2020年5月19日火曜日

大阪市売春取締条例事件って何?行政書士試験の重要判例・・地方自治法14条およびそれに基づく本件条例は、罪刑法定主義を定めた憲法31条に違反しないか?

大阪市売春取締条例事件/最大判昭37.5.30




大阪市売春取締条例事件の内容


Aさんは、売春を行う目的で大阪市内において通行人を勧誘したことから「街路等における売春勧誘行為等の取締条例」の2条1項に違反したとして起訴されましたが、Aさん側は、本件条例違反者に対する罰則の根拠となる地方自治体法14条1項および3項(当時の5項)は、条例に対する授権の範囲が不特定かつ抽象的であり、その結果、一般に条例でいかなる事項についても罰則を付することが可能となるから、罪刑法定主義を定めた憲法31条に違反するものであるとして、無罪を訴えた。

地方自治体法14条 
1項 
普通地方公共団体は、法令に違反しない限りにおいて第2条第2項の事務に関し、条例を制定することができる。 
3項 
普通地方公共団体は、法令に特別の定めがあるものを除くほか、その条例中に、条例に違反した者に対し、二年以下の懲役若しくは禁錮、百万円以下の罰金、拘留、科料若しくは没収の刑又は五万円以下の過料を科する旨の規定を設けることができる。


憲法31条 
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。


大阪売春事件の争点


法令に特定の定めがあるものを除くほかは、地方公共団体がその条例の中に条例違反者に対して、一定範囲の刑罰を科する旨の規定を設けることができると定める地方自治法14条およびそれに基づく本件条例は、罪刑法定主義を定めた憲法31条に違反しないか?


判決のポイント


憲法31条に違反しない。

条例で刑罰を定める場合は、法律の授権が相当な程度に具体的であり、限定されていれば足りる。

地方自治法14条3項のように、限定された刑罰の範囲内で条例をもって罰則を定めることができるとしたのは、憲法31条の法律の定める手続きによって刑罰を科すもので、同条に違反しない。



➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和31(あ)4289

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2020年3月20日金曜日

皇居前広場事件って何?行政書士試験の重要判例・・特定の期日に対する訴えの利益は、その期日を経過すれば喪失するか?

皇居前広場事件/最大判昭28.12.23

最終更新日:2020年3月20日




今回は、特定の期日における公園の使用を求める申請に対する不許可処分の取消訴訟は、当該期日の経過により判決を求める法律上の利益が失われるかどうかが問われた皇居前広場事件について紹介したいと思います。

皇居前広場事件の内容


昭和26年(1951年)の日本は、講和問題や賃上げ問題などをめぐって全般的に労働運動・学生運動が復活の動きを見せた年であり、全国で労働運動が高揚していました。日本最大の労働組合だった日本労働組合総評議会は、昭和26年11月10日付で、昭和27年5月1日のメーデーのために皇居外苑の使用許可を求める申請を厚生大臣(今の厚生労働大臣にあたる)にしましたが、大臣は、国民公園管理規則4条に基づき、昭和27年3月13日にこれを不許可としました。このため、評議会は、当該処分が表現の自由を保障する憲法21条や就労者の団結権を保護する憲法28条に違反しているとして、その取り消しを求めて出訴しましたが、その訴訟の係属中(ある事件が裁判所で訴訟中であること)に本件申請に関わる同年5月1日が経過したことから、第二審の東京高等裁判所は、それにより原告が処分の取り消しを求める権利保障の利益がなくなったとして請求を棄却した為、日本労働組合総評議会が上告した事件です。


皇居前広場事件の争点


公園使用についての不許可処分の取り消しを求める訴えについては、使用すべき日が経過することにより判決を求める法律上の利益が失われることなるか?


判決のポイント


特定の期日における公園の使用を求める申請に対する不許可処分の取消訴訟は、当該期日の経過により判決を求める法律上の利益が失われる。

本件では、「5月1日」が過ぎれば、訴えの利益がなくなるということになる。



➡【リンク】最高裁判所HP・・  昭和27(オ)1150

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2020年3月3日火曜日

交通反則金の納付通告と取消訴訟って何?行政書士試験の重要判例・・反則金の納付通告は、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟の対象となるか?

交通反則金の納付通告と取消訴訟/最判昭57.7.15


警視庁HPより抜粋


交通反則金の納付通告と取消訴訟の内容


大阪府警の警察官から駐車違反の事実を指摘されたAさんは、それが自己の行為によるものではないことを主張したため、現行犯逮捕され身柄を拘束された。そのためAさんは、早期釈放を願って翌日に反則金を仮納付し釈放されたが、後日、大阪府警察本部長から仮納付を本納付とみなす効果を持つ反則金納付通告を受けた。

そこで、Aさんは、駐車違反者につき事実誤認があることを理由として、当該反則金納付通告の取り消しを求めて出訴した。


交通反則金の納付通告と取消訴訟の争点


道路交通法127条1項の規定に基づく反則金の納付通告は、行政事件訴訟法に基づく取消訴訟の対象となるか?


判決のポイント


交通反則通告制度は、反則金の納付の通告を受けた者が任意に反則金を納付したときは刑事訴追を行わないが、一定期間内に反則金の納付がなかったときは本来の刑事手続きを遂行させることとする制度である。通告を受けた者がその自由意志により通告に係る反則金を納付したときは、抗告訴訟によってその効果を覆すことは許されず、当該通告の理由となった反則行為の不成立を主張したいのであれば、反則金の納付をしないまま、後日の公訴提起を待って刑事訴訟手続の中で争うべきである。

したがって、当該通告に対して行政事件訴訟法による取消訴訟を提起することは、不適法である。



➡【リンク】最高裁判所HP・・ 昭和55(行ツ)137



2020年2月9日日曜日

宝塚市パチンコ条例事件って何?行政書士試験の重要判例・・地方公共団体が行政権の主体として、国民に行政上の義務の履行を求める訴訟は、法律上の訴訟に当たるか?

【重要判例】宝塚市パチンコ条例事件/最判平14.7.9




今回は、地方公共団体が行政権の主体として、国民に行政上の義務の履行を求める訴訟は、法律上の訴訟に当たるかが問われた「宝塚市パチンコ条例事件」について紹介したいと思います。


宝塚市パチンコ条例事件の内容


兵庫県の宝塚市長は、同市パチンコ店等の建築等を規制する条例(8条)に基づき、同市内においてパチンコ店を建築しようとするAさんに対して、建築工事の中止命令を発したが、Aさんがこれに従わなかったために、宝塚市BがAさんに対し、工事を続行してはならないことを求める民事訴訟を提起した事件です。


宝塚パチンコ条例事件の争点


地方公共団体が行政権の主体として国民に行政上の義務の履行を求める訴訟は、法律上の訴訟に当たるか?


判決のポイント


地方公共団体が行政権の主体として国民に行政上の義務の履行を求める訴訟は、法律上の訴訟に当たる。

法律上の争訟として当てはまるものは
財産権の主体
行政権の主体(法律に特別な規定がある場合)

今回のケースは、財産権の主体とした訴えではなく。行政権を主体とした訴えでした。

地方公共団体が行政権の主体として、国民に行政上の義務の履行を求める対象は、法律上の争訟に限られ、国又は地方公共団体が、財産権の主体ではなく、もっぱら行政権の主体として国民に対して行政上の義務の履行を求める訴訟は、法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであって、自己の権利利益の保護救済を目的とするものではないから、法律に特別の規定がない限り、裁判所の審判の対象とはならない。

高速増殖炉もんじゅ原発訴訟って何?行政書士試験の重要判例・・行政事件訴訟法36条にいう「法律の利益を有するもの」とは?

【重要判例】高速増殖炉もんじゅ原発訴訟/最判平4.9.22


国立研究開発法人
日本原子力研究開発機構 HPより抜粋



今回は、「高速増殖炉もんじゅ原発訴訟」について紹介したいと思います。


高速増殖炉もんじゅ原発訴訟の内容


内閣総理大臣が行った福井県敦賀市に設置予定の高速増殖炉「もんじゅ」に関する原子炉設置許可処分に対して、付近住民らが「もんじゅ」の設置稼働により、生命身体を損傷させる等の重大な被害を受けるとして、設置許可処分の無効確認を求めて出訴した。

行政事件訴訟法9条 
1項 
処分の取消しの訴え及び裁決の取消しの訴え(以下「取消訴訟」という。)は、当該処分又は裁決の取消しを求めるにつき法律上の利益を有する者(処分又は裁決の効果が期間の経過その他の理由によりなくなつた後においてもなお処分又は裁決の取消しによつて回復すべき法律上の利益を有する者を含む。)に限り、提起することができる。 
2項 
裁判所は、処分又は裁決の相手方以外の者について前項に規定する法律上の利益の有無を判断するに当たつては、当該処分又は裁決の根拠となる法令の規定の文言のみによることなく、当該法令の趣旨及び目的並びに当該処分において考慮されるべき利益の内容及び性質を考慮するものとする。この場合において、当該法令の趣旨及び目的を考慮するに当たつては、当該法令と目的を共通にする関係法令があるときはその趣旨及び目的をも参酌するものとし、当該利益の内容及び性質を考慮するに当たつては、当該処分又は裁決がその根拠となる法令に違反してされた場合に害されることとなる利益の内容及び性質並びにこれが害される態様及び程度をも勘案するものとする。

行政事件訴訟法36条 
無効等確認の訴えは、当該処分又は裁決に続く処分により損害を受けるおそれのある者その他当該処分又は裁決の無効等の確認を求めるにつき法律上の利益を有する者で、当該処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無を前提とする現在の法律関係に関する訴えによつて目的を達することができないものに限り、提起することができる。


高速増殖炉もんじゅ原発訴訟の争点


取消訴訟における原告適格は、いかなる要素を考慮して判断すべきか?

設置許可申請に係る原子炉(高速増殖炉)から約29kmないし約58kmの範囲内の地域に居住している住民は、原子炉設置許可処分の無効確認を求めるにつき行政事件訴訟法36条にいう「法律の利益を有するもの」に該当するか?

判決のポイント


当該放棄の趣旨・目的のみならず、保護しようとする利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。

行政事件訴訟法9条にいう「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利もしくは法律上保護された利益を侵害されまたは必然的に侵害される恐れのあるものをいうのであり、当該処分を定めた行政法規が不特定多数者の具体的利益を公益としてだけでなく、個々人の個別的利益としても保護する主旨を含む場合には、かかる利益も右にいう法律業保護された利益にあたる。行政法規が右の主旨を含むかは、当該放棄の趣旨目的・当該放棄が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである。原子炉設置許可基準の各規定は、単に公衆の生命、身体の安全、環境上の利益を一般公益として保護しようとするにとどまらず、原子炉施設周辺に居住し、右事故等がもたらす災害により直接的かつ重大な被害を受けることが想定される範囲の住民の生命、身体の安全等を個々人の個人的利益としても保護するものとする主旨をも含むと解する。




京都府立医大学生放学処分事件って何?行政書士試験の重要判例・・公立大学の学生に対する懲戒処分は、学長の覊束裁量行為と解するべきか?それとも自由裁量行為と解すべきか?

京都府立医大学生放学処分事件

(公立大学の学生に対する懲戒処分)

/最判昭和29.7.30




今回は、公立大学の学生に対する懲戒処分は、学長の覊束裁量行為と解するべきか?それとも自由裁量行為と解すべきか?が争われた「京都府立医大学生放学処分事件」について紹介したいと思います。


京都府立医大学生放学処分事件の内容


京都府立医科大学附属女子専門部の教授会は、同専門部に属するA教授の身体問題を審議するための会議を開こうとしたが、A教授の解雇反対を主張する学生たちによって会議室は混乱し、教授会は流会となった。このため、京都府立医科大学学長Yは、専門部教授会における学生たちの行為は学生の本文にもとり学内の秩序を乱すものであるとして、本科の学生5名(Xら)の懲戒処分を行った。
これに対して、Xさんらは、当該懲戒処分は学長としての裁量権の範囲を逸脱した違法なものであるとして、本件放学処分の取り消しを求めて出訴した。


京都府立医大学生放学処分事件の争点


公立大学の学生に対する懲戒処分は、学長の覊束裁量行為と解するべきか?それとも自由裁量行為と解すべきか?


京都府立医大学生放学処分事件の判決のポイント


公立大学の学生の行為に対して懲戒処分を発動するかどうか、および懲戒処分のうちいずれかの処分を選ぶかを決定することは、その決定が全く事実上の根拠に基づかないと認められる場合であるか、または社会観念上著しく妥当を欠き懲戒権者としての裁量権の範囲を超えるものと認められる場合を除き、学長の裁量権に任される、つまり、学長の自由裁量行為である。


➡【リンク】最高裁判所HP・・    昭和28(オ)525

2020年2月8日土曜日

下関商業高校事件って何?行政書士試験の重要判例・・執拗な退職勧奨(たいしょくかんしょう)は、国家賠償法に基づく慰謝料請求の対象となるか?

下関商業高校事件

執拗な退職勧奨(たいしょくかんしょう)に対する

慰謝料請求/最判昭55.7.10


下関商業高校事件・執拗な退職勧奨(たいしょくかんしょう)に対する 慰謝料請求/最判昭55.7.10


下関商業高校事件の内容


下関市立商業高校に勤務するXら3人の教諭に対し、下関市教育委員会が退職勧奨の基準年齢である57歳になったことを理由に、2~3年にわたり退職勧奨を継続し、当該一連の行為により精神的苦痛を受けたとして、Xさん達が下関市に対して国家賠償法に基づく慰謝料の支払いを求めて出訴した。

※不当に退職を強要された例としては、勧奨に応じない旨を表明しているにもかかわらず、計10回以上、職務命令として市教育委員会への出頭を命じられたり、1名~4名の職員から20分から90分にわたって勧奨されたり、優遇措置もないまま退職するまで勧奨を続けると言われたり等のことが行われていたそうです。

下関商業高校事件の争点


執拗な退職勧奨は、国家賠償法に基づく慰謝料請求の対象となるか?


判決のポイント


対象となる

本来の目的である被勧奨者の自発的な退職意思の形成を促す限度を超える心理的圧力を加えた場合には、違法な権利侵害として不法行為を構成する。



➡【リンク】最高裁判所HP・・     昭和52(オ)405

2020年1月26日日曜日

川崎民商事件って何?行政書士試験の重要判例・・所得税法が規定する税務署による質問検査は、憲法35条に違反しないか?

【重要判例】川崎民商事件/最大判昭47.11.22


川崎民商事件って何?行政書士試験の重要判例・・所得税法が規定する税務署による質問検査は、憲法35条に違反しないか?


今回は、行政手続に憲法35条(令状主義)、憲法38条(不利益供述の強要禁止等)の規定が適用されるか?どうかが問われた川崎民商事件について紹介したいと思います。

川崎民商事件の内容


川崎税務署は、被告川崎民主商工会員Aさんの所得税確定申告に疑いを抱き、帳簿書類を検査しようとしたところ、Aさんはこれを拒み、検査拒否罪で起訴された。Aさんは、検査拒否罪は、憲法35条、38条に違反すると主張した。

憲法35条 
何人も、その住居、書類及び所持品について、侵入、捜索及び押収を受けることのない権利は、第三十三条の場合を除いては、正当な理由に基いて発せられ、且つ捜索する場所及び押収する物を明示する令状がなければ、侵されない。捜索又は押収は、権限を有する司法官憲が発する各別の令状により、これを行ふ。

憲法38条 
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
何人も、自己に不利益な唯一の証拠が本人の自白である場合には、有罪とされ、又は刑罰を科せられない。


川崎民商事件の争点


①所得税法が規定する税務署職員による質問検査は、裁判所の判断を経ることなく行政庁の判断だけで行えるとしている点で、捜索・押収には正当な理由に基づいて裁判所が発する令状が必要であるとする憲法35条に違反しないか?

②所得税法が規定する税務署職員による質問検査は、自己に不利益な供述の強要を禁止する憲法38条に違反しないか?


判決のポイント


憲法35条1項に違反しない。

刑事責任追及を目的としない手続きにおいて、一切の強制が憲法35条1項の保障の枠外にあると解すべきではないが、税務署職員による質問検査があらかじめ裁判所の発する令状によるべきことを一般要件としていなくても、憲法35条1項に違反しない。

憲法35条1項の規定は、本来、主として刑事責任追及の手続における強制について、それが司法権による事前の抑制の下に置かれるべきことを保障した趣旨であるが、当該手続きが刑事責任追及を目的とするものではないとの理由のみで、その手続における一切の強制が当然に右規定による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。


憲法38条に違反しない。

憲法38条1項による保障は、刑事手続き以外でも、それが実質上の刑事責任追及を目的とした資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続きには等しく及ぶ解するべきであるが、税務署職員による質問検査は、そのような手続には当たらないので、自己に不利益な供述を強要するものではない。

憲法38条1項による保障は、純然たる刑事手続においてばかりではなく、それ以外の手続においても、実質上、刑事責任追及のための資料の取得収集に直接結びつく作用を一般的に有する手続には、等しく及ぶものと解するものを相当とする。


➡【リンク】最高裁判所HP・・     昭和44(あ)734

2020年1月23日木曜日

個人タクシー事件って何?行政書士試験の重要判例・・事業免許申請の許否手続において抽象的な免許要件を定めていれば足りるか?行政庁は申請人に主張・立証の機会を与える必要があるのか?

【重要判例】個人タクシー事件/最判昭46.10.28


個人タクシー事件って何?行政書士試験の重要判例


今回は、事業免許申請の許否手続において抽象的な免許要件を定めていれば足りるか?行政庁は申請人に主張・立証の機会を与える必要があるのか?が問われた「個人タクシー事件」について紹介したいと思います。

個人タクシー事件の内容


Aさんは、陸運局長Bさんに対して、一般乗用旅客自動車運送事業(個人タクシー)免許申請を行なったが、道路運送法6条1項3号〜5号の用件に該当しないことを理由に申請が却下された。これに対し、Aさんは陸運局側はあらかじめ審査基準を定めてその内容を申請人に告知することにより申請人に主張と証拠提出の機会を与えるのべきにもかかわらず、それがなされないまま申請を却下したのは、職業選択の自由にかかわる法的利益を侵害するものであり違法であり違法であると主張し、Aさんは申請却下処分の取消しを求めて出訴した。


個人タクシー事件の争点


①個人タクシー事業の免許申請の許否手続において抽象的な免許要件を定めていれば足りるか?


②申請人に主張・立証の機会を与える必要があるのか?



判決のポイント


①抽象的な免許基準だけでは足りず、具体化した審査基準を設定しなければならない。


②申請人に主張・立証の機会を与える必要がある。


個人タクシー事業免許が個人の職業選択の自由に関わりを有すことと、道路運送法の規定を合わせ考えれば、多数のもののうちから少数特定の者を具体的個別的事実関係に基づき行政庁の判断を疑うことが客観的にもっともと認められるような不公正な手続きをとってはならず、法律上の抽象的な免許基準を具体化した審査基準を設定し、基準を適用する上で必要とされる事項について、申請人に主張と証拠の提出の機会を与えなければならない。


➡【リンク】最高裁判所HP・・    昭和40(行ツ)101


2020年1月22日水曜日

大阪国際空港公害訴訟って何?行政書士試験の重要判例・・営造物の設置又は管理の瑕疵とは何か?将来にわたって継続する不法行為を理由とする損害賠償請求は認められるのか?

【重要判例】大阪国際空港公害訴訟/最大判昭56.12.16




どうもTakaです。今回は、民事上の請求として、一定の時間帯につき航空機のの離着陸の為になされる国営空港の供用の差止を求めることはできるのか?営造物の欠陥以外の原因を理由として国家賠償法2条1項が規定する営造物の設置・管理の瑕疵を認定することは許される?将来にわたって継続する不法行為を理由とする損害賠償請求は認められるのか?が争点となった「大阪国際空港公害訴訟」について紹介します。


大阪国際空港公害訴訟の内容


大阪国際空港(現在の伊丹空港)は、昭和34年の開設以来、拡張を重ね、大型のジェット機が頻繁に離着陸するようになり、周辺の地域に深刻な騒音光害をもたらした。そこで。周辺住人は、空港の設置者である国に対し、国家賠償法2条1項に基づく午後9時から翌朝7時までの空港の使用差し止めと、過去及び将来に係る損害賠償の支払いなどを求めて出訴した。

国家賠償法2条 
1項 
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。


大阪国際空港公害訴訟の争点


国家賠償法2条1項の営造物の設置又は管理の瑕疵とは何か?

民事上の請求として、一定の時間帯につき航空機のの離着陸の為になされる国営空港の供用の差止を求めることはできるのか?

営造物の欠陥以外の原因を理由として国家賠償法2条1項が規定する営造物の設置・管理の瑕疵を認定することは許されるか?

将来にわたって継続する不法行為を理由とする損害賠償請求は認められるのか?


判決のポイント



国家賠償法2条1項の営造物の設置または管理の瑕疵とは、営造物が有すべき安全性を欠いている状態をいう。そこにいう安全性の欠如すなわち、他人に危害を及ぼす危険性のある状態とは、物的施設自体にある物理的、外形的な欠陥ないし不備によって危害を発生させる危険性がある場合だけではなく、その営造物が供用目的に沿って利用されることとの関連において危害を発生する危険性がある場合をも含み、また、その危害は、営造物の利用者に対してのみならず、利用者以外の第三者に対するそれをも含むものと解するべきである。

①求めることは認められない。

行政訴訟の方法により請求をすることはともかく、通常の民事請求として、一定の時間帯についての国営空港の供用の差し止めを求めることは認められない。


②許されない

営造物が通常有すべき安全性を欠いている状態には、営造物が供用目的によって利用されることとの関連において危害を生ぜしめる危険性がある場合も含む。つまり、飛行機の離発着による騒音公害も含むということ。また、その危害は、当該営造物の利用者以外の第三者に対するそれをも含む。つまり、周辺住民への被害も含むということ。


③認められない。

不法行為が将来も継続することが予想されても、損害賠償請求権の成否・額をあらかじめ一義的明確に認定できないなどの場合には、将来の給付の訴えとして損害賠償を求めることは認められない。



➡【リンク】最高裁判所HP・・   昭和51(オ)395

多摩川水害訴訟って何?行政書士試験の重要判例・・河川の安全性とは?また河川管理の瑕疵とは?

【重要判例】多摩川水害訴訟/最判平2.12.13


水害当時の写真 狛江市HPより抜粋 -悪夢のような多摩川堤防決壊


どうもTakaです。
今回は、改修済みの河川における安全性とは何かが問われた「多摩川水害訴訟」について紹介したいと思います。この水害に関しては、長年にわたって裁判で争われた事案で一審は原告の住民が勝訴。控訴審は国が勝訴したが、上告審で破棄差し戻しとなった。最終的には、差戻控訴審で住民が勝訴し、確定しました。今回は、上告審で示された、河川の安全性とは?また河川管理の瑕疵とはどう考えられるかに焦点を当てて、内容を紹介したいと思います。


多摩川水害訴訟の内容


多摩川は、昭和41年に河川法4条に基づき一級河川に指定され、同年7月に建設大臣が策定した「多摩川水系工事実施基本計画」に従って改修工事が実施されました。しかし、狛江市猪方地区については、「改修工事完成区画」とされて、新しい改修の計画はなされませんでした。

そんな中、昭和49年は夜から降り続いた豪雨により、多摩川は著しく増水し、堤防及びその後背地の一部が浸食されて家屋19棟が流されてしまいました。この時の洪水は過去に発生した洪水とほぼ同程度のものであり、そこで、この水害の被害者らは、河川を管理する国に対して、国家賠償法2条1項に基づく損害賠償を請求した。

国家賠償法2条 
1項 
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。


多摩川水害訴訟の争点


①河川の安全性とは何か?

②河川の改修整備がなされた後に水害発生の危険の予測が可能となっていた場合には、それについての河川管理の瑕疵はどのように考えるべきか?


判決のポイント


①河川の備えるべき安全性とは、一般に施行されてきた治水事業の過程における河川の改修・整備の段階に対応する安全性を持って足りるものとせざるを得ない。工事実施基本計画が策定され、右計画に準拠して改修・整備の必要がないものとされた河川の改修、整備の段階に対応する安全性とは、同計画に定める規模の洪水における流水の通常の作用から予測される災害の発生を防止するに足りる安全性をいうものと解すべきである。

②改修整備後に水害発生の危険の予測が可能になった場合の河川管理の瑕疵は、過去に発生した水害の規模や頻度の自然的条件、土地の利用状況その他の社会的条件、改修を要する緊急性の有無といった諸般の事情、河川管理における財政的・技術的・社会的制約を考慮した上で、当該危険の予測が可能となった時点から現実の水害発生時までの間にその危険に対する対策を講じるべきであったか否かを判断すべきである。

以上の①②の様に示されました。
➡【リンク】最高裁判所HP・・   昭和63(オ)791

2020年1月16日木曜日

川崎駅非番警察官強盗殺人事件って何?行政書士試験頻度の重要判例・・公務員の職務行為の範囲ってどこまで?

【重要判例】川崎駅非番警察官強盗殺人事件

(公務員の職務行為の範囲)/最判昭和31.11.30


【重要判例】川崎駅非番警察官強盗殺人事件 (公務員の職務行為の範囲)/最判昭和31.11.30


どうもTakaです。
今回は、公務員の行為が、外形から見て職務執行行為といえる場合、国家賠償法1条1項の職務を行うについて該当するかが問われた「川崎駅非番警察官強盗殺人事件」を紹介したいと思います。

川崎駅非番警察官強盗殺人事件の内容


警視庁の巡査Aは、非番の日に、川崎駅前で制服制帽を着たうえで、仕事を装って通行人を呼び止め、現金等を取り上げた後、その通行人を射殺した。そこで、被害者の遺族が東京都に損害賠償を請求した。

川崎駅非番警察官強盗殺人事件の争点


公務員の行為が、外形から見て職務執行行為といえる場合、国家賠償法1条1項の職務を行うについて該当するか?

国家賠償法1条 
1項 
国又は公共団体の公権力の行使に当る公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によつて違法に他人に損害を加えたときは、国又は公共団体が、これを賠償する責に任ずる。

判決のポイント


該当する


国家賠償法1条は、公務員が主観的に権限行使の意思を持ってする場合に限らず、自己の利を図る意思を持ってする場合でも、客観的に職務執行の外形を備える行為をして、これによって、他人に損害を加えた場合には、国または公共団体に損害賠償の責を負わしめて、広く国民の権益を擁護することをもって、その立法の趣旨とするものと解すべきである。


➡【リンク】最高裁判所HP・・  昭和29(オ)774

高知落石事件って何?行政書士試験の重要判例・・管理の瑕疵により損害が発生しても国・公共団体は賠償責任を免れるか?

【重要判例】高知落石事件/最判昭和45.8.20

【重要判例】高知落石事件/最判昭和45.8.20


どうもTakaです。
今回は、道路における防護柵等を設置することが予算上困難である場合、道路管理の瑕疵により損害が発生しても、国または公共団体は賠償責任を免れることができるかが
争点となった「高知落石事件」を紹介したいと思います。

高知落石事件の内容


高知県の山間部にある国道56号線を走っていたトラックに落石が直撃して、助手席に乗っていた人が死亡しました。この道路には以前から落石が多かったが、県は「落石注意」の標識程度の対策しか行っていませんでした。そこで、死亡した被害者の遺族が、事故は国道の管理者である国・県の道路管理に瑕疵があったことが原因であるとして、損害賠償を請求した事件です。

高知落石事件の争点


道路における防護柵等を設置することが予算上困難である場合、道路管理の瑕疵により損害が発生しても、国または公共団体は賠償責任を免れることができるか?

判決のポイント


免れない。


国家賠償法2条でいう設置管理の瑕疵とは、営造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいい、これに基づく国及び公共団体の賠償責任については、その過失の存在を必要としないとし、さらには落石の対策には予算が掛かり、管理する国や県が困ることにはなるが、だからといって莫大な費用が掛かることは免責事由とはならない。

国家賠償法2条 
1項 
道路、河川その他の公の営造物の設置又は管理に瑕疵があったために他人に損害を生じたときは、国又は公共団体は、これを賠償する責に任ずる。 
2項 
前項の場合において、他に損害の原因について責に任ずべき者があるときは、国又は公共団体は、これに対して求償権を有する。


➡【リンク】最高裁判所HP・・  昭和42(オ)921

2020年1月1日水曜日

【行政書士試験・一般知識】1. 政治(国家とは何か?)

1.政治(国家とはなにか?)



今回は一般知識の分野「国家」について勉強していきましょう。


国家ってなんだろう?


【行政書士試験・一般知識】1. 政治(国家とは何か?)


国家となる条件


国家とは、一定の地域とそこに住む住民に対して、他国の影響を排して権力を行使する政治組織のことをいいます。

現代における国家は次の3つの要素で成立しているといわれます。

国家の3要素

①領域・・領土・領海・領空

②国民・・そこに居住している住民

③主権・・領土と国民を統治する有効な政府


国家の体制


それでは、国家にはどのような種類の体制を持った国があるのでしょうか?それぞれ見てみましょう。

現在の民主的な世界では、立憲君主制と共和制が代表的な国家体制です。ただし、一部は軍事国家や独裁国家なども存在します。

1. 君主制


君主制は、国や皇帝など君主が支配する政治体制です。そのうち、君主の権力が制限されない政治体制を絶対君主国家(専制君主制)、憲法によって制限される政治体制を立憲君主国家といいます。

近代以降、君主国家は減少し、20世紀には、多くの国が君主制から共和制へと移行しました。


2. 共和制


君主を置かず、国民により選出されたリーダーによって国を統治する政治体制を共和制といいます。


民主主義の基本原理

民主主義には次の4つの基本原理があります。

①国民主権・・政治の主役が国民であること

②基本的人権の尊重・・国民の人権の保証

③権力分立則・・権力が1つに集中しないこと

④代議制・・国民が選んだ議員による政治


民主主義は住民が直接政治に参加する直接民主制と、国民が選挙で代表を選び、選ばれた議員が議会で政治を行う間接民主制に分けれらます。
すべての国民が直接政治に参加するのは現実的ではないことから、多くの国で間接民主制が採用されています。


近代国家とは?


近代の国家は、大きな流れとして次のように変わってきました。

18世紀から19世紀には多くの国が「夜警国家」と呼ばれる、
政治の役割が、安全保障や警察等に限られた、最低限に絞った、消極的な
ものでしたが、当時の社会は、資本主義社会へと移行しており、結局、資産を持っている人はより富み、貧しい人は貧しいままで、貧富の格差が拡大することとなりました。


この社会問題を議論し、社会権という概念が誕生します。
そして克服すべく、

20世紀に入っていくつかの国が「福祉国家」へと移ってきました。
すべての人が人間らしく、生活できるよう保障するのが国家の役割。国家が積極的に国民生活に関与する国家です。