額その他の有益費については、その価格の増加が現存する場合に限り、回復者の選択に従い、その支出した金額又は増価額を償還させることができる。ただし、悪意の占有者に対しては、裁判所は、回復者の請求により、その償還について相当の期限を許与することができる。

これに対して、有益費の償還を請求できるのは、価格の増加が現存している場合だけです。しかも、その額は支出額と価格の増加額のうち、回復者が選択した方とされています。さらに占有者が悪意の場合には、裁判所が相当の期限を許与できるため。直ちに償還してもらえるとは限りません。


次は民法の「担保物権」について紹介しています。
➡【リンク】7. 担保物権


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